第114話 性教育す妹だけど、どうにかしよう。

「何らしくない感じで悩んでるんだ、ノノ助」


 と、プールサイドに座る幼女のほっぺたを遠慮なく引っ張る日野さん。

 普通に通報案件だが、


「はぁ……」


 アンニョイっとしていて気にも留められていないからセーフのようだ。


「これは重症だわ」


 という訳で、三人で小学校プールである。

 今は、私、ノノちゃん、日野さんの順でプールサイドに座っている。


「日野さん、練習は?」

「京都市内の猛暑警報で野外演習が取りやめだから、こっち来たんだ。

 流石に学生を殺すようなことは時代遅れだ」


 確かに今日は三十七度を超えるとニュースにあった。

 それならばと思うが、


「初音さんが居ると思ってな」

「帰ってくださいね?

 私、誠一さんのモノですからね?」


 他の利用者からも弟君が居ないのに、何故、こっちに来ているのだろうか、っと視線を受けてもマイペースな日野さんである。

 不審者か何かで通報されてくれないのだろうか。

 さておき、


「ひのくんがいないの……。

 いつもならいっしょなのに……」


 なるほど、恋の病である。


「きっとあのおんなのところにいってるの……、ふふふ」


 とはいえ、ダークオーラを噴出ふきださないで欲しい。

 他の小学生がノノちゃんを観ると、見ないふりをしたり、恐怖で顔を染めたりするので非常に良くない。


「ノノちゃん、ノノちゃん」

「はい……?

 はつねーさん、なんでしょう……?」

「お姉さんとちょっとお勉強しようか?」

「お勉強?」


 キョトンとした眼で私を観てくるノノちゃん。


「おむねおおきくなる?」

「なりません」


 ムンズと掴まれて少し痛い。

 女性同士とはいえ、やめて欲しい。

 というか、男子生徒たち、その様子を観て「ぉお……」とか感嘆の声をあげないで欲しい。


「日野さん、女同士の会話になるんでどっか行って貰っていいですか?

 出来れば帰ってください」

「……」


 私を一瞥する彼は、


「判った。

 ちょっと泳いでくる」


 と珍しく、素直に判ってくれる。

 流石に、私のやることを察してくれたらしい。

 空気読めるのに、その上で無視してくるのが日野さんだが、そういう所を正してくれればと思う。

 そういう所がイイと言う人も多いのだが、私には判らない。


「はぁ……」

「はつねーさんおつかれ?」


 ノノちゃんに心配されてしまう。

 いかんいかん。


「ノノちゃん、日野君の胸を触るのは控えてる?」

「うん!

 さわってもらうのもなし!」


 満面の笑みで言ってくれるので一安心だ。


「じぶんではちょっとするけど……」


 モジモジと素直に述べてくれる。

 下世話な話で言うと、自慰行為であり、この前の話もあってか罪悪感が顔に浮かんでいる。


「本来、こういう話は姉ぇの方が向いているんだけど……」


 何だかんだ、私の性の目覚めは近年、急にであってあまり参考にならない。

 姉ぇに言わせれば、覚えたての犬とでもひょうされそうである。

 さておき、


「えっとね、それはマスターベーションていう行為なんだよ」

「ますたーべーしょん?」


 という訳で、姉ぇに聞いてきた訳でしてね?

 ちゃんと教えることが重要らしい。

 私みたいにならないようにと言っていたので、複雑な気分だ。


「先ずは間違った行為じゃないの。

 私も気持ちよくなるし」

「はつねーさんも?」

「うん」


 同族を見つけたからか、パッと笑顔が綻ぶノノちゃん。

 先ずは相手の立場に目線を合わせることだ。

 これは私が小学生相手に学んだことで、相手が受け入れやすくなってくれる効果がある。


「女の子はね、優しく、胸と股の間を触ると気持ちよくなっちゃうものなの」

「そうなの?」

「そうなの」


 オウム返しだ。

 これにも相手の警戒を解く効果があるのは経験上知っている。


「ちゃんと、自分の体を知ることが悪い事じゃないの」

「じぶんのからだをしる……」


 なやむノノちゃん。


「例えば、自分のことを知れば、何処を伸ばせばいいか判るよね?」

「たしかにー」

「それにね……」

「?」


 私は目の前の少女に言うべきか、少し悩んで結局、教えることにする。


「気持ちいいことはちゃんと知らないと、それに振り回されちゃうの」


 続ける。


「私ね、知らない人に無理矢理、気持ちよくさせられたことがあるの。

 それまで、エッチなことをしなかった私はその刺激に流されそうになって取り返しのつかないことになりそうだったの」


 手を観ると、ちょっと震えてしまっている自分がいる。


「だいじょうぶ?」

「うん、だいじょうぶ」


 まだ、これに関しては感情を引きずっていることがよくわかる。


「気持ちいいことをちゃんと知ることで、自分がどうしたらどうなるかが判って、コントロール出来るようになるの」


 ともあれ、私は胸を指差し、次に股間を指し示す。


「だから、先ずノノちゃんはこことここを触るのは基本的にプライベートな行為だって覚えて欲しいんだよ?」

「ぷらいべーと?」

「そ、自分のための行為。

 それが自分で触って気持ちよくなるために行うのがマスターベーション。

 例えば、日野君以外に、裸とか見られるのどう思う?」

「……みてほしくない」

「だよね?

 この前、日野君に触らせる行為も隠れようとしてたよね?」

「うん」

「それと同じで、マスターベーションも他の人から見られないように、干渉されないようにプライベートを確保しなきゃいけない行為なの」

「なるほど……」


 賢いノノちゃんだ、自分が何故そうしたかに思い至ったのか、頷いてくれる。


「それとね、いくら気持ちいいからといって、それだけを求めたり、ストレスの発散に使い過ぎるのは他のことが蔑ろになっちゃうのは駄目なの。

 幾ら自分だけのプライベートだからって、ご飯食べたり、勉強とかを、忘れちゃいけないの。

 何事も程々に、……これは前も言ったかな?」


 恋を確かめる手段として錯覚してしまうことに被っている気がする。

 さておき、


「その上で、日野君に触って欲しいと思うのは普通のことだと思うの」

「……?」


 疑問という顔で幼い顔が見てくる。


「私も誠一さんには触って欲しいと思うし、触って貰っているし」

「……おむねでゆーわく?」

「ノノちゃんもきっと大きくなるから、あまりコンプレックスに感じる必要は無いと思うけどね……」


 っと、私は彼女の頭に手を乗せて撫でる。

 くすぐったそうに震えてくれるのは可愛らしい。


「話を戻すと、プライベートに立ち入って欲しい、自分をもっともっと知って欲しい相手が居るのは確かに良い事なんだよ。

 気持ちとしては確かに恋だと思う」

「うん……ノノはひのくんにさわってほしい……♡」


 と、甘い吐息を零す小学二年生。

 ちゃんと女だということだ。

 正直、どうかと思う私も居るが、否定ばかりをしていた結果が私だ。

 私自身、私が間違っていたことは良く判っている。


「でもね、先ず、時と場所を考えること。

 これはマスターベーションと同じ考え。

 あと、ちゃんと相手の同意を取ること。

 幾ら自分が好きだ、好きだと言っても相手にも好いて貰わないと依存になっちゃって恋が遠のくんだよ」

「いぞん?」

「そう、依存。

 好きだからっていう気持ちや言葉を言い訳にして、犯罪とか、良くないことをしちゃう状態のこと。

 幾ら好きと言っても、他の人を殺したりしたら犯罪でしょ?」

「たしかに……あのかおくろいひとをころしたらノノつかまる?」


 具代的な対象と行動を出す時点で相当鬱憤が溜まってるんじゃないかな……ヒヤヒヤしてしまう。


「捕まる。

 犯罪者になったノノちゃんは日野君はどう思う?

 よしんば、日野君は大丈夫と言ってくれても他の人はそんな日野君をどう思う?

 優しい人だとは思わない。

 犯罪者のノノちゃんと同じだと観ちゃうんだよ?

 悲しいよね?」

「かなしいし、いやぁ……」

「だから、ちゃんと考えなきゃダメなの」


 とはいえ、私自身、姉ぇ以外の人が誠一さんを盗っていった場合、どうなるか判らない訳だが。

 そんな内心を隠しつつ、


「これは好きと言う感情以外にも、気持ちいいから何でも、何処でもしちゃう状態にも言えて、こっちは性依存て言うの。

 だからちゃんと自分の体を知ってコントロールしなければならないの。

 これは私が好きでも無い人に体を許してしまいそうになったから判るの」


 全くもって私の事である。


「彼への依存になっても、性依存になってもこの前の話と一緒で、愛が止まっちゃうでしょ?

 一方的な押し付けや暴走をするばかりで、そこで止まっちゃうから」

「……たしかに……」


 理論は判るが、納得の域までは行っていない感じだ。

 悩みが見えるが、こればかりは実地経験だ。

 とはいえ、痴漢にあって欲しい訳ではなく、少しずつ自分と対話して言って欲しいのだ。


「それとね、ノノちゃん」


 小学二年生に言うべきことかと悩みつつも私は続ける。


「異性の人に体を触って貰う行為は、子供を作る行為の前段階なの」

「こども……?」


 私のその言葉にノノちゃんが驚きで、その黒い眼を見開いて私を観てきた。

 流石に予想外だったらしい。

 そう言った所は、少女相応だな、と少し安心した。



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