第112話 姉妹で仲良くですが、なにか?

「えへへ」


 私は何だかんだと上機嫌。

 挨拶が終わり、とりあえずはしどー君が家族としてパパママに認められたからである。

 公認!

 この二文字ほど心強い単語はないだろう。


「とりあえず、奥さん確定へ一歩……!」


 結婚の文字が見えてきている気がする。

 大変、良い。

 そこがゴールとは思わないが、中間地点としては大きなゲートだ。


「姉ぇ、キモい」

「燦ちゃんもにやけてるわよ?」


 ソファーの反対側、正座でお茶を嗜んでいる燦ちゃんにそう突っ込んでおく。


「怖かったから……その反動だよ、姉ぇ」


 確かに、妹の立場は普通の親なら反対される。誰が悲しゅうて、アウトローな道に進んで欲しいと思うのだろうか。


「わかるわかる」


 後は、


「しどー君の親御さんね?」

「……。

 ちなみにどんな人なの?」


 聞かれるが、


「判らないのよね……」


 としか答えられない。

 病院には行ったことがあるが、直接会ったことがない。

 マジメガネの親。

 正義感が強いということと、悪を悪だと一方的に決め付ける人間で無いことは理解している。

 なんせ、しどー君の暴走、特に私たちの件を許してくれていることから判る。


「で、ほい」


 お気に入りをクリックし、スマホを見せる。


「この人が?」


 病院のホームページ、代表の所を見ると士道という文字がある人の写真。

 しどー君にも確認したがこの人だということだ。


「なんというか、真面目そうな人だね?」


 妹の感想には同感だ。

 七三に分けられた髪、羽織った高いスーツは皺一つ無い。

 そして、四角い太ブチメガネが決めてだ。

 ただ、しどー君よりガタイがかなりいいように見える。

 最近、私と夜のプロレスを繰り返したお陰で隠れマッスル眼鏡なしどー君だが、お父さんは何かスポーツをやっているように見える。


「一応、二股は許可得てるらしいけど」

「二股で許可を得ようとするところが誠一さんらしいですけど」


 全くだと、姉妹で笑ってしまう。

 噂のしどー君は流石に疲れたと、仮眠中だ。

 流石に、いつものしどー君らしく振る舞っていたが、彼の緊張と疲労は相当なモノだろう。

 帰宅と同時に、


「初音、甘やかしてくれ」


 と、言ってくれたぐらいだ。

 とりあえず、ギュッとママの残り香を消すように抱き締めてあげると安心して、力を抜いて、私の膝の上。

 すでに一時間ほど動けてないが、可愛いしどー君のためなら苦にならない。


「今日は流石にゆっくりさせてあげようね、燦ちゃん」

「うん」


 私たちもこの状態のしどー君を絞る気はない。

 確かに、彼のモノだと改めて刻み付けて貰うのは魅力的だし、お腹の奥が熱くなるが抑える。

 燦ちゃんも同様のようで、私の目線に気づき、ブンブンと頭を横に振って頬の火照りを消しにかかる。


「燦ちゃん、燦ちゃん」

「……なに、姉ぇ?」


 改めての言葉に、妹が警戒してくる。

 勘が良い。


「今日は二人でしない?」


 燦ちゃんの手元からゴトンと空のコップが床に転がる。


「あ、あ、あ、あ……」

「はい、叫んだらしどー君起きちゃうわよ?」

「ふぅ……ふぅ……」


 妹が言われ、深呼吸をする。

 で、私の顔をゲンナリとした表情で見てきて、


「姉ぅ、正気?」


 言葉に支障が出るくらいに正気を疑われた。

 まぁ、仕方ない。

 台詞を述べた私自身、どうかしていると思うし。


「うん、正気。

 燦ちゃんも火照ってるでしょ?」

「そうだけどぉ……」


 それに、と前置きをし、


「私たちも改めて家族だし、うん。

 仲良くするのもありかなと」

「はあ……」


 燦ちゃんが深い深いため息で呆れてくる。

 今まで何度も呆れられてきたが、一番長い溜息だった気がする。


「姉ぇのこと、私は嫌いだったよ?」

「うん、知ってた。

 目の上のたん瘤だものね?」


 けどと、燦ちゃんは続ける。


「今は大好き」

「うん、それも知ってた。

 ふふ、言葉にされると嬉しいわね」


 改めての告白に心が熱くなり、照れてしまう。

 えへへ、っと顔がニヤけてしまう。


「照れられたり、だらしがない顔をされると、その……あぁ、もう!

 だけど……でもね?

 さすがにさすがにさすがにだよ?」

「この前もキスしたじゃない」

「あれは誠一さんと三人だったし。

 二人で改めては、その……ね?

 何か違わないかな、姉ぇ?」

「そう?

 私達の気持ちだけじゃない?」


 見解の相違をぶつけてやる。


「私は燦ちゃんとしたいわよ?

 前から少し匂わせている通りかな」


 素直に言ってやった。

 燦ちゃんの眼が大きく見開き、口元が半開きになる。

 それでも、頬が若干緩むには見逃さなかった。


「あの、姉ぇ、私の好きはそういうことに紐づいてなくて……」

「わかるわかる。

 確かにどんだけ友達であろうと、しどー君以外の男性と性行為はするつもりはないし、今後もしない。

 私は彼のモノだからね?

 燦ちゃんも他の人とはしないでしょ?」

「うん、しない。

 したくない」


 一回、彼女の言葉に耳を傾けて、心理的な障壁を作らないように心がける。

 先ずは私の論旨を燦ちゃんが否定から入ることを回避するのが先だ。

 燦ちゃんは頭ピンク色に染まることが多いが、常識的な部分も捨てきれないことも多いのだ。

 妹が私の話を聞いて、頷きと同意を得たことを確認してから続ける。


「しどー君とは一杯したいけどね?

 燦ちゃんもそうでしょ?」

「うん。

 たくさん、たくさん、私を食べて欲しいし、誠一さんを食べたい」

「しどー君との行為って、性欲だけじゃなくて嬉しくなるわよね?

 性行為だけが恋でないことも、燦ちゃん自体が性依存症から離脱し始めてるから判ると思うけど」

「うん……♡

 誠一さんとすると、心から嬉しくなるよ。

 しなくても、会話したり、触れ合ったりするだけで、嬉しくなれるよ」

「けれど、燦ちゃんも判るでしょ?

 しどー君に気持ちよくなって欲しい、気持ちよくしてほしいって感覚は」

「そりゃ、判るよ。

 誠一さんには私を存分に味わって欲しい訳でして」


 さて始めよう。

 ここまで、燦ちゃんが同意しやすい、イエスをしやすい質問を重ねてきたのには理由がある。

 イエス誘導法と言う手法だ。

 相手に対して、同意を言いやすい質問を並べて、本題に入ることでこちらの意見を通しやすくする話法で、委員長がよくクラス内で使う手だ。

 同意をさせながら、話を徐々にビッチ的思考理論で切り替えて、燦ちゃんの同意が取りやすい所でせめる。


「そう考えるとコミュニケーションの一種だと思わない?

 性行為って愛を伝えるのは他にもあるしね」

「……確かにそうだよ。

 誠一さんの弱い所や私の弱い所、気持ちいい所を探り合ってお互いに気持ちよくなるわけだし……♡」

「燦ちゃんと私はしどー君の彼女。

 私と燦ちゃんがもっと仲良くして欲しいとしどー君も思わない?」

「思う」

「そしたら、燦ちゃんと私がもっと仲良くするためのコミュニケーション手段としても有りじゃないかな?」


 ようやく本題を切り出す。

 本題も何も、私はこう考えているから燦ちゃんを誘っている訳なのだけどね?

 それに、燦ちゃん可愛いいし。


「……有りなのかな……」


 イエスで揺らぎそうになってきているので、ここは押す。


「当然、有りよ。

 仲良く出来る手段はしないより、したほうがいいじゃない?

 仲良くなりたいんだから」


 燦ちゃんが答えに窮するのが見える。

 これは謝った二分法と言われる詭弁だ。

 他の選択肢が考慮できる状態にもかかわらず、二択しかないように見せて思考を縛る話法だ。

 

「仲良くしたくないの?」


 これもそうだ。

 言外に、私としなければ、仲良くしたくないということだな、と含ませている。


「仲良くしたい、けど……」


 心の揺らぎが見えるたら、チャンスだ。

 押し切ってやればいい。


「なら、決まり。

 今日は私としましょ?

 私も女性同士は初めてだけど、優しくするわよ。

 グヘヘ」

「……もう、姉ぇったら強引なんだから……」


 燦ちゃんはそう呆れ顔になりながらも、仕方ないなと納得してくれた。

 夜が楽しみだ。

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