第111話 援交が悪いフラグ潰してましたが、なにか……
「そいじゃ、またねー。
誠一君、娘たちをよろぴこー!」
「娘達を……頼んだ……」
と、ジャージのパパママに園部駅で別れを惜しまれながら電車へ。
電車が見えなくなるまで、ブンブンと手を振って送ってくれる姿は何というか昭和を感じさせるやりとりだ。
恥ずかしい。
とはいえ、いつも通りのパパママだと安心しているのは私だけではないようだ。
「……パパママ、理解してくれたね」
燦ちゃんがそう感慨深く述べて、緊張が解けたかのように溜息が解放されている。
何だかんだ、普通の関係ではないし、親の了承を得られるかは正直、燦ちゃんにとっては怖い所であったのだろう。
「ふふ、燦ちゃんもおつかれ」
「わふっ……」
っと、隣に座っている燦ちゃんの髪を撫でて、後ろのリボンも揺らす。
「いい人達だったな……」
「そう言ってくれると、助かるわ」
つり革を掴んみながらしどー君がそう言うと、私の心がほっこりする。
よく結婚は子供の自由だという話がある。
確かにそれも一理ある。
とはいえ、親の理解を得られた方が良いのは当然だ。
パパママはそれで苦労し、だからこそ理解してくれたのだろう。
自分の経験を活かしてくれる良い親だと今更ながら思う。
私個人としても、パパママとしどー君が仲良くしてくれた方が嬉しい。
「ママさんの過剰なスキンシップは勘弁して欲しいがな……。
理性ではダメだと思いながら、襲われている身体が言うこと利かなくなるのは、一番最初の初音を思い出した」
「あー……」
流石にママと一緒にされてしまうのは気まずくなり、眼を逸らす。
確かに彼氏でも何でもないしどー君相手を性的な意味で襲っていた訳でしてね?
「姉ぇは確かにママの子だよね……」
「あんたがいうんかい」
うんうんと、しどー君も頷くが、クエッションマークを浮かべる燦ちゃん。
狡賢い女の部分がママ由来であることはちょっとは自覚して欲しいモノであると呆れてしまう。
「とはいえ、何だかんだ、終わって観れば寂しいモノね。
今生の別れでも無いし、今までも散々、家出してたのに」
「……本当の意味でパパママの場所は私たちの帰る家じゃなくなったから?」
燦ちゃんの言葉の通りだと、姉妹でシミジミしてしまう。
家を出る、ホントの意味での家出というのはこういうことなのだろう。
「とはいえ、高校・大学と学費出して貰っている間は、全然子供だけどね?」
「姉ぇの言う通りかな。
私も進路どうしようかな……」
燦ちゃんが悩み始める。
とはいえ、っと割り切る燦ちゃんがヨシっとガッツポーズを取りながら、
「先ずは編入かな。
そのための、申込書を取りに行くために姉ぇと誠一さんに付き合って貰っている訳だし」
このために私たちは北上していた。
「書類取りに行くんだっけ、ついでに。
間に合うの?」
到着する頃には割とギリギリの時間な気もする。
「学校には連絡してあって、風紀委員会室に届けて貰ってある」
「なるほん」
さすがのしどー君だ抜かりないと感心してしまう。
そんなこんなで学校方面に電車を綾部で乗り継ぎ、到着したのは西舞鶴駅。
馴れた駅だが、夏休みは学生が少なく、逆に観光客が多いように見える。
いつも通り、レトロな路面電車に乗るが、西舞鶴駅に降りるばかりで、学校方面に行こうという人は夕方時でもあり、少ない。
「あれ、委員長と委員長妹だ」
路面電車の外、二人で手を繋いで歩いているのを見掛ける。
白い日傘に白い姿の二人だ、凄く目立つ。
「上手くやると良いんだけど、あの子も」
「……初音、流石に近親相姦を勧めるのはダメだぞ?」
「一応、私はお嬢派だから……」
眼を逸らしておく。
ノーコメントだ。
リクちゃんとお嬢を含めた委員長の三股計画を画策しているとは言えない。
理由はいくつかある。
一つは面白いから。
二つは私達と同じ境遇に陥って貰うことで、同士を増やすことだ。
少なくともあの四人は心強い味方になってくれるはずだ。
「初音、悪い顔してるぞ」
「えへへへへ」
笑みで誤魔化そうとするが、鼻をペシっと指で押される。
豚顔にするのは止めて欲しい。
「ムー、鼻が縮んだら責任取ってもらうわよ?」
「もう責任取ってるから、もっと押していいんだな?」
「く、言う様になって……ブヒー!」
更に押してくるので、豚声で抗議しておく。
さておき、
引土あたりの住宅街を抜け、川を越え、登り始めると学校が見える。
到着で降りると電車はグルリと線路ごと回転し、急ぎ足で街へと戻る。
これでしばらくは便がない。
校庭ではまだ部活中の人たちが活動している。
みれば、小牧さんを見つけたので軽く会釈しておく。野球部の彼と一緒に走り込んでいる姿は何というか青春だ。
私も燦ちゃんも、中学のトラックをよく走り込んだものだ。
「今日、面白い人と出会えるようにしといてあるから、楽しみにしといてくれ」
「……何企んでるのよ」
しどー君がふと、風紀委員会室の前で立ち止まると意味深な笑みを浮かべてくる。
それはまるで悪戯を思いついた子供のようである。
まぁ、悪い事にはならないとは思うが。
「やあ、士道君。
久しぶり」
と、風紀委員会室のドアを開けると何処かで観たことのある初老の男性。
「校長先生、自ら来ていただいてありがとうございます」
「なになに、暇だからどうということはない。
ワシ一人、ポツンと家にいるより、学校で喧騒を聞いていた方がマシだからの?
お父さんは元気か?」
「忙しそうであまり会えないですが、元気ではあるようです」
「なら良い。
あれも色々と苦労したからな」
あぁ、なるほど。
始業式に見たことがある人だと、しどー君が話す傍らで納得する。
それ以外では、一般の生徒が接することが無い人であまり印象が無い。
「……?」
とはいえ近くで見れば、何処かでみたような雰囲気がある。
援助交際した男性リストの中から誰かに似ているのかと脳内検索してみるが、ヒットしない。
「そっちの違う制服の子が、話に出てた編入希望の子かの?
六道からは一名、お願いしたいと聞いてるが」
六道、つまり鳳凰寺・六道、私たちの叔父さんだ。
「は、はじめまして、よろしくお願いいたします!
あ、名前は初音・
っと燦ちゃんが上擦りながら、九十度以上に腰を折って礼をする。
なるほど、しどー君が面白い人に会えるという訳である。
テンパっている燦ちゃんが可愛い。
「はは、面接じゃないからかしこまらんでええよ。
そこの士道には儂が来るのを説明するなと言い含めてたしのう。
こういうのが人生のスパイスになる」
意地の悪い狡猾な笑みを浮かべる校長先生。
とはいえ、悪い印象はない。
本当に学生を観ていて楽しい、と感じているのが判ったからだ。
「初音か……」
っと、ふと私たちの苗字を口の中で転がしたのが聞こえた。
懐かしむような感じだ。
「そこの問題児と同じ苗字だの?」
問題児、はて誰の事だろうと思い悩むが、
「これの年子の妹です」
「なるほど」
これ呼ばわりされてようやく私が問題児認識されていることに気付く。
心外である。
「援助交際なんぞ、ホントなら一発停学。
ホント感謝しとけよ、士道の尽力に」
グサリと過去の事実が刺さり、心外じゃなくなった。
「はい……それはもう。
しどー君には感謝どころかラブラブです」
「ハハハ。
確かに最近は校内の風紀を乱しているとクレームが入るぐらいで済んでるからいいのだがのう?
それぐらいなら青春だと一蹴しとる。
昔みたいに屋上から人を吊り下げたヤツが出ないだけマシだしのう。
六道が吊り下げられたり、平沼の妹も吊り下げられたり……くくく。
儂も娘の件があってから丸くなった」
昔を今のことのように思い出しながら笑う校長先生。
どんなカオスだ、それ。
「それで校長、モノのついでに彼女に推薦状を頂きたい」
「父親に貰ってきたら良いじゃないか。
どうせ、六道からは貰えるのだろう?」
とはいえ、
「まぁ、良い。
ケチ臭かったり、頭が固くてワシも失ったものが多い。
ちょっと、待っとれの?」
っと、コピー用紙に筆ペンを構えて、
「こんなもんじゃろ」
「ありがとうございます!」
しどー君以上に奇麗でカッシリとした文字で、推薦状と三文字が書かれている。
そして右下に、名前が、
「三塚……?」
あれ?
「校長の名前ぐらい憶えているものだの。
問題児にそこまで求めるのは酷だが」
私の呟きにクククと笑う。
「さて、これでワシも帰るとするか。
士道の堅物だった倅が面白いことになっているのは聞いていたが、確かに。
観れてよかった」
そして扉を開けて去っていった。
その背中はどこか寂しそうに見えた。
「……ねぇ、しどー君、聞いていい?」
帰りの電車の中、私は問う。
ニヤニヤと意地悪い顔をして、私を観てくるしどー君で答えが判った訳だが、あえて聞く。
「あの人が私たちのお爺さん?」
「その通りだ。
面白い人に出会えると言っただろう?
鳳凰寺さんの差し金で初音の経歴は校長に伝わらないようにしているらしい。
舞高に受験に受かったと聞けてたから、叔父さんに感謝しといてくれと鳳凰寺さんからの伝言を受けている」
「うわ……」
自分が思う以上に薄氷を踏んでいる人生な気がしてきた。
もしかすると援助交際をしていなければ、私の身バレをしていた可能性がある。
「援助交際で破滅フラグを引きそうになっていたのは自覚していたけど、援助交際で破滅フラグを回避していたのは思わなかったわ……」
確かに家出娘の子供が見つかったとなれば、何が起こるか判らない。
会いたいとは思っていたモノの踏ん切りがまだついていないのは、鳳凰寺さんの所のように力のある家系であると言われており、リスクを懸念してだ。
私のしたいで、パパママや燦ちゃん、そしてしどー君を巻き込むわけにはいかない。
とはいえ、
「ちゃんと、仲直りさせたいな……。
私達が上手くいったんだから」
それに対しての道筋はまだ見つからない訳だが。
ため息が出てしまう。
「大丈夫さ。
考えすぎても仕方ないし、一つ一つだ」
「そうだよ、姉ぇ。
出たとこ勝負!」
二人がそう言ってくれると気が楽になった。
何とも頼もしい私の家族であると笑顔になれた。
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