第110話 魔性母と妹だけど、どうしてくれよう。
「パパの酒がのめんのか~、むにゃむにゃ……」
パパが一升瓶を持って転がっている。
端から見たらダメ親父だが、パパはそもそも下戸である。
家で飲んでいる姿は一度たりとも見たことがない。
「パパ、嬉しそうだったわね」
端に引いた布団にパパを寝かしつけながら笑顔のママ。
「そうなの?」
「何だかんだ話してみて、パパは娘が託せる人だと確信したみたい。
だから、飲めないお酒何て飲んで……可愛いったらありゃしない。
きっと、息子が出来たらと思ってたのもあるんでしょうね?」
姉ぇの問いにママは笑顔を零す。
あの後、パパと誠一さんは二人で色んなことを話していた。
特にパパが聞いていたのは誠一さんの考える、これからの三人で過ごしていくための計画だ。
当然だろう、娘を預けるのだから賛成とはいえ、無謀な所は諫めなければと息巻いていた。
そんな二人で話させてあげようという事になり、私達はその間にパウンドケーキを作っていた訳だが、戻るとお父さんの手元には酒瓶とお猪口があった。
「良いお父さんだな?
結構、細かいところまで聞かれた」
「でしょ?
基本馬鹿だけど、娘バカだから、ちゃんと考えてくれるの」
「
誠一くん、今度将棋でもしよう……ZZZ」
「はいはい」
っと、姉ぇが呆れながら、水タオルをそのオデコの上に載せる。
「こんなパパだけど、しどー君のパパにもなるからいたわってあげてね?」
「当然だ。
話していていい人なのは良く判った。
苦労して二人を育ててくれたことも話してくれた」
っと真剣な表情でメガネをくいっと人差し指で直しながら、
「愛の為に、色々と大変だったのも感動した。
本当にお義母様のことを好いていたんだな、と」
っと、誠一さんが熱くなっているのが判る。
何だかんだ、誠一さんもパパもまっすぐな人間だ。
気が合ったのかもしれない。
「お義母様なんてやーね、ママって呼んでね?」
とはいえ、流石にママは苦手らしい。
言われ戸惑う誠一さん。
「……何というか、初音や燦の姉のように見えて、そのママと言うのは、何だか背徳感が……」
「いいのよ、気にしなくて、ふふふ」
新しいおもちゃを見つけた姉ぇのような表情をするママ。
ショートカットの茶髪を弄りながら横に座るママに表情を固める誠一さん。
「お綺麗ですし、何というか、呼びづらいんですが?
せめて、お義母様でお願いしたいです」
「こんなおばさんを綺麗だなんて……」
誠一さんに横からしなだれかかるママ。
赤いジャージの前、封印がいつの間にか半分解かれており、私や姉ぇよりデカイ女を強調するサイズIの物体が露出されている。
ちょっと待って、なんでブラをしてないんだ、このママ。
「パパの子供お腹に居るし、今ならセーフよね……?」
耳元で囁き、軽く手を握っただけなのに誠一さんを上ずりな声にさせてしまうママ。
誠一さんが視線を私たちに向けてくる、助けてくれ、体が呆けて動けないと。
魔性か何かである。
「体は正直、ふふふー」
「っ!」
「きゃっ♡」
誠一さんの手をママが取った瞬間だった。
金縛りが解けた誠一さんが動き、ママに襲い掛かる様に押し倒し、ズズズズというジッパー音をさせた。
「僕を試すような真似はやめて頂きたい」
「あら、残念。
ここで手を出してきたら、娘たちをあげない口実に出来たのに」
誠一さんが離れると結果、ママのジャージの再封印がなされていた。
流石の誠一さんだ、お色気に負けない。
「とはいえ、パパ以外のはしたこと無いから、堕とされたかもしれないけどぉ?
お姉ちゃんに聞いてるけど、結構なモノをもってるのよね?
本当に残念♪」
上半身を起きあげながら、ペロリと悪戯っ子のように舌を出すママ。
「何というか、そんな気は無いのに、遊ぶのはやめてください……。
冗談でもお義父さんに不義理です」
「じゃぁ、ママに気があったらいいんだー?」
「その気があっても僕はお応えしません。
僕は初音と燦を無事に持ち帰りたい。
そして三人で祝杯をあげたいんです」
誠一さんが距離を取ろうと後ずさりするが、ママがそれを追う。
そして狭い部屋の角に追い詰められてしまう誠一さん。
「イイ子ね?
食べちゃいたい。
とはいえ、少し自信なくなるわねー。
会話と、この声と、ボディタッチで稼いでるのに……」
ようやくママから誠一さんから離れながら、
「これぐらいは息子になるのだからスキンシップよ、許してね?」
オデコにキスをしやがった。
「ママ!」
ブッコロしてやると私の怒りが怒髪天。
ちゃぶ台をひっくり返しながら立ち上がる。
「燦ちゃん、必死すぎ☆」
「そうそう、ママの挑発に乗ってたら、気が持たないわよ……」
姉ぇはどこか達観しているようだ。
「あら、お姉ちゃんはクールね」
「しどー君が年増のママに惚れる訳ないし」
「……何か言った?」
姉ぇの珍しい失言だ。
内心イライラしていたのが出てきたのかもしれない。
「あいあんくろー♡」
「あいたたたた、ママ、めんごめんご!」
ガシッ! という音共に、姉ぇの頭蓋がミシミシという音が聞こえる。
実はリンゴを手で握りつぶしてジュースにできるママである。
大変痛い、必殺技だ。
「痛かった……。
ママの職場を観てるし、しどー君に色仕掛けするのも予測済みだったから。
私が男をたぶらかしたいと思った原因はママだし」
「……どういうこと?」
そういえば、姉ぇが援助交際をした理由を知らないなと好奇心で聞いてしまう。
「燦ちゃんは知らないけど、バーのママしてるとね、何だかんだタッチまでは許しちゃうの。
服の上からだけど、そこを観られてね?
お金を得ながら、男を誘惑する話をしちゃってね……そこからお姉ちゃんは興味を覚えたのがあってね……。
そんな親が言えた義理でもないし、ノーと言えば突っ走っただろうし、最悪家出も見えてたから……なら、コントロールしよって」
何故、姉ぇの不道徳を許したかの一端に絶句する。
昔ならママを軽蔑してしまっていたかもしれない。
私が不道徳な姉を嫌っていたかのように。
「……ありがとう。
姉ぇや私のためにそんなことまでしてくれて」
けれども、私も既に女だし、そもそも私が不道徳に足を踏み入れた存在だ。
それにそうでもして、私たちを育ててくれたのに軽蔑? 出来るわけが無い。
感謝しかない。
「燦ちゃん、成長してたのね……。
誠一くんのおかげかな?」
と、ママがニヤニヤと嬉しそうに笑う。
「そうです、ママ。
私は誠一さんのお陰でいっぱい得るモノがあるんです。
これからも得ていくつもりなので、年増のママはすっこんでてください」
「あいあんくろー♡」
「あいたたたた、ママ、ごめんなさい! ごめんなさい!
若い! 若いですから!」
ミシミシミシと私の頭蓋骨が削れる音がしたのは恐怖しかなかった。
ようやく放してくれるが、痛みがしばらく抜けそうにない。
「さておき、まだ三十入ってすぐのお姉さんだからね、誠一君?
おばさん呼ばわりは禁止よ?」
と威嚇するママ。
笑顔とは本来威嚇であることを実践しないで欲しい。
流石の年の功に誠一さんも顔に青筋が見えそうだ。
「ところで、誠一君はこんな娘どもの何処が好きになったの?」
「普通、渡す了承をする前に聞かないかな……。
パパもだけど」
呆れながら私が言うと、
「うちの家系、決めたら突っ走るから意味無いのよね……だったら、出来る、出来ないや何でを聞くより、する、しないの心持ちの覚悟を先に聞いた方がいいでしょ?」
「「確かに」」
何処か諦め気味なママに姉妹で同意してしまう。
「しどー君もそうだよね……」
実は似た者カップルであると、姉ぇが染々と言う。
「初音……
運命的なものを感じたんです。
それで色々と話すようになってからは世界が広がって、エロイことも叩きこまれたり、凄い子だなと、どんどんと好きが高まっていったんです」
「……///」
姉ぇが顔を赤らめて、乙女のようにモジモジする。
羞恥プレイの一種にも見え、私の番への覚悟を固める。
「で、燦は……最初は正直、怖かったし、苦手感がありました」
「ぐっ!」
だが、私の心を抉る方向はノーガード、クリティカルしてしまう。
いやまあ、自分の諸行を考えれば自業自得であるし、仕方ないのですが……。
イケメンじゃないとディスりから入ってたし……。
「ただ、きっかけはともあれ好きになってくれまして……。
付き合ううちに可愛さや女らしい怖い部分、隙だらけの部分の混在する面白い子だなと気付きまして……」
「私、面白枠?!」
流石にへこんだ。
「そんな所が好ましく思うようになり、僕の手から離したくないと気付いたら、好きになっていた僕がいたんです」
と、謝罪を示すかのように私の頭を撫でてくれる。
くすぐったくて気持ちいい。
「強欲だと思いますが、改めて二人を貰っていきます」
そしてママに一礼。
「ふふ、律儀ね。
そういう所が二人も好きなんでしょうね。
もし、二人が酷い女になって誠一君を
息子として慰めてあげるから。
もう、貴方も初音家の家族なのだから」
「……ありがとうございます」
「可愛い息子が出来て、ママ嬉しい!」
頭をさげたままお礼を述べる誠一さんに感極まって抱きつくママ。
私たちにするのと同じ行動だけど、そればかりは止めて欲しいと姉ぇと引き剥がした。
女性しか子供が居ないから、距離感が判りづらいのは解るが、ほどほどにして欲しいモノである。
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