第107話 お返しを考えますが、なにか?
「婚約指輪を見せつけとかノロケにきたのー?
進展がないマリに対して、嫌みかな? かな?
朝から胸焼けするー、おえー」
と、マリちんが頬を膨らませて、私に不満を撒き散らす。
相談事があると、いつもの四条河原町、イタリアンファミレスに呼び出したはいいがこんな感じである。
「嫌味と言うか、そもそも小学生に対して、進展を望むのが間違いじゃない?」
「うっ」
「源氏物語なんて年単位かけてこそよ?」
「……うう、性に目覚めさせたいわけではないしー。
どうにかならないかなー」
「胸弄りしたあんたがそれを言うのか」
「やーねー、スキンシップよ?」
ニシシーと笑うガングロ化粧顔、相変わらずの山姥である。
そんな彼女はサラダをお腹に納めつつ、
「で、それが婚約指輪か。
安物なのが気にくわないー、精々十万円ぐらい?
はつねんが安く見られてるようでいやだなー」
っと、惚気に水を差してくる。
マリちん的には心配そうな声をあげているので、京都人特有の嫌味では無さそうだ。
「高校生の稼げる十万円は高いわよ。
バイト代千円としても百時間よ?」
というか、委員長に何をさせられたんだろう?
ケツでも売った可能性もあり、怖くて聞けていない。
「はつねん、一日で最大いくら稼いだことあったけー?」
「……十万円。
……パイずり、下着ズリ、口、ありありだったし?」
「でも、半日の値段よねー?」
この値段、実は援助交際の中でも破格な数字だ。
抜き差し有りでも今は不景気で、ホ別二万稼げれば良い方だ。
まあ、この相手は
二度と会おうとは思わないが。
さておき、私の宝物を卑下にされて丸められる気はない。
本人にその気が無くてもだ。
「日野弟君からなら草で作った指輪でも嬉しいわよね?」
「ブリザードフラワーで永久保存よー!
確かに金額じゃないかー、うんうん」
「……あんたも大概頭おかしいわよね?」
頭緩く見せてるだけなマリちんが、本気で頭が緩く見える。
恋とは
「そのお返しなー」
「悩むわけよ。
体で! とかは無しだし……」
「はつねんのナイスバディ縛りかー。
基本的には、時計、ネクタイピン、財布、スーツ、カバン?
ビジネス系統のモノが多いのよー?
普通、プロポーズは年齢層がどうしても二十代、三十代が多いからねー」
十代プロポーズが例外すぎるのである。
「まぁ、基本的には半返しから三分の一の値段で考えるモノなだから、五万程度で考えておくといいんだけどー?
彼氏、趣味なんかあるの?」
「……趣味……若干のオタク気質はあるけど」
時折、クラス内男子グループで漫画とか、アニメとかの話をしている。
「オタクなの?
はつねん、男の趣味変わったー?」
「ガチオタクという訳では無いわよ。
私も知っているぐらいの話題が多いし。
ネットで話題になるモノは抑えてる感じ」
「あー、なるほー。
男と話題合わすために私もちょっちみてるしなー」
接客業なので浅く広くである。
援助交際が業かはさておき、トークが出来ればそれだけでリピーターに繋がりやすいし、ヤリ目的以外の人も増やせたりするのだ。
「本を読んでる姿は多いわね」
「ほほーん?」
「笑えない親父ギャグよね、それ」
「にししー、とはいえ、このスマホご時世に本ねー?
ずらーっと戸棚に並んでたりー?」
「買うのは少ないかな……?」
しどー君の部屋はシンプルだ。
ベッド、机、本棚、テレビ、それだけ。
ウォークインもあるが、メイドする前は制服と白ワイシャツとチノパンしか入っていなかった。
「学校や市の図書館で借りてるっぽい。
妹とのデートコースには入ってる」
燦ちゃんも本好きである。
マジメ風紀委員、生徒会イメージそのままだ。
「はつねんと趣味を絡めた図書館デートしないのー?
それ相手、本当にはつねんのこと好きなのー?
本人を
相変わらずしどー君に手厳しい、マリちんである。
名前も教えて無いし、合わせたことも無いのだが。
「間違いなく一番、好きよ?」
「恋は盲目……」
呆れられてしまう。
「で、その彼氏さん、妹さんのことも本気なんだよねー?」
「そうよ。
まぁ、言った通り、私がけしかけたのもあるし、付き合うウチに好きになったとか何とか」
「それ、妹さんに寝取られてない?
大丈夫?」
本気で心配してくる。
しどー君が私に似合わないと考えれば都合がいい筈なのに、こう言ってくれるのは本気で私の心配をしてくれているからだろう。
やっぱりマリちんは基本イイ子である。
「大丈夫よ。
この前、初めて三ピーしたけど、私の方が回数多かったし。
何だかんだ、細かい所で私を、っとしてくれるの判ったし。
私に三回、妹に二回、外だし二回で合計七回してたし、まぁ……」
「はいはい、暑い暑いわー、夏よねー?」
惚気ている気がする。
「とはいえ、はつねんが彼氏を腹上死させるとかニュースは勘弁よー?」
「あはは……それは留意しとこうかな。
とはいえ、最高は二桁したことあるし、余裕残してるからセーフよ?」
「……よく体力持つわね、お互いに」
なお、メイドプレイの時である。
あれはしどー君も私も燃え上がってしまうのだ。
性癖が合致し合うというか、何というか……。
私も奉仕するのが好きなタイプだし、しどー君も自分のモノにするのが好きなタイプになってしまった。
「で、話を戻そうかー?
流石に朝からファミレスでする話じゃないのよー」
「確かに」
ドリンクバーで仕切り直す。
コーラを取ってきた。
「で、他に何か趣味無いのよー?
エロ好きなのは判ったけどー?」
「うーん……」
基本、それ以外は無趣味な気がする。
あえて言えば、
「勉強が趣味かな……」
「それホントにはつねんのかれしー……?」
「どういう意味よ」
「いやだってねー、はつねん、勉強苦手じゃん?
いや、そんなことも無いかー。
いい学校入るために、塾の先生にエンコーして教えて貰ってたしー?
貰うお金も千円とかだったけ?」
「懐かしい話ね」
自己欲求を満たしたい人を上手い事、使った形だ。
これはこれでウィンウィンである。
可愛い女の子に教えてと請われれば、それだけで幸せなんて人も居るのだ。
世の中、欲求の満たし方は色々ある。
なお、叔父さんも背景を知る迄は、ここの分類にしていた。
「私自身、勉強は嫌いじゃないわよ。
めんどくさかっただけで、目的に必要ならやる」
「はつねんはそういう子だよねー?
マジメ系ビッチーなのが受けてたしー?」
うんうん、とマリちんが納得したように相槌を打つ。
「彼氏さんも真面目なのかー?
二股だけどー?」
「真面目ね、頭にクソがつくぐらい真面目よ?
私が大分柔らかくしたけど」
「あー、何となく想像ついてきた。
女を覚えて変わってしまったパターン?」
「うーん、ちょっと違うけど、確かに変わったわね。
前は性行為にオドオドしてたのに、今は積極的だもの」
確かにしどー君は変わった。
私が変えたのだが。
「まぁ、はつねん抱いたら、自信持つわなー?
とはいえ、女増やさないように注意しなよー?
そういうタイプが調子に乗って破滅するの、みたことあるー」
「流石に流石に。
妹が相手を殺しに行っちゃうわよ、きっと……」
「ヤンデレさんなのー?」
「否定できないわね、重いし、あの子」
ため息一つ。
しどー君と付き合うためのきっかけが、自暴自棄をベースにした脅迫だったのも笑えない。
あれはホントに、しどー君のピュアな善性を利用した見事な女の手口だった。
流石に他の人には譲歩しないと、スレて女に慣れてきたしどー君は明言している。
あの時、あのタイミングだからこそ、燦ちゃんは滑り込めたのだ。
何とも何とも、我が妹ながら恐ろしい子である。
「マジメなー?
メガネとかしてるの?
本、オタク、マジメとくれば、眼鏡だけどー?」
連想ゲームのように言ってくる。
「トレードマークの一つ。
いつも黒縁眼鏡つけてる。
コンタクトも増えたけど」
「……ほほーん、ならば眼鏡とか良いんじゃないかなー?
値段帯的にも丁度いいしー」
っと、スマホを手先で回して見せてくる。
色々と形があるし、材質なども幅広い。
まさしく盲点であった。
「まぁ、メガネなら彼氏さんとデートして一緒に選ぶのも有りだしー?」
「それだ!
流石、マリちん! 情報屋!
今日のお代は私が持つわ!」
「いや、お金には困ってないし、いいわよー?
はつねんが喜んでくれれば」
そしてマリちんはニコニコとその黒い顔に笑みを浮かべてくれたのであった。
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