前に進むには(仮題)
第105話 事後ですが、なにか?
「おはようしどー君。
タフね……」
チノパンにシャツ、これが楽で良いと着替えてリビングへ。時計を見れば十時を回っている。
やり過ぎて、つい五時間前まではマラソンしていた。
私たちは姉妹なので疲労が半分な筈なのに、しどー君の方が艶々している気がする。
精気を吸いとられているのかもしれない。
……吸いとったのは私たちの方なんだけどなあ……上でも、下でも……。
「ほら、トーストと珈琲だ。
目玉焼きはすぐ作る」
「ありがと、しどー君……。
仕事して貰って」
「いいさ、ちゃんと楽しめたしな」
頬が緩んでしまう私が居る。
何だかんだ、ちゃんと要領よく出来るマジメガネだ。
そんな彼から差し出される朝御飯。
目玉焼きの隣にはサラダもあり、バランスも良い。
サクッとしたパンに口をつけて、咀嚼。バターが塗ってあるようだ。
幸せである。
「しどー君が出来る男で良かったわ」
「誉めてもなにもでないぞ?」
「下半身も打ち止めだしね」
朝からビッチジョークをかますと、しどー君が呆れた顔でみてくる。
「大抵、メロドラマなんかだと事後、ヒロインが朝御飯作ってるわよね。
あれ、逆でもいいと思ってたのよね。
しどー君みたいに、朝を代わりにつくって貰うとか実際、胸キュンしたわ。
うん、惚れるわ」
私は良い彼氏をもったモノだ、うん。
「それに何にも出来なかった彼氏が、私の教えを飲み込んで朝御飯作れるようになったのも……萌えるわ。
キュンキュンする♪」
「それは良かった」
しどー君も座り、珈琲をすすり始める。
平和な朝である。
「燦ちゃん、まだ起きてこないわね」
「結構、ハードなマラソンだったからな、昼まで起きてこないかもな」
だらしがない寝顔を思い出すとおかしくて笑みを浮かべてしまう。
「初音もよく寝てたしな。
良い寝顔してた」
ニコニコと言われるので恥ずかしい。
悪い気はしないが、照れてしまう。
「キスしても起きないんだもんな……。
だいぶ、お疲れだったようで」
「……ふぇ?!」
く、このマジメガネにこんなことを言われるとは、少し悔しくなってくる。
思い返せば、夜なんかも翻弄されていた。
少し私も本気を出さなければな、と次を思い浮かべ、
「初音、悪い顔してるんだが?」
「く、察しの良いマジメガネは大好きよ」
悔しがりながら、言ってやる。
「何を言ってるんだ初音は……はあ……」
呆れられるが、
「そんな初音が僕も大好きだが」
意表をつかれる。
彼の笑顔が眩しい!
「く、良い彼氏さん過ぎる……。
キスしよ?
改めておはようよ?」
我慢できなくなり、テーブルへ手をついて立ち上がる。
「全く、欲しがりな兎さんだな?」
「そりゃそうよ。
それにそんな兎さんがよくて婚約指輪くれたんでしょ?」
「そうだな」
彼も立ち上がり、テーブル越しにキスをしてくれる。
チュッと軽い奴だ。
朝から盛る訳にもいかない。
私たちは兎ではなく、人間で、節度が必要だ。
「ふふふ~♪」
ただ、それで十分だ。
彼と夜を共にするのも好きだが、こういう日常的な幸せを噛み締めるのも私は好きなのだ。
刺激ばかりでは人間疲れてしまう。
とはいえ、
「初音兎がご案内するのは不思議な国ではなく、エロい年子姉妹の穴だった訳だけどね」
「初音?」
こういうのを絡めてこそ私だ。
意地悪ぽく、彼へと視線を向けると、冗談に笑いを作ってくれている。
「さて、今日のご予定は?」
「勉強」
「……はい」
現実を叩きつけてくるマジメガネだ。
私もしなければならないと考えてはいたが、こう口に出して言われるとくるものがある。
とはいえ、私は家事もある。
「私はシーツを片してからかな。
今、朝ご飯だから昼抜いて、五時頃買い物に行って晩御飯でいい?」
「了解。
買い物は付き合うぞ」
「頑張る」
デートだと言われると一日の気力が沸いてくる。
「おはよう~、姉ぇ、ご主人様……は?!」
頭ピンクな妹が上下ジャージに首輪で起きてきた。
色気も何もない格好だが、プレイ内容が抜ききれてないらしい。
自分の発言に口を押さえている。
「しどー君、調教が上手くいっているようね?
特殊性癖万歳。
首輪もしてるし」
「人前では絶対言わせないように調教しないとな……。
親父に聴かれたら、性依存につけこんだ屑だと言われかねない……。
やはり、節度があるからこそプレイにも熱が入るからな?」
「エロメガネが何か言ってるけど、概ね、同意よ。
日常生活に支障をきたすのは不味いわよ?」
二人で呆れながら真っ赤な顔を抑えて恥ずかしがっている燦ちゃんを見る。
「うう……」
可愛い。
とはいえ、根がエロスと真面目が混在する妹をイジメすぎるのも可愛そうだ。
片寄るのは良くない。
「ほら、朝御飯たべちゃいなよ?」
「はーい……」
と、しどー君が目玉焼きをささっと焼いてくれた朝御飯を食べ始める燦ちゃん。
「彼氏さんに朝御飯をつくって貰うのは何か負けた気がしますね……美味しいですし」
「ご主人様に作らせてる事実に気が引けているだけじゃないの?」
「そんなこと……ない筈」
言い淀む妹、どうやら思いあたる所があったらしい。
「なら、今度は燦に頼むかな」
「頑張ります♪」
ふんす、と立ち上がり鼻息を荒くする燦ちゃんは基本、頼られることが好きだ。
しどー君の上手い誘導をみて、妹が調教されているなと染々と感じる。
性癖の相性が良いのだろう。
しどー君は独占欲の強いエスなんだということは最近、よく判る。
対して燦ちゃんは構ってほしいとジャレつく犬、被所有欲の強いエムだ。
「破れ鍋に綴じ蓋よね……」
将にこれだろう。
言われたしどー君が少し悩み、
「……初音は僕から構わないと死んじゃうだろ?」
「性癖のこと考えてるってよくわかったわね……」
「僕と燦を交互に観て言われたら、流石にな?」
言われ、ちゃんと私のことを観てくれている彼氏に嬉しくなってしまう。
「しどー君、しどー君」
「なんだ、初音」
「大好きよ」
その言葉に眼を細めてくれるしどー君からも、
「それは僕もだからお互い様だな」
こう言ってくれた。
当然、これに反応する妹がいるわけでして、
「私も好きです!」
「燦のことも好きだぞ?
そうだ、おはようは初音にはしたから、燦にもしないとな。
おいで?」
「はい?」
彼に手招きされるまま、犬の燦ちゃんが立ち上がり移動。
そして軽いキスをされた燦ちゃんが、
「えへ~♪」
と、顔を
こんな感じで穏やかな朝であった。
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