第103話 繋がれた妹だけど、どうしよう……♡

「燦ちゃん燦ちゃん、どう? どう?」


 姉ぇが非常にうざったい。

 それもそのはずだ、その薬指にはリングがされている。

 それを見せびらかしてくるのだ。


「初音、食事中だ。

 嬉しがるのは良いが、ホドホドにな?」

「はーい♡」


 っと、たしなめられる姉ぇを観て思うのは……羨ましいだ。

 私も欲しいと思うのは当然だが、姉ぇが優先なのは致し方なし。

 それに、誠一さんに嬉しそうな視線を向けられるのも羨ましい。

 嫉妬してしまう。


「はいはい、姉ぇ。

 私の料理はどうだった?」


 だから、適当に流しつつ、話題を変えることにする。


「うん、ちゃんと出来てるわよ。

 やっぱり、必要以上に張り切らなければ、燦ちゃんは何でも出来るのよね。

 私はナンプラーをもうちょっと効かすけど、これはこれでマウマウ」


 そう、手元のスプーンを動かし嬉しそうに食べてくれる。

 嘘や世辞が無いと態度で示してくれる。


「燦、良く出来てる。

 美味しいぞ。

 おかわりだ」


 っと、誠一さんも美味しそうに頬張ってくれるので嬉しくなってしまう。

 鍋から汁と具材を足し、手渡す。


「結構、簡単なレシピでしょ?

 グリーンカレー」

「そうだね、姉ぇ。

 難しいかな? っと思ってたから驚いたよ」


 そう今日のレシピはグリーンカレーだ。

 姉ぇが作ろうとしていたので材料は揃っており、レシピだけ聞いた形だ。

 煮込みの時間がほぼ無い為、日本式カレーより短時間で出来るのだ。

 赤、黄色のパプリカ、ナス、しめじ、たけのこ、鶏肉を切り、炒め。

 その後、鍋に油、グリーンカレーペーストを入れベースを作る。

 炒めた野菜と肉を投入し、鶏がらスープを追加し、少し煮る。

 ココナッツミルク、魚醤ナンプラー、砂糖で味を調えて五分。

 完成だ。


「これぐらいなら、練習無しでもいけるよ」


 悔しいが、何でも卒なくこなす姉ぇと違い、私の場合は基本的に要練習と回数だ。

 パパママを恨むわけでは無いが、同じ能力ぐらいは欲しかった。


「今度はもうちょっと難しいのやってみようか?」

「……がんばる」


 こんな感じで、私も徐々に姉ぇから家事を教わっているのが現状だ。

 姉ぇのお給金が出ている仕事ではある。

 とはいえ、私も誠一さんの為になりたいし、姉ぇばかりに負担を掛けるのも嫌だ。

 それに今後、どんなことになるにせよ、家事が出来るようになるのは悪い事ではないはずだ。

 きっと、そうすれば私は今以上に自信を得られる。

 こう私は自分の心を誤魔化そうとし、


「燦」


 私の名前を呼んでくれた誠一さんに申し訳なさそうな顔が浮かんでいる。

 私が浮かない顔をしていたのを察してくれたようだ。


「私に指輪が無いのは……私とは結婚できない、そういう事ですよね?」


 私達は普通の関係じゃない。

 結婚は出来て、一人だ。

 姉ぇが正妻。

 つまり私は、妾や内縁の妻にしかなれないのだ。

 左手の薬指を観る。

 私の指に、指輪が嵌ることは一生無いのだと、そう思うと寂しくなる。

 覚悟していたとはいえ、実際、姉ぇと比べてしまうと悲しみを覚えてしまう。

 だから、私は出来るだけの笑顔を好きな人に向けて、


「覚悟はしていましたし」


 っと、言うが、ポロリと雫が眼から溢れる。


「あれ、オカシイですね。

 御免なさい。

 あれ……あれ……」 


 言葉で抑えつけようとするが、抑えきれず、両手で顔を塞いでしまう。

 ペタンと、床にしゃがみ込み、しゃっくりを含んだ嗚咽が出てしまう。

 誠一さんと姉ぇに迷惑を掛けたいわけでは無いのに、抑えきれない。


「燦、すまない」


 そんな優しく私を抱きかかえてくれる。


「あやま……謝らないでください……」


 精一杯、私は我慢をして顔をあげて彼を観ると、


「いや、燦に指輪を渡せなかった理由はそれじゃないんだ。

 僕は燦にも用意をするつもりだったんだが……」


 誠一さんがとてもバツが悪そうな顔をしている。


「僕のアルバイト代が足りなくてな?

 初音のしか買えなかったんだ」

「……へ?」

「すまない」


 誠一さんが、私からいったん離れ、身体を小さくする。

 土下座だ。


「しどー君、甲斐性なしー」


 っと、そんな様子を姉ぇは面白そうに言い、誠一さんの表情が口元をバッテンにする。

 しかし、私は飲み込めていない訳でして、


「えっと、つまり、誠一さん」


 私は勇気をもって確認を行うことにする。


「私にも婚約指輪を用意して頂けるんですか?」

「あぁ、もちろんだ。

 法的な結婚はダメでもなるべくのことはしたい」


 完全に不意打ちだった。

 落として上げる、いや、勝手に落ちて上がっているだけだが、私の心が飛び跳ねそうになっている。

 好き。

 その気持ちが溢れそうになり、


「誠一さん、本当に意地悪です……。

 乙女心をこんなにも、こんなにも、もてあそぶなんて」


 っと、私は頬に熱を覚えながら言う。

 当然に女の私が出てきて、呼吸が速くなる。

 触って欲しくなる。

 頭も、胸も、下も。


「誠一さん、誠一さん。

 しませんか?

 意地悪されて、身体がですね……じゅんじゅんしてるんです」

「しませんか、じゃないわよ」


 べしっとハリセンが私の頭に飛んでくる。

 振り返れば、姉ぇが鬼の形相をしている。


「今日は私がするの!

 ご褒美貰うの!」

「ズルいズルいー!

 昨日も、試験の結果が不安だからって一人でして貰ってたのに!」


 ガルルっと、姉妹で対峙してしまう。


「こら、二人とも喧嘩しない」

「「はーい」」


 誠一さんに言われれば、姉妹仲良く返事してしまう。

 どうしたって私達姉妹は、誠一さんが好きなのだ。

 だから、喧嘩するし、仲直りも簡単だ。


「代わりと言っては何だが、そろそろ来る頃だな」


 っと、壁に吊り下げられた時計を誠一さんが見上げた瞬間、家のベルが鳴った。

 そしてしどー君が対応し、届けられたのは一つの箱。

 差出人は、


「鳳凰寺さん?」


 つまり、姉ぇのオジサンで、私たちの叔父さんだ。

 開けると、何やら小脇に抱えられるぐらいの箱が二つと両手サイズの一つ箱が入っている。


「奥さんの為に買ったら二つ付いてきたから、どうだと問われてな?

 貰いモノになって申し訳ないんだが、燦なら喜ぶかなと」

「へ……?」


 サプライズ二段構えの不意打ちだ。

 どん底から、隙を見せない二段構えで私の女心を誠一さんが鷲掴みにしてくる。

 嬉しすぎて、危ない。

 お腹の底が熱くなっている。


「開けてみてくれ」


 小さい箱を手渡される。

 開けると、何やら輪っかが入っている。


「……ベルト?」


 にしては小さい。

 私はおろか、姉ぇのウェストでも止められそうにないほど、輪が小さい。精々、腕にはめれる大きさで、色は可愛らしいピンクだ。


「……ちょっと、叔父さんの首を絞めてきていい?

 さすがに、これはアブノーマルよ」

「まぁ、待て。

 僕としては有りだと思うんだが?」

「しどー君、危ない趣味に開眼してない?」


 姉ぇが何かに気付いたのか、携帯を取り出すが、誠一さんに止められている。


「燦、それは首にするんだ。

 つまり、婚約首輪だ。

 とりあえずだが」


 ……ぇっと?

 ちょっと、私の理解の範疇外に出てしまった気がする。


「つまり、こうですか?」


 っと、着ける。

 ぴったりのサイズだが、材質が見た目よりも柔らかいのが息苦しさは全くない。

 リードをつけられるよう金具もついているが、シンプルなデザインの出来になっており、一目ではファッションの一種にしか見えない。

 スマホで自撮りして、観るが、今着てているブラウスと合わせてもあまり違和感が無い。

 ドレスを着せられた時、チョーカーもしていたのもあるだろう。


「うん、サイズもピッタリだな」

「うんじゃないわよ、しどー君。

 どうすんの、首輪なんか……」

「僕のモノだと示せるし、良いかなと」

「良いかなじゃないわよ!」


 姉ぇが、誠一さんに前から詰め寄っているが、


「えへへ……誠一さんのモノ……」


 私に湧いてくるのは当然嬉しさだ。

 付属のリードも首輪につけて、


「ご主人様、わんわん♪

 嬉しいわん♪」


 誠一さんの味方になろうと後ろから抱き着く。

 そして姉ぇに向けて、女として繋ぎ紐を見せつけながら、誠一さんに渡し、挑発の笑み。


「く!

 燦ちゃんがいいなら良いけど!

 で、他のには何が入ってるのよ……?」

「服だ。

 それぞれに渡して欲しいと」

「叔父さんのことだから、コスチュームね……」


 あきれるがままに姉ぇが二つの箱を開けると、


「うわ……うわ……」


 頭を抱える。

 観ればそれぞれ別の動物を象った衣装が二つ。

 一つは黒い兎耳が一番上に乗っており、もう一つは茶色い犬耳が乗っていた。

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