第101話 祇園へとデートの続きですが、何か?

「穴を二度潜るのって珍しいわよね」


 恐らくそれが安井金比羅での並びが長くなる理由だ。

 本殿に参拝し、その列に並んだ。

 そしてようやく岩の穴を潜った私は形代かたしろをペタリと張りながら、私はしどー君にそう感想を述べた所だ。

 もう既に馬の形をした岩にはビッシリと先客のが張られており、張り先に悩み、結局、他の札に重ねることにした。


「あと、スカートで来なくてよかったわ。

 何人か前の人、見えてたし」

「確かに」

「何みてんのよ。

 這いつくばりながらのバックなんてよく見るでしょ?」


 しどー君が同意してきたので、笑いながら突っ込みをいれる。


「初音のお尻もあんな風に他人に観られるのかと。

 ズボンでも嫌だからどうやってフォローに回ろうかと考えるために観てた」

「ああ、だから入る側の後ろにいたのね。

 てっきり私のが見たいのかと」

「見たくないといったら嘘になるな。

 初音のお尻、綺麗だし、触り心地いいし」


 周りに人が少ないことを見越してか、そんなことをのたまうしどー君。

 羞恥プレイの一種だろうか?

 私の心臓がドキドキと鼓動を早くし、じわりとお腹の奥が熱くなる。


「……夜、覚えてなさいよ?」


 バックから……うーん、顔面騎乗かと、夜を浮かべながら言ってやると、


「楽しみにしてる」


 頬を赤らめながらこう本当に嬉しそうにしてくれるからマジメガネなのだ。メガネしてないが。

 先ほども述べたが、この男、私がセクハラ発言しても本当に物怖じしなくなった。

 逆に私がドキドキさせられてしまうのだ。

 私が育てたのは確かだが、元々、ジゴロの才能があったのかもしれない。

 もしかしたら、違う育ち方をしていたら、逆援助交際なしどー君なんかになっていたかもしれないと考えたらちょっと面白い。

 そしてその世界では反対に私が真面目ちゃんで、そして出会うと。

 ママ次第では私もお嬢様だったわけで、あり得なくはない可能性ではあるが、レディコミネタの読みすぎだろう。


「ふふっ」

「どうした?」


 さておき、祇園の道を戻り、待ち合わせに向かう。

 奇麗に舗装され、風情ある町家を横目に並んで歩いていく。

 人はそれなりに増えていき、必然、私達は手を繋ぐ。

 じんわりとした彼の体温が手から伝わってきて心地よい。


「しどー君と私が、マジメと援交が逆だったらと考えてたの」


 しどー君の口元がバッテンになる。

 案外、しどー君がしてたらマリちんのように援助交際のサポート役として助けてそうな気もする。


「んー、初音は実のところ真面目だから、想像つかなくはないが、僕がか……」

「そうそう、ヤリチンしどー君。

 これは今もか」

「……初音?」

「ハーレム男だし、反論は受け付けません。

 私を何度食べたことやら。

 燦ちゃんもこれから何度食べられることやら」


 巨乳美人年子姉妹食べ放題だ。

 シシシと笑うと、しどー君が顔を赤らめてくれる。

 さておき、


「男子の援助交際なんかもあるのか……」

「話に聞いてるだけだけど、上は六十、下は二十の女性を相手にするらしいわよ?

 ホストだとか、紐だとかを絡めて想像するといいんじゃないかなぁ……。

 レンタル彼氏なんかもある時代だし、そっちの方が分かりやすいかな?」

「なるほど。

 ……紐やホストは分かるがレンタル彼氏?」


 おっと逆に付け加えで混乱させてしまったようだ。


「えっとね。

 仲介業者経由で、彼氏を借りれるのよ?

 基本的に性交渉なしで」

「……つまり、彼氏がいるぞと見せかけたりする時に使うのか?」


 理解が及ばないのか、しどー君が珍しく悩んでいる。


「それもありよね。

 後は純粋にデートの練習だったりとか、暇だったり、寂しい人が使ったりだとか」

「確かに孤立社会化している今なら需要がありそうだ」

「個人でやるのと違ってレビューとか評価も掲載されるから、女性としても安心らしいわ。

 ほら、基本的に女性の方が力弱いし、無理矢理されるかもしれないじゃない?

 男性としても性を絡めちゃうと美人局つつもたせの危険もあるし、安心よね?」

「なるほどな……」

「ちなみにしどー君はやっちゃダメよ」


 一応、釘を刺しておこうと、私の胸へとグイっと引き寄せる。


「やらないが、何故」

「絶対モテるから。

 何だかんだ素直なイケメンだし、好感度高いから。

 あと、真面目に相談受けて、業務外のプライベートまで助けようとしそう。

 正義感発揮して面倒ごとにも突っ込みそうだし」

「確かに」


 どんな話を祇園でしてるのやら……。

 とはいえ、祇園自体が花街だった訳だからある意味、場所に合っているのかもしれないが。


「ぉーい、姉ぇ! 誠一さん!」


 話題を切れたタイミングに、よく聞きなれた声が響いた。

 祇園のとある十字路。

 待ち合わせた燦ちゃんが手を振って、犬のように駆けてくる。

 さっき、安井金比羅さんに並んでいた時にラインが入っていたのだ。


「おいっす、燦ちゃん。

 どうだった?」

「マリさんのこともなんとなくわかったよ……。

 本気だという事も」

「ならよし。

 私もノノちゃんが本気だということが判ったし。

 しどー君の言う通り、ちゃんと知らなきゃダメよね」

「そうだね……」

「細かいことは後にしよっか。

 人も多いしね?」

「うん」


 シミジミと姉妹で仲直りをする。


「姉妹仲は良い方がいいよな、うん」


 そんな私達を観て、納得する部外者が一名。


「なんでお前が居るんだ、日野……」

「いやだって、一人にしたら危ないじゃん?

 普通に声掛けられまくってるぞ、初音さん……っていうと、ややこしいんだけど」

「まぁ、その点は感謝しておこう。

 燦も可愛いしな」

「えへへ……」


 っと、笑みを浮かべながら妹が、しどー君の空いている左腕に絡みつく。

 私が右で両手に花を見せつけていく。


「くっ……」

「ほら、役目は終わった、帰ってくれないか?」

「少しぐらい、いいじゃないかー。

 同じ小学校のよしみだろ?」


 しどー君が心底嫌な顔をしているのは珍しい。

 高校入学から最近まで苦手だった委員長相手でも今はしない。

 何というか、ある意味凄い。


「お前、凄いな……。

 この前、燦が完膚なきまでに見せつけたと思ったんだが?」

「ははは。

 あれは流石の俺もこたえた」


 うん、ウチの妹、これにダメージを与えられたのが凄いと思う。

 頬を赤らめる燦ちゃんが、しどー君に抱き着く。

 リピートをしてやろうか、悩んでいるようで、


「お陰で新しい性癖にも目覚めたしな!」


 そう言われた燦ちゃんが動きを止めた。

 意味が無いどころか相手にはプラスになってしまうと公言されたからだ。


「可哀そうに……」


 私は燦ちゃんと日野君に向けてそう憐れみを向ける。

 何というか、恋や愛などと言うモノは業が深い。


「で、士道にちょっと聞きたい。

 初音さん達のことじゃないから安心しろ。

 警戒するな」

「……何だ?」


 言われ、しどー君が当然に警戒をしながら問う。


「お前に双子の妹が居たよな。

 写真をくれ」

「唐突に何を言ってるんだ、お前は」


 しどー君が全力で警戒という文字を浮かべたまま、異世界人を観るような目線を日野君に向ける。

 妹という情報は聞いていたが、双子と言うのは初めて聞いた。


「気になったことがあってな?

 その確認だ」

「妹のこと、お前は観たことも無い筈だが?」

「だからだよ。

 妹さんは学校も違ったし、既に別居もしてたし」

「僕も年数回しか会わない。

 写真も持ってないから諦めろ。

 持っていたとしてもお前に渡すのは、何か嫌だ」

「写真ないのか……なら、いいわ」


 何だろう。

 私も知らないことではあるが、ある考えが思い至り、


「まさか、日野君、しどー君の弟になることで燦ちゃんと少しでも近くにいたいという欲求を満たす気?

 流石に引くのを通り越して、感心の域に達するわよ?」

「日野さんならあり得るよ、姉ぇ……」


 子犬のように震えて、しどー君の後ろに隠れる妹が可哀そうだ。

 さすがにさすがにと私達三人で、日野君から距離を取る。


「あー、それも有りだな……って、ちょっと待て、初音の姉さん!

 俺が心底やべーやつみたいじゃねーか!」

「そうでしょ?

 アンタの事深くは知らないけど、燦ちゃんから話を聞く限りは、やべー奴認識よ?」

「……俺の認識ぇ……」

「彼氏が来た女性と一緒に行動しようとしてる時点で、事実よね?

 ストーカーというか粘着男と言うか……」

「ぐはっ」


 打ちひしがれる日野君が膝から崩れ落ちた。

 流石に人目を集めてしまうので、


「しどー君、燦ちゃん」

「了解」

「うん、わかった」


 っと三人で、放置して帰ることにした。

 祇園に不審者が現れたと通報があった話は後でネットで見た。



 


 



 

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