第100話 安井金比羅へとデートですが、何か?

「美味しかったわ。

 棒鱈ぼうだらに芋って合うのね……」


 そんなこんなで二人でデートを続けている。


「あの芋は海老芋って言って、縞々模様と腰が曲がった形が特徴なんだ。

 あの二つはお互いに、芋の煮崩れを防ぎ、棒鱈を柔らかくする効果があり、支え合うんだ。

 僕たちみたいだな。

 初音の身崩れを防ぎ、逆に僕を柔らかくしてくれるし」

「……しどー君、結構、恥ずかしい事、平気で言うよね?」

「そうか?」

bぅ キョトンとした表情で私を観てくる天然マジメガネである。


「えぃ!」


 顔を真っ赤にして、眼を潤ませた私であって悔しくなったのでしどー君の腕に抱き着いてやる。

 しどー君も私を甘受してくれる。

 公園の中を練り歩いていると、結構、人が居る。

 子供が遊んでいたり、カップルが居たり、年老いた夫婦が座っていたりだ。


「あそこは結構、味がしっかりしてるから驚く人も多いみたいだな」

「そうね、甘味が強くて、ぉ、凄いと思ったモノ。

 でも、京都の人って結構濃い味好きよね?

 ラーメンなんかガッツリ系じゃない」

「あー、確かに。

 背油だったり、コッテリだったり、黒い奴だったり」

「大抵カップ麺も京都風、つまり京都っぽいラーメンで、京都のラーメンではないのよね」


 そんな話題をしながら、八坂神社を経由して祇園の方へと降りていく。


「燦も来れればよかったのに。

 美味しそうに食べるからな……ホント」

「まぁ、良いんじゃない?

 気を使ってくれたのかもしれないし」


 燦ちゃんは何だかんだ、マリちんと日野兄とで会話が弾んでいるらしいことはラインで送られてきた。

 そもそもコミュ障気味の妹としては、良い傾向なのかもしれない。


「そういえば、日野弟君は恋愛心自体がまだ無いっぽいわね。

 二人ともに」

「そればかりは腫物みたいなものだからなぁ……。

 気づいたら好きだったとか、そういうモノ以外は知り合って好きになっていくしかないんじゃないかと」

「前半は私、後半は燦ちゃん?」

「そうだ」


 何だかんだで、恋愛のプロセスを二種踏んでるしどー君である。


「どっちが正しいという訳ではないことは、身をもって知ったしな。

 今の僕としてはとりあえず、両方と付き合えばいいんじゃないかなと思う」

「おーい、マジメガネなしどー君は何処へ行ったの?」


 私は一旦彼の手から離れ、目の前でクルリと周り、面白そうに彼を観ながら言ってやる。


「初音、君が何処かへ吹っ飛ばした訳だが?

 異性への考えなんかは特に」

「あはは……」


 そもそもにしどー君に妹との浮気を提案したのは私だ。

 大切な妹を壊さない為と言うのもあり、仮の付き合いを本気でして傷つかないように振れという話がこじれて二人で彼女に成ってしまっている。

 悪い事かと言われると、そんなことは無いとは今は思う。

 あの頃は、いや今もだが、しどー君には多くの経験を積んで大きくなって貰いたいし、私という存在で彼の可能性を制限したくないのは常にある。


「それに考え抜いた結果だが、結局は人間、一対一という訳でも無いんじゃないかと」

「でも、しどー君が彼女を更に増やしたら私、嫉妬で狂うかも」


 とはいえ、浮気を積極的にして欲しい訳ではないし、妹以外に女の子を追加するなんて言われた日には相手の女子をどうにかしてしまうだろう。


「言っとくが増やさないからな?

 初音に燦、僕は既に贅沢者だし、これ以上はお腹一杯だ。

 美人で器量が良い初音に、マジメさと可愛らしさと女らしさがアンバランスな燦……そんな年子姉妹を頂けるなんて、ホント僕は何というか、言葉にならない幸せ者なんだぞ。

 しかもお互いに許容する関係になっている。

 何というか、怖いと思うぐらいだ」

「確かに贅沢者よねー。

 このハーレム男」


 と、意地悪い笑みを浮かべてやる。


「でも、女の子に迫られたらどうする?

 内緒な関係でいいですからー、都合のいい関係で良いですからーって」

「とりあえず、初音を見せる。

 超えれないと教える」

「っ……私の評価高すぎぃ……」


 両手重ねて、口元に当てて驚いてしまう。

 私自身、自信満々で、努力も怠っていない訳ですが。

 そう真面目な視線で射抜かれるように言われると頬が赤くなってしまう。


「それぐらい、僕は君に恋してる」

「うは……♡」


 クラっと来た。

 このマジメガネ、ホントにこういう所がズルい。

 時折、ビックリするぐらいストレートに欲しい言葉を言ってくれるし、乙女心をくすぐってくる。

 本当に良い彼氏だ。


「……ビッチ、喜ばしてどーすんのよ♡」

「こうするんだ」


 っと、前から抱き寄せられて、軽く唇を合わせられる。

 何が起きたか確認するかのようにペロリと舌で唇を舐めると、お昼で食べた甘い味がした。


「……しどー君。

 卑怯! 意地悪! 今日はメガネしてないけど、鬼畜メガネ!」

「ダメだったか?」

「ダメじゃないし、嬉しくなっちゃうの!

 私が抑えきれなくなったらどうすんのよ♡」

「うーん。

 それはそれで考えるかな」


 っと、意地悪く笑みを浮かべてくる。


「く、私が翻弄されてる……!」


 嬉しくなると同時に、悔しくなってくる。

 そして周りを観れば、カップルが暑い日に暑いことしてんじゃねぇと、歩いていく人たちの目線が……。


「……結構、大胆になったよね……しどー君」

「そうだな。

 初音のおかげだ」

「まぁ、そうなんだけど……。

 昔、赤面してたしどー君が懐かしいなと、少し寂しい」

「プロポーズした段階で覚悟が決まったからな」


 まぁ、こういう人だ。

 覚悟が決まれば突っ走れるタイプのマジメガネだ。


「とはいえ、僕もまだまだ初音にドキドキさせられることはあるんだぞ?」

「ほほん、例えば?」

「ふとした瞬間、初音に目線を無意識に向けていて、それを気づかされたりとか。

 初音自身を感じさせようと腕に抱き着いてきてくれてる時とか。

 会話の中で僕を色っぽく誘ってる時とか……」

「すたーっぷ!

 流石に聞いてて私が恥ずかしくなった!」


 ヤバいヤバい。

 マジメに答えてくれることは判っていたが、クリティカルが連続した。


「……くぅ、ホント、マジメガネよね」

「そりゃそうだ」


 クエッションマークを浮かべてくるのが、なおのこと悔しい。

 この人天然でこれだからな……。


「さて、着いた」


 目的地、安井金比羅だ。

 札を持った人が列を作って並んでいる。

 先を観れば物凄い量の札が張られた何かの物体があり、その下の隙間を人が通り抜けている。

 私達もそれにならおうと、札を貰う。

 札は『形代かたしろ』というそうで、百円以上を払う形だ。

 そして記入台で悩む。


「なんて書けばいいの?」

「……ここに来る人達は、人との縁を切りたい場合は、実名を書いたりする。

 過激なモノだと、○○滅びろ! とか、住所付きで記載されたりする」

「凄い神社ね……」


 個人情報、なんのその、書く方もそれだけ真剣なのだろう。


「逆に縁結びの効果も期待できるから、結婚できますようにとかも散見される」

「うーん。

 そうだ」


 閃いて、記す。


『援助交際から縁切りと』


 うん。これで良い。


「もう何か月もしてないけどね」

「心構えとしては有りなんじゃないかと。

 ここの効果は僕も実感しているが、基本的には自分が『する』という気構えも重要だから」

「なるほど」

「ただ、かなり強烈だから、気を付けて書いた方が良いのは確かだ」


 言われ、思う。

 だから、


『但し、友達関係は切らずにお願いします』


 こう書き加えておく。

 よし。


「しどー君はなんて書いたの?」

「有難うございますって。

 願っていた縁が手に入り、その子と仲良く参拝させて頂いております、と」


 このマジメガネ、神にも惚気ておる。

 凄い。


「思えばだが、あの時、書いたの『同学年の初音』と良縁を結びたいなんだよな……」


 しどー君の筆が止まった。


「……待って、それって燦ちゃん対象になってない?」

「僕もそう思った。

 だからこそ、燦の痴漢事件に会えた可能性がある。

 あの時、僕は確かに通常と違う時間だった」

 

 燦ちゃんも『同学年』だ。


「となると、今の文は危険だ。

 今後、初音全員が対象になる可能性がある」

「書き直ししとくのが良さそうね」


 そして、しどー君は改めて百円を払いなおし、こう書いた。


『良縁を有難うございます。

 今後とも三人で頑張りますので見守り下さい』


「こんな感じか。

 今度は燦もつれてこよう……」

「そうね。

 やっぱり三人で来た方が良いわよ、ここは」


 そして、列へと並ぶのであった。

 

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