第96話 幼女にアイスを奢りますが、なにか?
「あいすー♡」
何故か、私はアイスを奢っている。
何というか、援助交際するオジサン達の気分が判る気がする。
可愛い女の子に嬉しがってもらえると、うん、奢りがいがある。
まだ乾ききっていない髪が蒼く見えて、ちょこんとゴムでくくられているのも少女らしさが出てよい。
「ありがとうございます」
その隣、日野弟君にも奢った。
三人でプールから引きあげた帰り道だ。
お地蔵さんの横にベンチがあるので、ノノちゃんを真ん中に座って食べる。
私のはレモンの切り身が入った氷、二人はすするタイプのチューブアイスだ。
人の良さそうなお婆ちゃんにお金を払い、二人にアイスを渡す。
「しかし、プールから出ると暑いわね……」
むわっとした熱気が私達を焦がそうとしてきた。
京都は盆地地帯であり、大通りの先を見つめると道路から陽炎が立ち込めることもある。
だから、アイスに逃げたのは必然だったのかもしれない。
「こりゃ、京都市内に住むというのは中々に大変だわ……」
「そうですね。
僕もずっと居ましたけど、亀岡で助かってます」
「ノノは、なれたー」
えっへんと胸を張る幼女。
「ノノちゃんちは近くなの?」
「ちかくだおー?」
っと、タバコ屋を指さす。
「……あぁ、なるほど。
これは氷を一杯食わされたわけね」
「えへへー」
とはいえ、幼女の笑顔に悪い気はしない。
「で、弟君よ。
何故に、燦ちゃんがそんなに好きなのよ?
あの子、ドジで間抜けで空回りしまくりよ?」
「そういう所が良いんですよ?
それに何というか、一緒に居ると構いたくなるというか……。
甘やかしたくなるというか。
僕なんかより大人なのに、何だかこう、観てるとドキドキするんです」
判らなくはないというか、ほぼ同意だ。
ちゃんと観ているな、やっぱりこの子。
一方、この子の兄を思い返すと何でこんなに差があるのかと思う。
「この子も抱き着くと良さそうよ?」
「えへー♡」
っと、横に座るノノちゃんを示す。
「ノノは……何というか、京都人特有の腹黒いのが透けて見えてて……。
造りものっぽい感じがあるのが……」
「……」
「喋ろうと思えば、普通に喋れると思いますし。
学校の成績はこう見えていい方なんです、ノノ」
それはどうかと思いながら観ると、ノノちゃんが顔の笑顔を固めていた。
どうやら弟君の言ってることがあっている様だ。
「ノノちゃん?」
「えへー」
舌を出す仕草で反応してくれるが、聞いてしまったためか、ちょっと黒く見える。
「そういう腹黒ロリもいいんじゃないかなぁ……」
「初
おっと思考が漏れた。
誤魔化すように、
「燦ちゃんに姿かたちそっくりの私にはピクンともしないのにねー?」
彼の頬をツンツンとつつく。
くすぐったそうに彼はしながら、
「初
「まぁ、その見立ては妥当ね」
「それに何というか、初
うーん。
この子も大分オカシイのではないだろうか?
「そんなあの子も他人のモノだけどね?」
「はぁ……」
弟君が私の言葉に大きなため息をつく。
「そういえば、マリちん……マリのことはどう思ってんの?」
「いい人ですね!
何というか……初対面は怖かったんです。
顔を真っ黒に化粧してますし」
確かに初対面の印象は強い。
ああ言うギャルなんかに不慣れな人へ対しての威嚇としては抜群だ。
「前を観て無かった僕が悪いのに……元気づけてくれて。
その後も、何度も話を聞いて貰って」
「燦ちゃんへの気持ちの忘れ方?」
「そうです」
マリちんの惚気話の中から使える数少ない情報を引き出し、推論を話していく。
「その、いきなりくすぐられたのはあれでしたが……。
笑うと楽になりましたし、ゾクゾクとした感覚も初めてでしたし、僕のことを思ってしてくれたので嬉しくて……。
世の中、こんな人や事もあるんだなと、新鮮です」
そしてはにかんで頬を赤らめて笑う。
脈はある感じだ、よろしい。
「知らない市内をちょっと案内してくれたり、気晴らしだと色々してくれるのも、甘えっぱなしで申し訳なくなる感じもあります」
「むー!」
ノノちゃんが頬を膨らませる。
「ちなみにマリちん……マリは異性としてどう?」
「どうとは?」
「恋愛対象になる?」
素直に聞いてみる。
これはもしそういう対象に見ていなくても、意識させるきっかけになるのだ。
「どうでしょう……会ったばかりですし。
一緒に居ると楽しい、とは思えますけど」
言い淀む。
「僕が子供すぎて、つり合いが取れそうにないですよ……」
「マリちんは気にしないと思うけどねー?
試しでも良いから付き合ってくださいって言ったら、喜んで付き合ってくれるわよ? きっと」
付き合うって確信はあるのだが。
それこそ、そこら辺のオネショタ案件の漫画が裸足で逃げ出すかもしれない。
そうでなくても、
「あの子、あんな身なりだけど、面倒見が良いタイプだし」
私も色々と助けて貰ったことがあるからこれも間違いない。
だからこそ、これは恩返しも兼ねているのだ。
「彼氏欲しいらしいし、一回言ってみ? 言ってみ?
お姉さんに自分を委ねて、経験を深めるのもアリなんじゃないかなー?
きっと、君の知らないことを教えてくれるわよ」
「……どうなんでしょ?」
っと、ゴクリと唾を飲む弟君を見過ごさなかった。
流石、歴戦現役ビッチであるマリちんだ。
ちゃんと記憶や本能に女の存在を刻み込むことはしているらしい。
「むー!
初
そんな私に頬を膨らませてくるノノちゃん。
「……で、このノノちゃんなんかはどうなの?」
私は言うか言わないか悩んで、
「もし、腹黒いのが本当だとしても、それを隠してあどけなさを演じているのは、多分、貴方の為だと思うけど?
きっと、天然な燦ちゃんみたいな所を真似しようと頑張ってるんだと思うし」
言った。
流石に言わないでいるのも何だか、可愛そうだと感じたのだ。
「……」
言われた弟君は眼を見開き、悩む。
一旦、ノノちゃんを観、
「えへー、ひのくんすきー」
「僕を好いてくれてるのは判ってますし、そういうのは良いと思うんです」
弟君に抱き着くノノちゃんを甘んじて受け止めながら続ける。
「けど、何というか、ノノは小さい頃から面倒を観ていたからか、空気みたいな存在なんです」
幼馴染あるあるである。
言われ、ノノちゃん俯いて「だよね……」と呟く。
「きっと、ノノちゃんは美人になるわよ?
それに今だったら、自分の好みにカスタマイズ可能よ?
源氏物語ね?」
「「げんじものがたり?」」
流石に小学生には難しい話である。
「例えば、燦ちゃんみたいなおっきな胸が好きなら、今から牛乳飲ませて、揉んであげるとか」
「初
僕だって保健体育ぐらい受けてるんですから……」
まぁ、高学年だし。
「そう言うことに興味を持つのは有りだと思うけどねー。
何事も節度よ。
抑えすぎてもダメ、嵌りすぎてもダメ、ホドホドってやつよね?
どこぞのマジメガネなんて反動が凄くてね……?」
「……士道さんですか?」
「そうそう。
何というか、あんだけ性欲強いのによくもまぁ、抑えてたもので……。
巨乳好きだし、あはは」
最近、彼はどんどん成長している。
私を食べて、経験値が上がり、レベルアップしているのは間違いない。
何というか、翻弄されることも増えてるけど、悪い気分じゃない。
「……士道さん、初
しまった、惚気すぎた。
まぁ、とはいえ、黙っていることでも無い。
「そうよ?
でも、私とも付き合ってるの。
私達、姉妹は彼のモノなのよ。
徹頭徹尾、君が入れる隙間が無いくらいにね?」
「……そう、ですか……だから、お兄ちゃん、士道さんが狂ったと……」
希望は与えない。
ここで誤魔化すような話に持っていくと、私を応援するとか言い始めそうな感じもある。兄がそうだった。
「だから、試しに女の子と付き合ってみて、燦ちゃんのことはいい思い出にすればいいんじゃないかと、姉ぇ様は思う訳ですよ?」
「なるほど……」
「まぁ、考えすぎるとホントに大変だから。
しどー君もそうだった」
二股決意するまで紆余曲折あったし。
「わかりました、有難うございます」
そう彼は力なく笑うのだった。
まだ、失恋を癒すには時間がかかりそうだ。
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