第92話 世の中狭いですが、なにか?

「はつねん、はつねん。

 恋ってどうやってみのらせるん?」


 呼び出されて来てみれば、何を言い出すのだろうかこの処女黒ギャル山姥ヤマンバビッチは。

 私は四条河原町のいつものイタリアンチェーン店に呼び出された理由に、


「マリちん、正気?」


 そう声を掛けた友達は苗字は不明。

 本名、マツリ。通称マリで、私が呼ぶ時はマリちんだ。

 京都の某高校生の制服を纏う姿は、私が中学の頃から変わっていない。

 そして何より変わっていないのは、黒く塗りたくった顔の化粧だ。

 下にはそれなりに整った顔があるのに、もったいないとはいえ、本人に理由があるので仕方なし。 


「しょうきよー……いや、正気じゃないかもー……?」

「は?」


 そして理由を聞いた私は眼を丸くすることになった。

 何故ならば、

 

「小学生……?」


 犯罪臭しかしなかったからだ。


「あははー、色々あってねー?

 慰めることになってキュンキュン私の乙女回路がね?」

「えっと110番は何番だっけ?」

「あはは、はつねん、うけるー」

「慰めるってまさか、あんた。

 犯罪に巻き込まないで……私、人生が順調なんだから……」


 手を筒を持つ形で上下して行為を示してやりながら言ってやると、


「流石にそれはないよー」

「それは……?

 ちょっと待て、何をした。

 男性器弄ってないのは判ったけど」

「ちょっと、その子の乳首弄ってあげたー☆

 シャツの下から手を入れてあげて、くすぐるのに見せかけて。

 笑わせてあげようと思ったんだけどー、ついついー」

「……小学生の性癖を壊す気?」


 実は胸の先は男子にとっても性感帯の一つだ。

 私なんかも、援助交際時代によく使っていた技の一つである。

 なお、しどー君にやると怒られるのでやっていない。感じすぎるということで敏感マジメガネである。 

 悶えるしどー君なんか見たくないと言うのはある。


「ビクビクしちゃってさ……ぐへへへー。

 とはいえ、元気になってくれたからヨシ!」

「よだれ垂らさないでよ。

 全く、マリちんがオネショタ性癖なんてね?」

「好きになった子が小学生なだけだよー?」

「はいはい、ロリコンやショタコンはみんなそう言う。

 私達で考えても五歳下はヤバい感覚なんだから」


 さておき、


「まあ、一番、順調よねー。

 だから、恋について教えて欲しかったのよー?

 ほら、援助して傷つく娘って結局多いわけで、身体的にもー、精神的にもー、金銭的にもー。

 聞ける人少ないわけよー」


 まりは、うんうんと思い返しながら、


「認めてほしい欲求がここでしか発散できなかったりしてのめり込んだりして、エステやら化粧に金注ぎ込んだりー。

 先輩の中にはー、悪い男にだまされてすてられてーとか。

 私みたいに真実の愛をこじらせてーとかー」


 怖い話であるが、現実だ。

 パパ活に名前を変えてもやってることは変わらない。


「キャバと違い、私たちには後ろ楯もなにもないからねー」

「マリちんは何か後ろ楯ありそうだけどね?」


 何だかんだ、情報屋である。


「ないないー、ないあるよー。

 あったらこんな顔してないでしょー?」

「顔は違う理由じゃないの?」

「ふふふー」


 笑みを浮かべて誤魔化そうとしてくるのは、いつも通りだ。


「で、小学生はやめときなさい」

「……うーん、なんかね、ビビっと来たのよー、運命の糸?」

「はいはい」


 とはいえ、しどー君はそう言う話があったからこそ、私を選んでくれたわけで、


「一概にバカにも出来ないか……」

「お、リアリストはつねんも、乙女?」

「私は案外乙女なのよ。

 処女じゃないけど」

「はは、ビッチジョーク」


 とりあえず、奢らせたイタリアンプリンをムシャムシャと食べながら、


「心を好きになってくれる人が良かったんじゃないの?」

「ちょっと語弊があるー。

 でもその子ね、こんな私を観ても、貴方いい人ですねってきゃー☆」


 惚気を外から見たらこんな感じになるのだろう。

 私も気を付けよう。

 いや、逆に考えて、見せつけるのは有りではないか?

 カップルだし。


「はつねん、聞いてる?」

「聞いてない」

「むー。

 ホント、可愛いんだよー」


 とはいえ、恋は盲目だという事である、


「最初会った時は、走ってぶつかってきたのー。

 その子、泣くのを我慢しててねー?

 どうしたのって聞いてあげたら、年上の女性に振られたんだって。

 しかも、その彼氏に気持ちをばらされた上で」

「酷い話もあるものね」

「で、お姉さんに話してごらんて、おっぱい押し付けてね?」

「まな板の間違いでしょ?」

「ありますー、はつねんが大きすぎるんだよー!

 そしたら小動物のように落ち着いてくれてね?

 話してくれたのよ。

 あぁ、可愛い……!」


 ダメだこのビッチ早く何とかしないと。


「で、性的に襲ってしまったと」

「セーフセーフ!

 それに彼も気持ちがまぎれたって嬉しがってたしー!」

「それが本音なら良いわね?

 で、その小学生をどうやって篭絡するかって話?

 もう襲いなさいよ、私が知らないところで……」

「それは犯罪だよー?」

「あんたが小学生の胸をちちくりまわした時点でアウトよ!」


 話が進まない。


「で、その子ね。

 初音さんという人に振られたらしいのー、ねー、初音さん?」

「What?」

「ぉ、良い発音だー、勉強の成果だねー」


 よく聞く名前だ。

 ちょっと待て、つまり、このマリちんが好きな相手は、この前、燦ちゃんが振った……


「日野って名字?」

「だいせいかーい、酷い振り方をしたのが友達だったなんて、かなしー」


 非難の眼を向けてくる。


「それ、妹よ」

「はつねんの彼氏さん、妹ちゃんを選んだの?

 何かはつねんの発言と相違してるけど、彼氏、妹ちゃんと浮気?」

「いや、私たちが彼の彼女なのよ。

 絶賛、二股中」

「は?」


 マリちんの間延びした口調が途絶える。


「バカじゃない?

 うん、その彼氏、頭沸いてるんじゃない?

 はつねん、大丈夫?

 悪い人だよね、それ?」

「私がけしかけたから、彼の事を悪く言うのは無し。

 マリちんでも怒るよ?

 詳しいことは省くけど三人で出した結論だから」

「……めんごめんご。

 で、それを少年は知らないと。

 まぁ、知らない方がいいことかー。

 ただでさえ、失恋でへこんでたからなー」


 うんうんとマリちんが頷く。


「で、話戻すと、どうやってアピールすればを聞きたいわけよー」

「先ずは会う回数を増やすこと。

 私だって彼に毎週のように話かけられて、理解から入ったから」

「ああ、なるほど……」


 そんな感じでアドバイスをしたわけだが、世の中狭いと感じざる得なかった。

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