第85話 従姉妹ですが、なにか?

 通されて食卓。

 10人は座れる洋テーブルが真ん中に鎮座しており、そこに紙ナプキンやらフォークとナイフやらが各席に並んでいる。


「あ、姉ぇ、私、テーブルマナー知らない……!」


 小声で震える妹が、知らないところに放り出された子犬のようだ。

 馴れない黒ゴスロリ服もあっと大変緊張していている。

 そんな様子を微笑ましく観察する叔父さんと、何か言いたげなママ姉。


「燦ちゃん、朝御飯はフォークナイフを外から使うとか基本無いから、いつも通りに食べたら平気よ?

 基本的にママが行儀をそれとなく教えてたし」

「で、でも……」

「今のパパママの方がよっぽどだから……」


 広いテーブルなのに席をくっつけて、朝からイチャついているパパママを観る。

 他人様の家だというのに、スゴいなと思うが尊敬はしない。

 なお、私は余裕がある。

 何だかんだ、援助交際してた人達に一通り教えてもらっているからだ。

 人生、何処から得た経験が役に立つかは判らないモノである。


「叔父さん、妹が不馴れなのは目をつむったげて?」

「親族じゃからのー。

 気楽にしていいのじゃが?」


 言外にしどー君は違うぞと、暗に示された気がした。

 まぁ、しどー君はしどー君なので無問題だ。彼の方が私より慣れてるだろうし、何と言うかいつも通り真面目な顔をしている。

 つまり、通常運転だ。

 そんなこんなで、朝御飯が始まる。


「戻りました、御父様。

 ……?!」

「おかえり、リク」

「こんにちは、昨日ぶりね、リクちゃん」


 途中、入ってきたのは金髪少女、リクちゃんだ。

 シャワーを浴びてきていたのか、少し湯気が立っている。

 服装は長目のスカートと白色のブラウスだが、それだけなのに絵になっている。

 そんな彼女は私に戸惑いなら軽く会釈をし、そしてイチャついてるカップルを観て動きが停まる。


「えっと、御父様?」


 初めて会った時より堅い口調。

 叔父さんはそんな私たちを観て意地悪く、笑顔を浮かべる。


「三塚側の親族じゃ。

 そっちのバカップルが、初音夫妻、つまりお前の叔母、叔父にあたる。

 で、その姉妹が従姉いとこで、その隣がその彼氏」

「つまり、御母様側なんですか。

 はぁ……」


 ママ姉を睨み付けるように言う。

 今にも飛びかからんとしており、本気で嫌いらしい。

 酒の席で、教育ママになりすぎたり、母親として失格なことをしたと愚痴が出てたが、詳細までは聞けていない。

 ただ、ちょっと寂しそうには感じた。


「リク。

 その方たちは三塚とは縁を切っているから、警戒しなくても平気じゃぞ?

 そこの姉妹はわし等と親族であることを知ったのは昨日じゃし、ソラとも友達だとのことじゃ」

「ソラ姉様に友達……?」


 疑問系になるとかリクちゃんから観て、お嬢はどんなイメージなのだろうか……。


「うん、お嬢とは友達よ?」

「……」


 彼女は私を観ながら、一寸考え、


「昨日、お兄様も警戒せず、言い合ってたから平気ですね。

 失礼いたしました。

 改めてウチは鳳凰寺・リク。

 この家の次当主となりますので、以後お見知りおきを」


 硬い。

 硬く挨拶を返そうと思ったが、そういう関係で進めるのは何というか、嫌だと感じた。

 何故ならば、


「うーん、リクちゃん、リクちゃん。

 私ね、初めての親戚だから仲良くしたいんだは、硬いの抜きでいい?」

「えっと……」

「下の名前、苦手だから初ぇって呼んで?

 こっちの妹、燦ちゃんにもあねぇって呼ばれてるから」


 と、言うとリクちゃんは、


「名前が嫌い……なるほど」


 とナゼか嬉しそうに少女らしい笑顔を浮かべて、


「改めてよろしくお願いいたしますの。

 ただ、姉呼びは色々とややこしいので初音さんと呼ばせていただきますの。

 妹さんは燦さんで」


 口調を砕いてくれる。

 よく判らないが、よし。


「妹が出来たらあんな感じなのかなあ……」


 帰り道、三時頃の西舞鶴発の京都行きの特急。

 一つ座席をひっくり返して相席状態しながら話しているとリクちゃんのことが出てきた。

 なお、姉妹で白黒ゴスロリなので、人の目線をいつも以上に感じる。


「何と言うか、ヤのつく稼業の次当主と聞いてたけど一皮むけば、普通の少女な印象だったわね」


 燦ちゃんとリクちゃんと私の三人で話はそれなりに盛り上がった。

 内容としては、好きな人の話とお嬢の話だ。

 それこそ朝食が終わっても続き、しどー君のことをノロケる代わりに、委員長の意外な素顔が聞けた。

 

「切っ掛けは燦ちゃんと同じようなモノで、暴漢から助けて貰ったらしいから、血筋的に惚れやすいのかもね。

 ヒロイン願望が強いと言うか」


 王子様に憧れてた私が居たのは事実だし、間違いないだろう。

 しど-君は私のヒーローで王子様だ。


「あと、血筋で性欲強いのは確定。

 斬り込んで、エッチな話題に振ると顔を真っ赤にしながら興味津々の前のめりで……燦ちゃんが聞いてくるのとそっくしだったし」

「……私、そんなに前のめり?」

「自覚しなさいな」


 ちなみに機会を観て是非にと知識を教えることになった。

 着実に委員長を貶める準備を進められているとほくそ笑む、ふふふ。

 さておき、


「妹か弟は出来るかもね。

 少なくともパパママは作るっぽいし」


 この前、実家で掃除してた時にカレンダーに書かれていた一ヶ月毎のマークが証拠だ。


「所でしどー君はどんな話してたの?」


 時おり、しどー君を観察している視線をママ姉と叔父さんから感じたが、本人は気にした様子も無くいつも通りのマジメガネだった。

 そればかりか、逆にしどー君から質問や話題を飛ばしていたので流石である。


「初音家の話を聞いてみた」

「ほーん」


 っと、聞きつつ、私との関係に前向きさを感じるのでちょっと心臓が速くなりつつある。


「奥さんの方はやはり初音か燦を三塚家の跡取りにしたいとか、そんなニュアンスで聞き取れたな。

 自分の生家が滅びるのは忍びないのは間違いない」


 言われながら私も帰り際、ママ姉に呼び止められたことを思い出す。

 それは一度、父、つまり私から見たお祖父さんにあってくれないかという打診だ。

 パパママがずっと会ってないので、何とかして生きる気力を与えてあげて欲しいとか、そんなお願いの形だ。

 今のところ、どうしたら良いか悩んでいる私が居る。

 正直、会ってみたいと思うが、誰にも話せていない。

 とはいえ、


「私はただのビッチだし、妹にもそんな気品を感じないのよね。

 妹をリクちゃんと比べると特に」

「……ディスってない、姉ぇ?」

「いんや、親しみやすいって誉めてんの」


 妹をからかいながら、


「私の家なんか、貧乏一市民な訳で、だからこそ遊ぶお金欲しさ半分もあって援助交際をしていた訳だし。

 それがねぇ?

 実は駆け落ちしてた名家の子孫とか、昔話もびっくりよ」

「はは、士道家は普通の家系だぞ?」

「その点については信用してないからね?

 しどー君の普通がズレてるのは私が良ーく知ってるから」


 とはいえ、


「後、お嬢には勉強追いつけばいいのよねー」


 学年三位でミス1つ。

 これさえクリアしてしまえば、完全に同格だ。


「そう考えると、俄然にやるきが湧いてきたわ!」


 既にしどー君ノート、基礎編を終わらせた私である。

 道はそんなに遠くない気もする。


「良い傾向だ。

 帰ったら三人で少し勉強しようか。

 僕も昨日の遅れがあるから」

「りょーかい!」


 自分のルーツ、自信、そして新しい出会いと色々と実りが多い夏祭りであった。



ーー

l´・ω・`)お祭り短編完、次は妹、燦ちゃんの処女とデート編です。


l´・ω・`)やらしくおねがいします!

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