第84話 知らない天井ですが、なにか?

「知らない天井ね……」


 目を覚ませば、木造の天井が遠くにあった。

 知らない寝間着に体が包まれながら、ここは何処だと上半身を起き上がり左右を観れば、


「ホント何処よ……」


 しどー君ハウスがすっぽりと入りそうな大広間の真ん中だった。

 大きさで言えば五十人ほどの会食に耐えられそうだ。

 隣を観ればしどー君と妹がスヤスヤと寝ている。

 というか、妹が犬のように丸まりしどー君のお腹を枕にしてる。

 羨ましい。


「ん……おはよう、初音……」


 そんな燦ちゃんを起こさないようにしどー君も上半身を起こし、枕もとの眼鏡を装備する。

 そして一瞬固まった。


「……鳳凰寺さんの所だな?」

「あー、そういえば、そのまま拉致……ママ姉の厚意に甘えたんだっけ」

「流石に帰れなかったからな」


 バスも電車も無い。

 最悪一時間ほどタクシーを使えば帰れるとしどー君は提案したわけだ。

 流石に同級生が居なくてもその家に泊まるのはマズいと。

 正論だ。


「同じ家じゃなければいいのね?」


 っと、母屋では無く、離れに案内されるというウルトラCをかまされてしまったわけだ。

 何というか、うん、大人ってズルい。


「離れでこの広さって、どうなのよ」

「恐らくは集会所なんだろうけど」

「あー……黒服さん達とのかのね?」


 案内してくれた人が黒服のお姉さんだったことを思い出し、納得する。

 さておき、


「しどー君、叔父さんに連れてかれてたけど何話したの?」


 私達はママとママ姉の会話にここでつき合わされてた。

 ……というか、二人とも酒が入って、そのフォローに回ってただけともいう。

 ママが潰れるとか初めて見た。

 なお、パパはしょっぱなから潰されてた。

 あまり強い方ではないのだ。

 そして三人は一時間ほどで割烹着の人に回収されていった。


「クラスの雰囲気とか、委員長や娘さんの話とか。

 旨くやってるのか、気にしてるようだった」

「なるほん。

 それは親心としては正しいわね」


 あの二人は許嫁だしなあ。


「後は……」


 しどー君が苦しんだように言い淀む。


「後は?」

「女の喜ばせ方について聞かされた……。

 男はどんだけプレイボーイであるべきかとかもだ」

「うーん……」


 私も同じ意見だが、最近、しどー君が他の女性と話しているのが嫌だなーと思うことが増えている。

 独占欲には自己嫌悪は沸くし、これからも沸くだろう。

 何というか、しどー君のためになっているのだろうかと、彼の為を思うからが故に自分のエゴになっていないかの確認みたいなものだ。


「しどー君。

 私たち、重石おもしになってない?」

「?

 あぁ、色んな女性と付き合えって話からか。

 そんなことないさ。

 僕は初音が居なきゃ、こんな自分に成れていなし、これからの自分にも自信を持てないんだから」

「……ビッチ喜ばしてどーすんのよ」


 相変わらずのしどー君で嬉しくなるので、私の宝物だと抱き着いて放さないようにする。


「家だったらやるのになぁ……ちくせう……。

 絶対、監視されてるし」

「他人の家でそういう発言自体が危ないがな?

 最近、初音も燦に負けてない気がする」

「どういう意味よ……」


 さておき、


「よく寝てるわね、燦ちゃん」


 むにーっと、良く伸びる頬っぺたを伸ばす。


「えへへ……誠一さん……」


 幸せそうにしどー君を呼んでいる。

 いい夢を観ている様だ。

 トントンっと、奥の扉が叩かれ、割烹着の人が入ってくる。


「御召し物はこちらをご利用ください」


 観れば、浴衣では無く、フリフリがスゴい勢いでついたゴスロリが二着、移動式ハンガーラックで運ばれてくる。

 色は黒と白だ。

 しどー君には黒服ズボンとアロハシャツだ。


「ぇっと……叔父さんの差し金ですか?」

「はい、旦那様のご指示です。

 浴衣に関しては奇麗にして、後日、届けさせていただきます。

 あと、お風呂も奥の突き当たりにご用意がございますので、ぜひご利用ください。

 朝食は二時間後――七時に母屋におこしいただければと存じます」


 と、そして一礼。


「これは個人ごとですがソラお嬢様と仲良くして頂き、誠に有難うございます。

 最近は、普通に恋バナなどが出来る方が出来て楽しいと、観ていて私達も安堵しておりますので」


 そう言い残し、去っていく。


「大した事したつもりはないんだけどなぁ……」


 最近はお嬢と良く話す。

 彼氏持ち同士と言うのが大きいのだろう、話題はその関連が多い。

 とはいえ、あんだけ丁寧にお礼されることではないのだが。


「さておき、折角だしお風呂もらおっか」

「そうだな」

「さんちゃーん、おきなさーい」

「うう、姉ぇ……誠一さんにギューッとして貰ってたのにぃ……」

「起きたら、リアルしどー君に抱き着いていいわよ?」

「はっ!

 誠一さん!

 ぎゅーしてください、頭撫でてください!」


 寝ぼけまなこから覚醒した燦ちゃんが起動し、しどー君にとびかかる。

 頬ずりまでは許していないんだが、まぁ、いいか。

 しどー君も何だかんだ、受け入れてるし。


「……で、姉ぇ。

 ここどこ?」

「テンドンはいいから、とりあえず、お風呂行きましょ」


 っと、妹をズルズルと引きずりながらお風呂へ。


「うーん、金持ちね。

 しどー君も金持ちだけどご感想は?」

「使い方の方向性が違うから何とも」


 従業員とか構成員用だろうから、作り自体はタイル張りで高級感は無いのだが、いかんせん大きい。

 スーパー銭湯なみの大風呂なみで、十人は余裕だ。

 洗面台も五台設置されている。


「ふぇ……生き返るよ……」


 顎を、風呂の端につけて肩まで浸かる妹を観て、何というか、


「燦ちゃんおばさん臭い」

「一番若いんだけど……」


 しどー君は八月で、三月生まれの妹だ。

 つまり私が一番、お姉さんだ。


「しどー君、しどー君。

 誕生日、何が良い?」


 っと、隣あって湯につかる彼にピタッと体を寄せながら問う。

 お風呂にタオルは浸けていないので、ダイレクトに彼の体の体温が伝わってくる。


「子供が欲しいってのなら……仕方ない。

 先に妹を孕ませる許可をあげましょう」

「ヲイヲイ」


 冗談で私としどー君が笑いあうが、燦ちゃんが湯船から立ち上がり、


「私、頑張ります!」


 っと、彼にズズいと前から四つん這いで詰め寄る。

 タオルも何もしてないので、私よりも少し肉付きが良い体は触ると柔らかそうだと肉欲を刺激する。

 しどー君を挑発するように大きな胸を見せつける形で、上目遣い。

 うん、私が男だったら涎出てると思う。


「はいはい、冗談を真に受けないの。

 先ずは処女を先に済ませてからね」

「あふぅ……」


 とりあえず、チョップで湯船に沈めて再起動しておく。


「メイドプレイとか?」

「それは割といつもな気がする」


 確かに、うーん、悩む。

 私があげられるものなんて、この自信満々の体ぐらいなモノだ。

 妹を観る。


「?」


 この子も同じだ。

 妹の処女なんかは貰って下さいと、燦ちゃんから言ってるような状況だし、商品価値はマイナスだろう。

 となると子供……待て待て、発想が妹じゃあるましいし、真面目に考えるのはいかん。


「う~ん」

「僕は割りと何でも嬉しいぞ?」


 お嬢なんかは小指用の指輪を彼氏にあげていたし、貰っていた。

 重い気もするが、羨ましいとも思う。

 有りか無しかは微妙なラインだ。


「初音からは貰ってばかりだしなぁ……」

「私もしどー君からは貰ってばかりよ?」


 二人で隣り座りで合わせた肩を震わせて笑いあう。


「私も誠一さんに何かをあげられるように頑張ります!」

「期待してる」


 逆側でフンスと鼻息を荒くし、ガッツポーズをとる妹に、私としどー君が笑みを浮かべた。


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