第82話 パパママとしどー君の通常運転ですが、なにか?
「何やってんの、娘よ。
覗き見?
いけないんだー」
っと、声を掛けられた。
意識を取り戻し、前を向くと彼らと彼女らはこっちを向かずイチャイチャ。
私の作り出した幻聴かと思うと、
「はい、隙アリ」
っと、ムンズと後ろから私の胸を揉みしだいてくる、よく知っている甘い匂い。
少し懐かしさを覚えながら振り向けば、
「ママ……へ?」
ママが居た。
パパと一緒だ。
二人とも浴衣なので珍しい装いだ。
家では大抵ジャージの二人だ。
「あれ、浮気の現場を観てたような気がしたんだけど……」
「パパ的にはママの浮気なんかみたら死んじゃう!
ただでさえ、バーのママしてる時なんか、くううう、これが疑似ねとられ?!」
「ママ的にはパパが浮気したらパパを殺しちゃうわよ、ふふふ」
ヤンヤンオーラを出しながらパパに威圧をかけるママ。
パパはパパで照れるぜ、と嬉しそうにするのでやはりウチの親はオカシイ。
さておき、
「ぇっと、ぇっと……あの、いちゃついてるママに似た人は?」
っと、震える手でママのドッペルゲンガーを指させば、
「あー、あれはママの姉よ?
五歳以上歳離れてるけど、似てるでしょ?
燦とあなたみたいにそっくり!
久しぶりに会おうって事でダブルデートしてんのよ?」
「……は、はぁ」
何だか気が抜けて、ペタンと尻もちをつきそうになり、
「初音!」
っと、私に駆け寄ってくれるしどー君が私が床に倒れる前に支えてくれる。
そして私のパパママを観て、睨む。
「僕の初音に何を……!」
「「ほほーほほー」」
「……ぇっと?」
しどー君が怒気を乗せた台詞を吐こうとすると、パパママが口に謎の擬音を出しながらグルグルと周りながら彼の観察を始める。
そんな二人にしどー君は勢いと毒気が抜かれるように唖然としてしまう。
「あれママ?
ついでにパパも?」
燦ちゃんも来たのだが、パパがついで扱いされて地面に突っ伏している。
「娘が反抗期……!」
台詞のわりに言葉は踊っているので大丈夫だろう。
「そうよ、ママよー。
豊満な胸に飛び込んできても良いのよ、燦!
というか、私が抱き着く~、ぎゅー」
「やめて、人前!
というか、彼氏の前!」
っと、燦ちゃんがワタワタと手を振りながら脱出する。
「家出娘が何言ってんのよ。
全く……反抗期とか嬉しくなっちゃうわ!」
ママも燦ちゃんに対して嬉しがっている。
まぁ、燦ちゃんはいい子でいようとしてたので、親からしたらそれから観ればというのがあるのだろう。
いきなり家出とかどうかとは思うが、主犯である私は何も言えない。
「ぇっと、初音、燦、つまりこの人たちって」
しどー君がそんな状況に眼を見開きながら、
「私達のママとパパ……」
イレギュラーな遭遇すぎて、私の言葉で固まってしまった。
流石に脳内処理がオーバーフローしたようだ。
柔らかくなったはずなんだけど、まぁ、仕方なし。
「さておき、君が噂のしどー君ね?」
っと、ママが彼に近づいていく。
そしてジロジロと、腰をかがめながら、上目遣いで観て、
「ふむふむ。
何というか、眼鏡しない方がよくない?
整ってるのにもったいないない」
眼鏡を指でツンと弾く。
「今日は仕事があったから致し方ないんです!
イケメンなんですからね、誠一さん!」
「にゃるほど」
っと、燦ちゃんがしどー君を悪く言われてママに怒りを露わに言葉で噛みつく。
ママが色気だしてるのを女として警戒してたのかもしれない。
「初音ママでーす。
ママと呼んでくださいねー」
っと、ママが台詞に艶をたっぷり乗せてのたまう。
ウィンク追加とかやめて欲しい。
しどー君なら大丈夫だと確信しているが、色気ムンムンの青少年に毒な存在だ。
普通の人ならそんな甘い声で言われたら体を委ねたくなってしまう。
「初音パパです。
パパと呼んで……呼んだら殺す!
ウチの可愛い娘たちをかどわかしおって!
誰がお父さんじゃ!」
「はいはい、パパ、落ち着いてね?
そういうパパは嫌いよ?」
「ぐっ、愛が効くぅ!」
っと、ママに肘で鳩尾を一撃されるパパは嬉しそうだ。
何というか、いつものパパママである。
そんな様子を観て、しどー君がようやく再起動し、
「士道・誠一です。
娘さんを二人とも頂きます」
っと、こっちも通常運転が始まってしまった。
というか、下さいじゃなくて、頂きますと断言しているのがいつも通りすぎて……間違いなく、私の惚れた男である。
「……頂きますだあ?
よろしく姉妹丼でもする気かきさまぁ!」
「ママも加われば親子丼ね?」
「ママ、それはパパの存在意義無くなるからやめてね?
本当に世をはにかんで寂しくて死んじゃうから」
「ふふー、あせっちゃうパパかわいー」
っと、イチャイチャし始める。
「……えっと?」
「これがウチのパパママの通常運転だから、慣れて?」
流石の通常運転でのしどー君でも戸惑っている。
最近、しどー君が私には戸惑いという表情を見せることが無くなったので、懐かしい。
さておき、
「ママとしても想定外な出会いだから、観なかったことにしてあげたいんだけど。
彼氏君もちゃんと、挨拶したいでしょ?」
「あ、はい。
ちゃんと奪いに行きます」
「ふふ、それだけ言えるのは良いわね」
「パパとしては、今スグこいつを舞鶴湾に沈めに行きたい」
「したら、間違いなく娘たちから絶縁されるわよ?
私がしたみたいに」
「ぐっ……!」
ママがそんなパパを宥め、思い出すように笑いながらイチャイチャしているママ姉とオジサンを観る。
「舞鶴湾に沈めるのはママ姉の夫だけにしときなさいな。
何回、白いのに沈められたっけ?」
「あれは観てて面白かったな……」
っと、言われ、そうだと思い返し、
「あの人、私の援助交際相手の一人!
ママ姉さんとイチャイチャしてる人!」
っと初老の金髪のオジサンを指で示めした。
しどー君、パパママ、そして燦ちゃんまで目を丸める。
「パパ、ちょっと」
「あぁ、流石にキレちまった……」
っと、パパママがママ姉とオジサンの二人に襲い掛かり始めた。
雰囲気は台無しになった。
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