第81話 張り合いと花火ですが、なにか?
「ふああ、凄いですね!」
妹が叫びながら、犬のように走りだし縁へと。
そして右往左往。
その後を二人で追うと息を飲んだ。
これは凄い。
会場から離れてタクシーを捕まえて十二分、そこは空が近い場所だった。
遠目には夜の月にリアス式海岸が見え隠れし、眼下には祭りの賑わいを一望できる。
海には水面にそれらの光と月が映り込み、キラキラと輝く宝石箱をひっくり返したようだ。
「うん、これは凄いな」
「こんな所があるなんて、正直、舞鶴舐めてたわ……」
五老スカイタワー。
西と東舞鶴の中央に位置する山の上。
タワーの前の広間もさながらドラマの舞台のようにライトが照らされ、ここで抱き合うだけでも絵になるだろう。
これなら確かに女性も喜ぶし、雰囲気も抜群だ。
人は流石に交通手段がないので少ないが、それも逆に落ち着いた場を作り出している。
「こりゃ、お嬢も堕ちるわ。
ほほーん、近畿百景一位?」
提示を観れば、残念なことに展望台は終わっており、上には登れないが十分だ。
今度、昼に来よう。
「悔しいなぁ……」
「どうしたの?」
縁のベンチ、隣あって座ったしどー君がそう呟くのが聞こえて、疑問を投げかける。
「初音のお陰で自分が磨けて、女性の扱いを覚えて、チヤホヤされ始めて、自信が出てきて……だから委員長に聞いたんだ。
彼の男としてのお手並み拝見と。
……見事に返り討ちにあった」
「しどー君も男の子ねー。
ふふふ」
っと笑みを浮かべて茶化すと、しどー君の顔が暗くなる。
「だから、来たかったのね?」
「そうだ」
いつぞやのテストで七位をとった時の彼に被った。
だから、
「全く、慣れないことするから……。
しどー君はしどー君よ。
いいじゃない、比べなくても。
十分、しどー君はスゴいし、私の惚れた人なんだから、胸を張りなさいな」
優しく抱き締めながら、胸に頭を当ててやる。
「私はしどー君が一番なんだから、よく覚えてなさいよ?」
「初音……ありがとう」
「よろし」
とはいえ、甘やかすだけが愛ではない。
「ただ、しどー君も男の子なのねよねー、張り合って可愛いー。
だったら自分のスペシャリティも持てるように頑張ろっか?
イイ男ってのは自分を磨き続けるものよ?
二人で……「姉ぇ? 抜け駆け?」……いや三人で探せばいいわよ」
走り回ってきた妹がタイミングよく帰ってきて、私たちに抱きつく。
訂正しつつ、彼に成長をけしかけながらも助けると表明する。
「そうだな、うん。
もっと良い所を見つけよう!
そのためには先ず、今を楽しもう」
「うんうん、そういう前向きなのがしどー君の良い所。
ね、燦ちゃん?」
「はい、そう思います!
誠一さんはスゴイ人なんですから!
……で、何の話、姉ぇ?」
「しどー君の成長を私達が助けるって話」
「?
そんなの当たり前じゃないですか?」
こういうことをさも当たり前にいう妹は可愛いと思う。
そんな無垢な瞳を受けながら、脳裏に浮かぶは委員長妹とお嬢。
「とはいえ、私も成長しないとなぁ……」
「姉ぇが珍しく、自信なさげ」
「私だって自分をちゃんと観るわよ。
あんたも観た真っ白いあの子、しどー君より学力上よ?
燦ちゃんも成長しないと置いてくわよ?」
「それはイヤぁ……」
学力で言えば、学生一位。お嬢も三位。
遥か高見に居る。
燦ちゃんでもようやく後ろ髪が見える程度だ。
容姿なら負けぬし、弁当だって負けぬ。家事だって負けぬ。
性知識は私が上だ。
しかしながら、それに胡坐をかく様な私ではないのだ、頑張ろう。
家の格とかもあるけど、こればかりは仕方ない。
イイ女とはちゃんと自分を磨き続けられるものなのだ、うん。
「さてさて、花火もそろそろか」
しどー君が、お好み焼きとペットボトルを手渡してくれる。
まだお好み焼きは暖かいし、ペットボトルのコーラは冷たい汗をかいている。
割り箸を割ろうとした瞬間、光と音が鳴り響いた。
港の奥に大輪の花が開いた。
そして続けざまにドンドンドーン、そして名残惜しむようなパラパラパラと、音が響く。
「あー……夏ね」
コーラを流し込む手もいつの間にか止まり、一つ一つの花を脳裏に刻み込んでいた。
ここより花火の方がまだまだ高度はある。
けれども人も、何もかも遮らない。
語彙が足りなくて申し訳ないが、とても綺麗だった。
「……あ、終わったわね」
遠くのスピーカー音が終わりを伝えてきて、ようやく私が呟いた。
手元にはもう冷えてしまったお好み焼きと、ぬるくなったコーラ。
隣を観れば、しどー君のも、燦ちゃんのもだ。
しどー君も私の手元を観て、そして目線があう。
「ふふふ」
「ははは」
そして二人で笑いあう姿を妹がクエスチョンマークを浮かべて見ていた。
三人で花火の感想を言いあいながら食べるお好み焼きは、とても美味しかった。
こういうのを幸せの味というのだろう。
さて、お好み焼きも食べ終えた。
「駅前は混むから行ってくるね」
っと、トイレによったその戻り、
「あれ、コスチュームのオジサンだ……」
見知った姿を別のベンチで見つけた。
今着ている浴衣や、メイド服などを着させるだけで抜きも撮影もしなかった上客だ。
最後に会ったのは五月のゴールデンウイークだった気で、それから連絡を取っていない。
観れば女性と楽しそうに会話をしている。
邪魔しちゃ悪いと思いつつ、遠目に観れば、
「ママ……?」
月明かりに照らされた女性の姿を観て、私は茫然とその単語を述べた。
私の姉かとよく間違われるその姿。
仕事かと思う。浴衣を着ているし。
確かに、バーのママをやっており、大人の付き合いもあるだろう。
とはいえ、ママはキスだれうと粘液接触行為をパパ以外に許していないと言っていたのに、
「キス……?」
私はいま行われている深い接吻を観て、言葉を零した。
胸も触らせている。
あれ?
ちょっと、待って?
私は足元が真っ暗になる感じを覚えた。
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