第80話 しどー君を確保ですが、なにか?

 委員長妹の意外なディープさと闇に触れていたら、ブースが解散する時間になってしまった。


「姉ぇ、結構楽しんでた?」

「そうね、少し知識が片寄ってたとはいえ、性の話が出来たからね。

 思わぬ収穫よ」

「私、解らない単語ばかりで……」

「燦ちゃんは判らなくて良いわよ、うん」


 どうやら彼女の知識はゲームや親(吊るされた幼女)の創作資料がベースになっていたようで現実と差も稀にあった。

 とはいえ、ちゃんと調べてるし、何より興味深く聞いてくれたので自尊心が満たせた感じがある。


「さてさて、しどー君も解放される時間かなー」


 小牧さん達は花火用に陣取りをしているらしく、撤収。

 場所を教えてくれたので後で行くのもありかもしれない。

 そんなこんなで詰め所へ。


「士道・誠一君いますかー?」


 っと、テントの中で声を掛けると学校の人がチラホラと見かける。

 他の風紀委員や生徒会長なんかも居る。


「……うわ……美女な姉妹が来たな……、誰の連れだ?」「声かけて観ろよ」「士道とか聞いたぞ?」「ウチのマジメガネだわ、爆ぜろ。いや、俺が見せつけられて爆ぜる!」「あれ、ウチの庶務と……ん? そっくり?」


 同時に知らない制服の人たちもおり、何校かの合同作業だということが判る。

 学生の勤務時間は終わりとばかりに、皆、笑顔で雑談をしていた所に、私たちが来たことで少し騒ぎになる。

 燦ちゃんの学校の制服の人も居る。


「しどー、美人二人が迎えに来たぞ?」


 っと、知らない制服の人が彼を呼んでくれる。

 声を掛けた方を観れば、奥の方で別の学校の女の子達と立ち話している彼が居た。

 女性陣を観れば前のめり……狙ってるってヤツなのかな?

 こっちに気付かない程、会話に夢中なのを観て、


「いかんいかん。

 嫉妬はイイ女のやることじゃない」


 っと、ムクリと出てきた独占欲を抑える。

 他の女の人と会話するだけで嫉妬とか、ヤンデレか何かである。

 それに彼自身色んな人と関係を広げることは良い事である。

 とはいえ、


「しどー君♡

 彼女が迎えに来たぞ」


 っと、会話を中断するように後ろから抱き着いてやる。

 若干、背が私より高いしどー君に寄り掛かる形だが、これぐらいは許されるだろう。

 周りからも視線を感じるが見せつけてやる。


「ぉ、初音。

 すまん、ちょっと話に夢中になってた」

「良いのよ。

 こんにちは、しどー君の彼女の初音です。

 お世話になってます」


 っと腕に抱きつきなおし笑顔で会釈。

 笑顔とは本来、威嚇である。

 意図が読めた燦ちゃんはオドオド遠巻きに見ている。

 そんな私を観た彼女たちの一人が、


「あ、彼女さん来ちゃった……残念。

 じゃぁ、何かあったら連絡してねー」


 どうやら学年が上らしく、大人の余裕を持たせようとして柔和な笑みを浮かべ、


「……」


 私の胸元を観て、ビタッと止まる。

 舐めるな、私はそんじょそこらの有象無象ざこには負けん。

 顔立ちも胸も、床技術だって。

 そして隣のクエッションマークを浮かべている妹に向けると、また胸元で止まって、去って行った。


「しどー君、何気にモテる様になってない?」


 そんな話題を三人で学生ブースを後にし、歩きながら振る。

 私が育てた成果が出始めている気がする。


「どうだろう。

 確かに年上の女性から声を掛けられることは増えているが……。

 部屋に遊びに来ないかとか、そんな誘いもあったりとか」

「ついて行っちゃだめだよ!

 納屋……いや、部屋でズブリよ、それ!

 そのまま既成事実!」


 叫んでしまい、周りの人から目線が飛んできてしまう。

 すぐ視線は散るが、反省。


「……そういえば、珈琲屋の店員とかにもオマケして貰ってるんだっけ」


 まだ絞めていないことを思い出す。


「今日も何だかんだ、女性陣が面倒見てくれて助かった」

「まぁ、刺されないようにだけは注意してね?

 ……燦ちゃんに」

「え、私、刺さないよ?」


 いきなり振られ戸惑う妹。


「絶対ないのは判ってるんだけど、私以外の誰かとしどー君が付き合い始めて、燦ちゃんを捨てたらどうする?」

「……こんな世に呪いをかけながら、自滅するよお……」


 うーん、妹が自罰的すぎる。

 話題の振り方に失敗した感じがある。

 まあ、らしくない失敗したのも、


「嫉妬か、初音?」


 その通りだからだろう。

 とはいえ、

 

「……自信満々なマジメガネにイラっと来た。

 事実だから良いけど」


 惚れた弱みという奴である。


「私が他の男子と仲良く話してたら嫉妬してくれる?」

「するとも、当然」


 こう言ってくれるのがしどー君の良いところである。

 女性側としても変に気取ったり、度量を見せて欲しい訳ではないタイミングだ。


「例えば、委員長と会話してたら?」

「そればかりはマングース対ハブにしか見えないから嫉妬も何もない気がする」

「よく見ていると感心するわ。

 確かにオスとメスの関係というか、宿敵だわ」


 これは完全に例が悪かった。

 さておき、


「燦ちゃんと日野君だと?」

「あんな振られかたして、逆に話を出来るのが感心できるぞ……」


 これも質問になっていない気もしてきた。

 寝取られ性癖が追加とか思い返しても笑う話だ。


「とはいえ、僕は独占欲が強いんだとこの前の件で良く判った。

 嫉妬するに決まってるだろ」

「誠一さん……」


 っと、妹がうっとりとした顔になり彼の顔を観る。

 とりあえず、人込みでの発情は危険なので頭にチョップを入れて正常に戻す。


「で、どうするのん、しどー君。

 花火は小牧さんの所にご相伴する?

 場所聞いてるけど」

「それもありだが、一か所、行きたい所がある。

 委員長のおすすめでな」

「……それは不安半分、期待半分ね」

「彼が鳳凰寺とのデートで使った場所だから大丈夫だろう」

「ちゃんとデートとかしてるのね、あの二人。

 意外といえば、意外ね。

 家に殴り込んだ話は聞いたけど」


 唯我独尊であるシスコンがデートをし、お嬢を喜ばせようとする姿が想像出来ない。

 今度、お嬢に聞いてみよう。


「そしたらそこに行きましょう。

 もしダメダメならそれはそれでネタにもなるし……ちなみに委員長と鉢合わせないわよね?」


 これだけはイヤだと聞いておく。


「それは大丈夫だ。

 鳳凰寺の妹さんと船だそうだ」


 さっきの話と組み合わすと発情を覚えた彼女の妹との不倫の現場な気もするが、気にしないでおこう。

 うん、委員長が刺される分にはネタとして美味しい。


「なら、そこでいいわよ」

「決まりだな。

 そしたら食べ物、飲み物を買っていこう。

 今日はバスも無いからタクシーだし、併設のカフェも早終わりだそうだから」


 タクシー……?

 何処かちょっと不安になってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る