第78話 祭りでもノロケますが、なにか?

 さて、シスコンブースもとい、高校のブースを後にして歩いていく。


「……何というかパワフルだったね?」

「妹よ、そういう時は正直に言っていいのよ。

 既知外きちのそとだと」

「アハハ……。

 ちょっと誠一さんが常識を外せた理由も理解出来た気がする」


 まぁ、間違いなく感化されているだろう。

 最近、あの二人、会話していること多いし。


「あ、あったあった。

 こんにちはー」


 っと、妹が駆け寄っていくのは妹の高校のブース。

 こちらも学校紹介という内容だが、パンフレットを配りながら説明している形で良くも悪くも普通である。

 ウチの学校のあれと比べるのは止めておこう。

 あれは色々と規格外だ。

 私も水曜日に顔を見せているので、特に燦ちゃんのドッペルゲンガー騒ぎにもならずにスムーズに会話が進む。

 展覧内容も観させてもらったが、基本は抑えており、見やすい。

 あえて言えば、


「パンチが無いわね」

「姉ぇの学校のと比べたらそりゃそうだよ」


 声に出ていたのを突っ込み入れられる。

 そんなこんなで赤レンガ倉庫群へ。

 バザーなどの催しモノを楽しみつつ、海の方へ視線を向ければ、自衛隊の船が泊まっている。


「ちょいちょい、そこの美人なお嬢さん方」


 不意に声を掛けられて妹が反応。

 観ればチャラいお兄さんが二名。


「双子?

 かわいーね!」

「どーも、ナンパには興味ないからあっち行ってね?」


 祭りに来てからというモノ、こんなやり取りが何回か繰り返されている。

 とりあえず、一発目でぶちかましておけば、大抵はこれで終わる。

 何というか祭りで浮かれた少女をターゲットに美味しい思いをしたい、そんな下心が丸見えな人が多い事、多い事。

 芸が無いというか、何というか。


「クールだね、どう?

 一緒に花火の奇麗な所、陣取ってるんだ」

「頭の中の花火とかよね、それ」

「ハハ、良いこと言うね。

 どう、悪いことはしないからさ」


 今回のは割りとしつこい。


「簡便。

 大体、酒呑ませてやり捨てよね?

 私、何本も咥えてきてる中で怖いオジサンのも食べてるわよ?」


 脅しだ。

 流石にそっちの人のを口でも咥えたことも無いが、この反応は彼らの定型文には無い。

 大抵はこれで黙って去っていくのだが、


「……流石に冗談でしょ?

 ウケルワ、どう?

 経験なら俺もあるからさー、な?

 試してみようぜ!」

「……」

「なあ、いいだろ?」


 黙って去ろうとするがそれでも追いすがってくる。 

 本気でしつこいなぁ……。

 逃げるのもアリだが、今日は浴衣だ。

 よろしくない。

 叫ぶしかないかなあ、とか思っていると、


「あれ、初音と燦」

「あ、しどー君♡」

 

 いつもいいタイミングで現れる私のヒーローである。

 今日は制服に警邏と書かれている腕章をしている。

 もう一人、学内の生徒も居るので丁度良かったのだろう。

 なお、今日のしどー君はマジメガネモードだ。


「あ?

 邪魔するのか?

 俺達、会話してたんだぜ?

 あ?」


 彼にガンを付けるナンパ二人だが、しどー君は全然怯まない。


「と言ってるが?」


 しどー君から一応の確認が来る。

 要はちゃんと大義名分が欲しいのだ。


「ナンパよナンパ。

 会話する気も無いし、どっか行って欲しい」

「だそうだ。

 健全に遊んでくれないと、祭り全体が困るんだ。

 僕もこんなことは言いたくないし、仕事だから判ってくれないか?

 もしこのままだと、僕も応援を呼ぶ義務が出てくる」


 っと、しどー君が真面目ぶって言葉を述べる。

 ただ、内容的には脅しと懐柔に近い。

 昔みたいに規則一辺倒の物言いでは無くなっており、角も立ちにくい言い回しで彼自身の成長が見て取れる。


「……ち。

 ちょっと会話してただけなのに、マジメすぎるだろ!」


 と捨て台詞を残して去っていく。

 

「しどー君、成長したわね。

 昔だったら、規則の押し付けで一色触発になった筈なのに。

 今頃、喧嘩よ喧嘩」

「初音のお陰さ。

 後は、あんなクラスの中で色々やりあってれば口も上手くなるし、角を丸くする方法も学べるさ」


 そして私としどー君が笑いあう。


「誠一さん、あの、その、相談した人に会いました。

 ……何というか凄い人でしたね?」

「「……まぁ、委員長だし」」


 私としどー君が言葉を合わせて言う。

 学校全員の共通見解である。

 なお、全員共通見解には初音とマジメガネだし……というのもある。

 公認カップルすぎて、嫉妬の炎に焼き殺されると評判なのだ。

 実際、しどー君のバディが、


「ち……俺も巨乳な美少女の彼女欲しい……欲しい……。

 マジメガネめ……」


 と呻いている。

 やったぜ。


「浴衣、似合ってるな。

 二人とも」

「ありがとう、しどー君♪」

「ありがとうございます、誠一さん」


 こういう気遣いが出来るようになったのも成長である。

 本当に良い男になってきた、うん。


「マジメガネ!

 いい加減、仕事しないと怒られるぞ!

 って、救援要請きたぞ!

 は? 幼女が三人を相手に立ちまわってる?

 馬鹿は休み休み言え!」


 といい加減キレながらのバディが無線対応しつつ、しどー君に声を掛ける。


「あ、行こう行こう。

 初音、燦、気を付けて遊んでくれ。

 二人とも美少女なんだから」

「「いってらっしゃ~い」」


 と走って去っていく姿に手を振っておくる。


「忙しそうだね、誠一さん」

「仕方ないわよ。

 マジメガネなんだから」


 そして私たちは、散策を続けていく。

 次の目的地はイベント会場、駅へと戻る感じでトンネルをくぐって街中へ。

 途中折れて十字路を止めた広間へ。

 その端に陣取っているゴツイ人たちの焼き鳥ブースがある。

 その裏に目的の人は居た。


「こんにちは、小牧さん。

 ってお疲れさんみたいね?」


 何だかんだ、海の件から話す機会が増えた暴力女だ。


「初音さん、来てくれたん。

 こんな状態でもうしわけないんやけど、あんがとなー。

 ちょっと暴漢が暴れて……」


 満身創痍の小牧さんがゴザに横たわっていた。

 どうやら怪我はないようだが、呼吸が乱れている状態で、私を見つけると上半身を置き上げてくれる。

 彼女はメガネを外して、胴着に身を包んでおり、学校での姿とは全然印象が違う。

 普段は三つ編み占いメガネなのに、今は正統派胴着少女だ。


「お久しぶりです」

「あ、妹さんも来とったん。

 海水浴場ではドッペルゲンガーとか言ってごめんやで」

「いえいえ」


 っと、挨拶をしていく。


「で、一つ気になってることがあるんだけど。

 あの簀巻きで電柱に吊るされてる幼女、何?」

「聞かんといて……ウチの道場の恥や……」


 それは紫色の髪をした小学生(?)が吊るされ、胸元の木札に名前と【いたいけな少女にわいせつし、会場内で暴れたため、拘束中】と書かれている。

 なお、名前は何処かで見たような気がする。


「……作家先生?」


 っと妹が、興奮気味に眼を輝かせて近づいていく。

 そしてペコリと頭を下げて戻ってくる。

 言われれば確かに何かのドラマで名前を観た気がする。

 姉妹だかがドロドロする奴だ。

 

「えっとサインを貰うことは……!」

「あかん。

 あれの封印を解いたら、ウチも止められへん。

 さっきも三人がかりで仕留めたんやから。

 あのまま見世物にでもするつもりや」

「残念……」


 何があったのだろうか。

 妹がしょげるか私たちは部外者である。仕方ない。


「ぇっと、彼氏は?」

「あれは練習や。

 ……って実は彼氏違うんよ、まだ……」

「は?

 あんだけ、暴力漫才して、お弁当をつくって、野球部のマネージャーまでしてんのに?」

「……初音さん、どうやったら彼氏彼女に成れるん?」


 悲壮な声で聞かれる。

 重症らしい。


「いつもいつもマジメガネと初音さんのラブラブなのを観て、思わず机を叩き割ったぐらいに……ホンマ、ホンマに羨ましいんや……!」

「……何したの、姉ぇ?」

「ぇっと、公開キスした。

 燦ちゃんの学校でもしたでしょ?」

「うらやましい……」


 公開キスで収拾がつかなくなったクラスは、目の前の暴力女が机を叩き割ったことで終息をした。

 その後、先生に引きずられるようにこの暴力女が反省室行きしてたのも懐かしい。


「て、言われてもちゃんと気持ちを伝えてるだけよ?

 しどー君すきーって伝えて、初音すきーって伝えてくれる。

 うん、こんだけ」

「それが出来たら苦悩せんのや。

 あれに私への恋心なんてまるでないんやから……幼馴染みで無くなるのも怖い……」


 パタッと後ろに倒れる形はともかく、顔の赤みはまさしく乙女の所業だった。


「そんなんだとパッとでた女の子に盗られるわよ?

 巨乳好きだし、あれ。

 ブースに居たお嬢の妹さんとかもろに好みでしょ?

 せめて夏の間に勝負を決めないとダメよね」

「せやな……」


 煮えきらない小牧さん。

 とはいえ、私も自分から身を引くとか色々考えてたし、しどー君から踏み込んでくれたから両想いになれた訳で……うーん、難しい。

 妹も含め、三人で悩むが答えは出ない。

 そんな中、小牧さんの携帯が鳴り、話は途中で終わってしまった。

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