夏まつりと意外な従妹関係。

第77話 祭りでの新しい出会いですが、なにか?

 土曜日。


「いつもは電車の中はガラガラなんだけどで、人多いわね」

「お祭りだから仕方ないよ、姉ぇ」


 っと、浴衣姿の人たちを観る。

 私達もそうだ。

 例にもよって、昔に私が貰った浴衣だ。

 妹は青をベースにした朝顔をあしらった落ち着いた絵柄だ。

 髪型は後ろにリボンをして留めている。

 私は赤をベースにした牡丹をあしらった華やかな絵柄だ。

 髪型はいつも通りのストレート。


「眼鏡してこなくても良かったのに。

 人込みで落としたら悲惨よ?」

「うーん。

 姉ぇの知り合いに会ったら間違えられそうだし。

 これぐらいは」

「あぁ、確かに。

 マリも間違えたしなぁ……」


 学校のある地区なので、クラスメイトも多い。

 祭りに来ている人もいるだろう。

 髪型を変えたとはいえ、初見で見抜くのは難しいかもしれない。


『東舞鶴駅行、福知山方面への乗り換えはご注意ください』


 そんなスピーカーの音源と共に綾部から福知山方面からも人が乗ってくる。

 いつもなら、舞鶴方面へと乗り換える人は極少数だ。

 交通の要所ではあるが、扱いは道に近いのが舞鶴だ。


「しどー君は夕方まで大変だって聞いてるから、回る感じかなー。

 学校の出し物も観てみたいし」


 やたら委員長が張り切っていたので気になるのだ。

 あの妹馬鹿が何をしでかすかは当事者にならない限りは良い見世物だ。

 あと、暴力女の道場演舞とかも気になる。


「とはいえ、先ずは腹ごなしかなー」

「舞鶴って蒲鉾だよね?」


 余り印象が無いと、妹がオズオズと聞いてくる。


「そうね、基本的には海産物。

 後は肉じゃがと万願寺唐辛子かな……」

「肉じゃがって堺港じゃなかったけ」

「いや、舞鶴だから(強弁)」


 しかし、肉じゃがキャラメルは許さない。

 絶対にだ。

 さておき、いつもの西舞鶴駅を超えて、トンネルを抜け東舞鶴だ。

 学校の隣の駅だというのにあまり着たことが無い。

 ここから更に北東に行けば、どこぞの大統領だった人と同じ名前で盛り上がった小浜や敦賀に出る。

 但し、電車の本数は時刻表を観る限り絶望的だ。


「京都みたいに碁盤目になってるのね」

「あ、姉ぇ、観て観て。

 通りの名前が戦艦でつけられてるんだって」

「ほーん。

 私はあんまり知らないのよね」


 妹は本で観たことのある名前があるとはしゃいでいる。

 ゲームなんかでも女の子のキャラに戦艦の名前がついているとか最近はあるらしい。

 観れば、確かにキャラものグッズなんかも売られている。

 とも思えば、コスプレをしている人もいる。

 和服ベースのミニスカやセーラー服ベースが多いので、街の雰囲気をぶち壊すようなのは少ない感じだ。


「西とはまた違った趣ね」


 一番はアーケードのある碁盤上の街並みだろう。

 西はとれとれセンターまでの道すがらがアーケードになっており、商店が集中している。


「あっちは城下町で、こっちは商人や軍港として栄えたんだって、姉ぇ」


 妹がパンフレットを楽しそうに読み込んでいるので、私も眺めておく。

 何というか、街おこしとしての意図にまんまと嵌っているが、悪い気分ではない。

 そんな浮かれ気分で屋台を覗いていく。

 魚を焼いた屋台とか、牡蠣を取り扱っていたりというのは京都ではあまり見ないので新鮮だ。

 そんな中、私は蒲鉾フライを買い、妹は牡蠣醤油焼きそばを買う。

 どっちも舞鶴産がウリらしい。

 そして半分ずつにして、休憩所で座って一息を入れる。

 

「普通に美味しいわね……帰りに牡蠣醤油買って帰ろう」


 牡蠣! って感じと具材たっぷりの満腹感に感謝しつつ、脳内にメモを取る。

 そんな感じで遊びつつ、舞鶴高等学校のブースへ。

 パソコンが数台ならび、デカいモニターもある感じで、学校を紹介するためのブースだという事はパンフレットからは読み取れていた。

 だが、実際行ったことで委員長が気合を入れていた理由が判明する。


「委員長、頭ぶっ飛びすぎね……」


 私はパソコンの中やモニターで可愛らしく動く猫耳が生えた白い髪、白肌のアバターを観て納得をした。


「ぇっと、姉ぇどういう事?」

「簡単に言うと、シスコンが妹をモデルに、キャラクターを作成したみたいね……」


 つまり顔つきがデフォルメされているとはいえ委員長の妹そのものだ。

 

「やぁ、初音君じゃないか」


 っとブースから出てくる諸悪の根源。

 白い姿に、白い髪の毛、剃刀のように切れ味の有る目線――つまり委員長だ。

 私は相性が悪い……というか、こいつと相性が良い奴なんかいるのだろうかと常々思う。


「げ、シスコン」

「ふふ、もっと称賛したまえ!」

「いくら横領したのよ、開発費に……」

「横領?

 そんなものはしてないし、する必要もなかったね!

 ふふふ、自信作だがね!」


 こいつはシスコンを賞賛と受け止める、真正のヤバい奴である。


「をっと、そちらはマジメガネが言っていた、妹さんだね?

 かねがね、色々聞いている」


 ふむふむと納得しながら、私の妹をジロジロと見定めていく。

 さすがにと、私の後ろに妹を隠して、


「委員長、何かしたらぶっ殺すわよ。

 妹属性なら誰でもいい訳?」

「ハハハ、それは無い。

 なにせ僕の妹が一番可愛い!」

「は?

 私の妹が最カワよ!

 最近、まるっこいけど!」

「姉ぇ!」


 っと、挑発してくるので、妹合戦になる。

 私だってシスコンだ。


「とはいえ、理由がある。

 僕はマジメガネに相談された姫君の見解を出したが、本当にそうだったのか、そう確信を得たかったのだよ。

 実物とヒアリングだけではやはり齟齬が出るからね?

 汚い文字で申し訳ないが、マジメガネにメモを渡したんだが、初音君はみたかい?」

 

 そう委員長が述べると後ろで、


「……!」


 燦ちゃんが驚いている。

 どうやら事実らしい。


「あと、二股についての見解、彼からも聞かれたんでの?

 観れば、ちゃんと良い方向に進んでるようにも見えて安心だ。

 僕は聞かれた質問や請われた救いにはちゃんと答えるタイプでね。

 感謝したまえ」


 相変わらず私をしてぶっ飛んでいると感じるが、裏はなさそうだと私の勘は言ってる。


「判ったわよ、ありがとう、これでいい?

 ……お返しに今度、妹ちゃんとお嬢に性知識の凄いの叩き込んであげるわ」

「……」


 その言葉にピクリとも動かなくなる委員長。

 どうしてやろうかと私を観つつ、どうしようもないな、と苦難している様だ。

 ざまぁ、観ろ。


「望お兄様、こちらの方は?」


 ひょこっとブースから顔を出す、金髪美少女。

 ツインテールが幼さを強調しているが、整った顔立ちが人形のようだ。

 何処かで見たような顔をしているが、誰に似ているのだろう?

 うちの高校の制服を着ているが、観たことが無い。


「クラスメイトの初音君とその妹だ。

 こっちは鳳凰寺・リク、ソラ君の妹だ。

 一歳下だが、今日、僕の手伝いをして貰っている」

「あぁ……お嬢の妹さん……お世話になってます」


 つまり『や』のつく稼業の娘様だ。

 視線に気づき見れば黒服の女性がブースの影に居る、ボディーガードというやつだろう。


「こちらこそ、不肖の姉がお世話になっております」


 成程、お嬢の褐色肌とゲジゲジ眉毛を差し引けば確かに似ている。

 ちなみに一番似てないのは胸の部分。

 お嬢はホンノリふくらみだが、この子は私たち姉妹程度に大きくなる見込みがある逸材だ。

 既に大きい。


「……?

 初音さんでしたっけ、何処かで会ったことないですか?」


 その少女から真剣な眼差しで聞かれるが、記憶に無いので首を横に。

 燦ちゃんを観ても首を横に振るだけだ。


「いえ、失礼しました。

 何となく、リク自身と同じ匂いを感じたモノで」


 燦ちゃんなら雌犬淫乱系ビッチ、私なら真面目系ビッチになるわけで、ビッチが共通項にあがるが、少女からはそんな感じを覚えない。

 ただ、委員長を観る目が、時折、熱を持っているので……あぁ、成程。


「恋する乙女だからじゃないかな。

 私も燦ちゃんも好きな人いるから」

「成程、一理ありますね。

 私はお兄様が好きですし、ソラ姉様から許嫁の権利を奪うつもりですから」


 臆面もなく堂々と言い放つ姿は、少女とは思えない貫禄がある。


「最近の妹は姉をおびやかすのが流行りなのかしら……。

 お嬢に親近感湧いてきたわ……」

「?」


 燦ちゃんに向いて皮肉を言うが、顔にクエスチョンマークを浮かべて返してくれる。

 あとで虐めよう。


「で、委員長。

 どうやって落としたの?

 得意の話術?」

「そんなことしたら妹に殺されてしまう。

 偶然だ、偶然」


 青筋を浮かべながら弱気になる委員長は珍しい。


「そこで許嫁であるお嬢の名前が出てこない時点で重症よね……」


 相も変わらずなシスコン具合なのだろうと理解した。


 ……なお、このリクという少女との出会いはある意味、必然だった。

 そして、私達姉妹と少女の共通点は意外の所にあったのは気づくことになるのだが、これはまた後日の話である。

 こんな感じで祭りの日が始まった。

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