第69話 教室内な妹ですが、どうしよう

「おはようございます」


 私は、いつも通り挨拶をしてクラスに入る。

 誰も返答してくれないとは知っているモノの、癖である。


「おはよう」


 すると普通に返事が来る。

 観れば、金曜日に遊び来ていた男子生徒二人だ。

 ニコリと笑みが自ずと湧くと、一人は赤面して、もう片方はそれをネタに会話している。


「おはよう」


 席につけばいつものクラスメートが前の席から声を掛けてくれる。


「で、最後、どうだった?」

「普通に駅で分かれたよ?」

「……安心した。

 で、あのギャル何だったの?」

「私も良く判らない。

 姉の知り合いらしいけど」


 そんな感じで日常が始まった。


「ぇっと、初音さん」


 観れば、先程の男子生徒二名が話しかけてきた。

 聞けば、話題に出て、話してみようという事に成ったらしい。


「楽しいなぁ……」


 授業中思い返してみれば、そんな感想が沸いた。

 怖いという感情は金曜日話したこともあり、だいぶ薄まっていた。

 内容的には流行の話だったり、勉強の話だったり、会話内容としてはありふれたモノだった。

 でも、今まで無かった女子生徒との会話は嬉しかったし、ちゃんと学生をしていると自覚できた。

 流行に疎い私が正直に教えてと言うと、相手も嬉しそうな顔をしながら快く教えてくれた。


「最近の流行りを知らないのは予想してたけど、ちゃんと話せる人じゃん」


 っと、言ってくれたのが何よりうれしかった。 

 昼休み、他の男子生徒とも普通に会話を行えた。

 弁当族の私の所に見知った男子生徒が同じように興味を持った男子を連れてきたのだ。

 恐怖が無いわけでは無いが、クラスメイトだけだったのでそれもマシだった。


「話してみたら、案外普通……。

 敬遠してたけど」

「私も必要以上に風紀委員してませんよ?」


 総じてこんな形だ。

 私が如何に役割を真面目にやりすぎていたか、そして周りとコミュニケーションを取ってこなかったことを痛感する。

 何というか夏休み前ではあるが、学校に行くのが楽しくなってきた私が居た。

 ただその日、日野君は来なかった。


 火曜日。


「おはようございます」

「おはよー」


 何名かの男子生徒が声を掛けてくれる。

 女子からは目線を送られてくるが、それだけだ。


「……?」


 違和感。

 いつもは目線すら送られてこないのに、何だろう。

 好奇の目線というか、見定めるような目線は……。


「おはよう」


 いつものクラスメイトは変わらずに話しかけてくれるので返す。


「おはようございます。

 何か、クラスであった?」

「何かって?」

「違和感を感じて……」

「自意識過剰では?

 精神的に安定してないとか」

「そうかも」


 言われ、確かに朝から少し体が火照っている。

 まだコントロール出来ているモノの、誠一さんには報告している。

 軽く自分の頭を右手で撫でて、自分が平常心であるとリセットをかける。

 結局、この動作がルーティーンに成った。

 頭を撫でられても撫でても落ち着くのだ。

 犬っぽいとは姉の言葉だが、余り否定できない。


「初音さん、いい?」


 っと、今日も男子生徒達が声を掛けてくる。

 昨日、話していなかった人もいる。


「はい、どうぞー」 


 っと、笑みを浮かべながら普通に応対する。

 数名、私の胸に眼が行ってたりするので心の中では少しだけだが恐怖は沸いたが、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 姉ぇも大きいから観られるのは普通にあると言っていた。

 こればかりは仕方ないから慣れろとも。


「男に言い寄られるってどう?」


 休み時間にそういつものクラスメイトに言われる。


「どうとは……?」

たぶらかして楽しい?」


 と、笑いながら聞いてくる。


たぶらかしてなんかないよ……」

「そう?

 表情がチヤホヤされて緩んでるけど」

「ないない」


 と言っているモノの、あれこれと聞いてくれて、答えてくれてするのは楽しい。

 私のことを知りたいと、思ってくれるのも何だか優越感が沸いている。


「自信になるよね……」


 っと、誰に言うでも無く、自分に言い聞かせる。

 姉ぇのお陰で美少女だという意識は芽生えてきた。

 それが今の状況になり客観的にもそうだと、認識が固まってくる。

 少しずつだが、確かに自己肯定感が上がって、自信がついてきている気がする。

 生徒会や風紀委員としての役目では無く、私として話せている。

 私として認めて貰えている感覚が嬉しさを産み出している気がした。

 その日も、日野君は来なかった。

 弟君にボランティアで会ったので、聞いたところ、夏風邪らしい。

 お見舞いに行こうかと言うと、弟君にやんわりと断られた。

 平和な日だった。

 ここまでは。


「なにこれ……」


『風紀委員、初音・さん、ホテルへ』


「……なんだろう、この新聞は……」


 水曜日の提示版、全く覚えのない写真が学校新聞に掲載されていた。

 中学の制服を着た私か姉ぇと思わしき写真……眼鏡をしていないことから、姉ぇだろう。

 内容は私の援助交際の疑惑が書かれていた。

 そして再び、男子生徒を毒牙にかけようとしていると、締めくくられている。

 新聞部曰く、発行したモノではないという。

 確かに、紙が違う。

 とはいえ、流石に教師に呼ばれた。


「好きな人はいますが、節度ある関係です。

 この写真は多分、姉です」


 内容についての質問へ正直に応える。

 先生は私の報告を受け、普段からの行いから信用してくれたようだ。

 嘘はついていない。

 悲しいことに私は未だ処女だ。

 とはいえ、成績が落ちないようにと釘を刺された。

 学生の本分は勉強だとも。当然だろう。


「「「……」」」


 好奇な目線が私に向いてくるが、気にしても仕方ない。

 今までも風紀委員として、周りからは引かれていた。

 それと同じことだ。


「災難ね?」

「……子供の悪戯と一緒、こんなの」


 話しかけてくれるクラスメイト。

 子供の方がマシである。

 昼。


「まぁ、初音さん。

 色気づいたとかそういう話で、話題になってたからね。

 男を誑かしていい気になってるとか。

 あと、男子生徒からはサセコだって話も聞いたわよ?」


 言われれば、私への視線が嘗め回すモノが増えているのは確かだ。

 ゾクゾクと悪寒が走ると同時に、動悸が速くなる。

 色気がコントロールできなかった結果が痴漢だ。

 抑えろ自分と言い聞かせ、自身の頭を撫でる。


「日野君を袖にしてるからじゃないの?

 本人じゃなくて、周りとか」

「犯人捜しは私の領分じゃないから」

「そっか」


 彼女はそう言い、


「結構、身近な人が犯人かもよ?」

「身近って私は話す人も、元々少ないし」

「私ぐらいだもんねー。

 じゃぁ、犯人は私」

「動機が無いけど、動機が」


 そんな会話をしている所に、


「初音さん、おひさし!」


 っと、日野君が現れた。

 金曜日から変わらない彼に少し安堵を覚える。


「夏風邪はダメだわ。

 監督にも怒られてしまった」

「それはご愁傷さまで」

「……で、来て驚いたんだけど、初音さん、大丈夫か?」

「なにが「ちょっと初音さんいい?」」


 私と日野君との会話を邪魔する女子数名。

 上位のカースト集団で、私が校則を守れと煩いので邪見にされていた覚えがある。


「あんた、最近、いい気になってない?

 自分は男と遊んでる癖に、人にはあれこれ言うし」


 メンドクサイと、正直思った。

 姉ぇに比べれば迫力が無いので、どうしたものやらと悩む。


「初音さんはそんな「日野君は騙されてるのよ!」」


 そうよそうよとはやし立てる、彼女の取り巻き。


「私、日野君とは彼氏とかにするつもりはないから」

「は?

 やっぱり男を弄んでるんじゃない!」


 っと、感情を昂らせて良く判らない論理で私に詰め寄ってくる。


「いやそれは、俺が勝手にだな「他の男もこんな感じでキープしてたのしんでるんでしょ!」」

「正直、あんたいつも、生徒会とか成績盾にしてさ、生意気なのよ」

「そうよそうよ。

 そんな大きな胸で男をたぶらかしてるに決まってるんだから!

 写真でパパ活してるの観たし!

 裏提示版でもそう書かれてたし!」

「何が生徒会よ、風紀委員よ。

 乱しているのはあんたの方じゃない」


 私が反論する間もなく矢継ぎ早に言われる。

 つまり、私を気に喰わないのが新聞の一件で発露したらしい。

 後は、男子生徒と気安く話しているように見えたのが気に喰わなかったようだ。


「ちょっと聞いてる?」


 私が教科書を出し始めたのと、同時に私の机が叩かれた。


「後ろ観てください」

「は?

 後ろって……?」


 教壇で先生が仁王立ちしていた。

 日野君も退散している。


「授業、もう始まりますよ?」

「っ!

 放課後、残ってなさいよ!」


 そそくさと、去って行った。

 付き合う義理も無いが、どうしたものやらと憂鬱になった。

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