第70話 格付けな妹ですが、どうしてやろう

 結局、私は教室で囲まれてしまった。

 クラスメイトからは逃げられないという奴なのだろうか、六名と多い。

 はたまた、私が真面目すぎて逃げようとも想わなかったのが悪いのだろうか。

 話せば判るとは思っていなかったが、とりあえず写真の件は私ではないと述べた。

 しかしながら、それが嘘だと決め付けられ、また男を誑かしているのが事実だろうと突っかかってきている。


「聞いてる⁈」


 正直、聞いていない。

 同じようなことの繰り返し。

 つまり、大義名分を得たと思って、私を貶めようとする浅はかな行為が行われている。

 放課後にもなっているというのに、周りの人は助けるか悩んでの罪悪感か、あるいは物見遊山かで覗いている。

 誰だって当事者になりたくないが、興味は引かれるのだろう。


「まぁまぁ、抑えて抑えて」


 いや、日野君が練習前だというのに来てくれて、なだめようとしてくれている。

 しかし、それは火に油を注ぐだけだ。


「なんで、こんな女がイイの⁈」


 とヒステリックになるリーダー格の女子。

 成程と思う。

 彼女の動機は嫉妬だ。

 周りはそれに乗っかって私をていのいいおもちゃ虐めの対象にでもしたてあげようとしているのだろう。

 生徒会かつ風紀委員で成績優秀な、こうるさい目の上のこぶである私を貶めるには良い機会だ。


(日野君がこの人と付き合ってあげたら、私が助かるんですけど)


 っと、アイコンタクトと口を曲げて伝えるが、彼は軽く頭を振って、


「一つに真面目だし、真摯だから」

「写真見たでしょ、この子……真面目なんかじゃない!

 騙されてるの!」

「いや、俺、姉と面識あるし……」

「庇わないで!」


 ああいえば、こういう。

 自分が正しいとしか思っていない人にある逃避行動だ。

 正直、逃げるのが初手最良だったかもしれない。

 ただ、理不尽に蹂躙されるのは嫌だった。


「で、あなたはどうしたいんですか?」


 私のこの物言いに、周りが絶句する。

 いい加減、私もイライラしてきていたようだ。

 性欲が高まっている現在、攻撃性も高まって、いつもの周りの目を気にする消極性が嘘のように無くなっている。

 早く誠一さんに会いたい。


「ど、どうしたらって……」

「私から見れば、言い掛かりにしか過ぎないですし、貴方が日野さんのファンで、彼から私が好意を向けられているのが気に喰わないだけですよね?

 私の方が牝として、上だと認めたくないだけでは?

 貧相な胸と校則違反ギリギリの化粧で隠している顔はコンプレックスですか?」

「め、めす……?」


 よもやこの状況で、火に油を注ぐ発言をするとは思わなかっただろう。

 リーダー格の女子も一瞬、何を言われたのか理解できずに唖然と、言葉をリピートするだけだ。

 

「日野さん、『こんな』女、好きになれますか?」


 気付けば、私の女の部分が相手を殺すべく、言葉を紡いでリーダーの嘆きの壁……胸を指差していた。

 つまり、一対一に持ち込んだのだ。


「……好意自体は嬉しいが、今の君は正直ムリ」


 躊躇うものの予想通りで返してくれる。

 クラス内で公開拒否だが、気の毒だとも思わ無かった。


「へ……?」


 それは死刑宣告に近い。

 貴方は私より女として低いのだと、そう周りから捉えられるのが妥当な言葉だからだ。


「だって、自分の信じた言葉しか押し付けてないし。

 周りの言葉を聞いてない」

「日野さんも都合のイイ解釈しかしてないから、割とお似合いだと思いますが?」

「俺は相手の心内こころうちを探ってるんだけど?」


 心外だと返ってくる。

 確信犯だったのが判ったので、今度からは対応を変えよう。


「と言うわけで、私が貴方たちの信じるフェイク通りでも、そうでなくても結論は変わらないと思います。

 以上だと思いますので、生徒会に行きますね?」


 追い打ちの勝利宣言に、周りの雰囲気が完全に凍りつく。

 私が睨み付けるとリーダーがパタンと床に尻餅をつく、彼女の学園生活は終わりだろう。


「……ビッチ……!」


 違う女子だ。

 席から立ち上がる私の腕を掴んだで睨むように絞り出された馴染みのある言葉だ。


「あんたがたぶらかしてそう言わせたんでしょ!?」「そ、そうよ!」「女の敵!」


 必死に私をこきおろそうとする彼女達。

 流石にやり過ぎたようだ。

 リーダーが完全に女として負けてしまい、ここで引いたらグループ全体が私に負けたと喧伝するようなモノだ。

 人の口に戸は立てられないし、明日から彼女らも笑い者になるだろう。

 だから私を落とすしかないのだ。

 言葉が誹謗中傷だらけになり、勢いだけで押そうとしてくる。

 誰かにターゲットを絞ろうにも矢継ぎ早で、次を殺せない。


(ビッチか……♪)


 どうしたモノかと考えながら、言葉を反芻する。

 そう言われたことで、姉と同じように見えたのではと考え、嬉しくなってしまう。


「きいてんの?!」

「聞いてない」


 あ、しまった、つい言葉を口の中で転ばしていて反応してしまった。

 相手が唖然とし、次には顔を真っ赤にし、私の肩を押してくる。

 暴力だ。

 軽いモノだが、私は先に振るわれた理不尽に勝ちを確信しながら、その手を掴もうとし、


「あの、いいかな?」


 ふと聞き慣れた声の持ち主が私を押した手を横から掴んでいた。


「なによ!

 とりこみちゅ……へ?」


 周囲を掻き分けて入ってきたその姿を観て眼を見開く彼女。

 そりゃ、そうだろう。

 一見、虐めようとし突き飛ばした対象と似た顔が居たら思考が止まらない筈がない。


「おいっす、燦ちゃん。

 この暴力女はどうしたらいい?」

「とりあえず、放してあげて?」


 顔は笑っているが、目元が笑っていない姉ぇがその持った腕を捻りあげる。

 痛みでの呻きが上がったところで姉ぇは放す。

 そしてようやく皆が異常事態だと飲み込むが、動けないままだ。


「大袈裟ね?

 学校来たら、燦ちゃんと間違えられて遠巻きにヒソヒソやられたから、ムカついて事情聞いちゃったわよ。

 私に似た顔が何かしたのかと」


 姉ぇは心底ウンザリした顔で言いながら、


「私の過去が燦ちゃんに迷惑かけたのはごめんね?

 ありゃ、確かに私だわ」


 そう私に抱きついて謝罪を述べてくる。


「日野君も情けないね?

 女一人守れないの?」


 姉ぇの視線が女性二人に阻まれて、動けなくなっていた日野君に向く。


「……面目もない」

「感謝はしとく。

 観るにちゃんと動こうとしてくれたんだろうし、だから燦ちゃんが動く前に私が間に合ったんだろうし」


 さてと、と何でもないことのように姉ぇが伸びをして溜め、


「私が姉のビッチですが、なにか?」


 そう周りに威嚇するような笑顔で言い放った。

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