第67話 真面目すぎる彼ですが、なにか?

 土曜日の夜。

 昨日のしどー君のカレーにチーズと卵を乗せて焼いた夕食だ。

 なお、夏はカレーの足が速いので、昨日もちゃんと保存処理はしておいた。

 私に抜かりはない。

 さておき、


「なあ、初音」

「なーに、しどー君?」


 塾から帰ってきたしどー君達との夕食を終え、皿洗いを妹としている時に声を掛けられた。

 カウンターから顔を覗かせると、やや真面目なしどー君がリビングのソファーに。

 なんだろう? っと、妹に任せて彼の元へ。


「来週、午前授業だろ?

 水曜日あたり燦の学校を観に行かないか?」

「いつも思うけど、しどー君、行動がたまに明後日に飛ぶよね?

 不法侵入で捕まるのがヲチよ?」


 何を言い出すのだろうか、このマジメガネはと、私はジト目で彼を観る。

 彼の行動力は未だに馴れないことがある。

 通常時のマジメ具合とのギャップがありすぎるのだ。


「土曜日、舞鶴で祭りがあるだろ?

 燦の学校も参加するから、それの顔合わせで行ってこいって委員長経由で生徒会と風紀委員会から来た。

 初音の妹が生徒会に居るから、都合いいだろと。

 僕も夕方までは警邏で回るし」

「ちゃんとしたお仕事だったのね、メンゴメンゴ」


 しどー君が憮然とした表情で淡々と理由を述べてくるので、素直に謝る。


「あ、お祭りか、しどー君一緒に回ろ?

 妹も一緒で」

「夕方以降な?」

「了解……んで、なるほど……合法的に妹の学校行けるわけね?

 って、なんで、学校の委員会組織に妹の学校バレてんのよ」

「そりゃ漏れてるも何も、初音が監視対象だったからに決まってるだろ?

 学校から近辺調査入ってたし」

「を、をう……」


 反論の余地はなかった。

 だからこそ、しどー君の庇護下に入りやすかったのは薄々気付いて居たわけだが……、


「てか、退学カウントダウンしてた?」

「僕がギリギリのタイミングで止めた形だったな……。

 今は更正済み判断で、内申も盛り返してきたし、過去のことは問われないように確約しているが」


 あの時なら仕方ないと辞めてそうではあるが、今の私から観ればしどー君から後光がさして見える。

 よく私に惚れてくれて、なおかつ処女を失いかけた時に見つけてくれたモノである。

 多分、私の一番の分岐はそこだろう。


「まあ、今の私は真面目だしねぇ?

 真面目ビッチよね?」

「真面目とビッチが同時に存在できることは初めて知った。

 とはいえ、流石にこの前のキスの件は風紀委員会長から苦言を言われたがな?

 まあ、背景を話してる中で委員長の名前を出したら、顔を青ざめて不問にされたが」

「あの白髪鬼なにしたんだか……」


 最近の委員長兄の渾名である。

 生徒会長とつるんで何か企んでいるらしいが。

 さておき、


「水曜日は了解。

 燦ちゃんの学校観てみたいし」

「じゃあ、予定入れとく。

 一応、燦からもそちらに伝えていてくれ」

「了解です」


 妹が自身で洗った皿をタオルで乾拭きしながら答える。

 手慣れてきたのを観て、やはり、少しずつやらしていくのが良いなと改めて思う。


「さてさて、家事終わり。

 とならば、今日は……なにする?」


 と、ソファーに座るしどー君の左横に座り、体を預けるようにしなだれる。


「あ、姉ぇ、ズルい!」


 妹もちょこんと右隣に座り、しどー君の手を掴む。


「今日はしない」

「え、私たち姉妹に飽きたって?!」

「飽きないから安心しろ……。

 あと、そもそも燦については飽きるも何も、それ以前だ。

 明日は両親に会ってくる日だからだ」

「あ、なるほど」


 壁に張られているカレンダーを観れば、予定を思い出せた。


「そろそろ挨拶した方がいいのかなあ?」


 プロポーズはされたし、受けた。

 次は両方の親への紹介という大きな壁がある。

 まだ、私的に心理な壁がある。

 私として、しどー君と釣り合いがとれているか、やはりここにおいては自信がなくなるのだ。

 私らしく無いが、しどー君には色々貰いすぎているのは事実だ。


「燦の件を片付けてからかなあ……。

 何だかんだ、親父には話したし。

 明日はその報告も兼ねてるから」

「「へ?」」


 私と妹が目を見開いて彼を観る。


「性についての暴走の件。

 これで相談した際に経緯をだな……」

「ステイ。

 何処まで話した?」


 一旦、しどー君の話を切って質問を投げつける。


「全部だ、全部。

 彼女の妹が僕のマンションに来て、性的アピールをする処まで包み隠さず」

「⁈⁈⁈⁈⁈⁈」


 妹が頭を抱えて悶え始めて床に転がる。

 そしてゴン! っとローテーブルの角に頭をぶつけて動かなくなる。

 そりゃそうだ、私だってそんな話を好きな人が親にするとは思うまい。

 そんな話をされた日には恥ずかしくして死ぬ。


「明らかに病気だったし、症状の診断には必要だろ?」

「そりゃそうだけど」

「だからこそ、精神科の先生に相談できたわけだし」


 っと、落ち着いた調子のしどー君。

 何というか、当たり前のことをしたんだと言わんばかりだ。


「しどー君、やっぱりあんた凄いわ」

「なんだ、初音。

 いきなり褒めて」

「いやまぁ、褒めてはいるんだけどね?」


 皮肉半分は通じていないようでいつも通りである。

 まぁ、そういう所も可愛いのだが。


「でだ、燦」

「……はい?」

「これ渡しとく」


 頭を押さえて起き上がる妹に渡されるのは鍵。

 私も燦ちゃんも持っているここの家の鍵だ。


「ぇっと?

 鍵は持ってますけど……」

「マスターキーだ。

 今のコピーは僕が勝手に作って貸してただけだから。

 許可は明日貰える予定だが、先に渡しておく」


 私のもそう言えば、マスターキーだ。


「あ……」


 妹が目を見開き、そして一拍を置いて、


「ありがとうございます……!」


 っと、胸元に引き寄せて大切そうに抱きしめる。


「ふーん。

 しどー君」

「何だよ、初音……」


 ニヤニヤと意地悪い視線を向けるとしどー君が苦笑いを浮かべてくれる。


「なーんでもなーいわよー。

 もう決めたかも知れないし、あるいはこれから決めるとしても……自分から言わないとね?」


 そう言ってやると、しどー君の口元がバッテンになるので、


「うーん、やっぱり可愛いわね。

 しどー君」


 そんな彼が愛おしくなり、抱き着いておく。

 彼もまんざらではなさそうに体を委ねてくれた。

 なお、妹はどこから抱きつこうかあたふたしていた。

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