第60話 両腕を姉妹しますが、なにか?
「やほー、妹よ」
広大な京都駅内、烏丸線の地下鉄入り口での待ち合わせだ。
妹の隣にはメガネ有りのしどー君だ。
「ん?」
しどー君に左腕にしがみついている妹の表情が堅いことに気づく。
「ん、なに、神妙な顔してんのよ。
しどー君に乱暴でもされた?
いや、乱暴にされた?」
冗談混じりに言ってやる。
しどー君が相手の同意無くエロいことが出来るわけ無いのだが。
なお、プレイを始めたら私に劣らず獣になることもある。
「今日は何もしてないからな……?」
「え、手も胸も?」
「公共の場でそういう話をだな……!」
「メンゴメンゴ、そうすると」
大事な話があるとのことで席を外していたわけで、つまり、
「え、しどー君は燦ちゃんを振ったの?」
「振られてないもん!」
顔を真っ赤にしての即座の否定。
「はいはい、まだ保留なのね」
「うー……」
ホンカノ、つまり本命彼女に対してよくもまあ、恨みがましく睨める根気があるものだと、逆に感心してしまう。
「初音、あまり燦を虐めてやるなよ?」
「はーい」
と、言いながら、妹とは逆の腕に抱き着く。
「……すんすん」
「……姉ぇ、匂いを嗅いで何してるの?」
「しどー君に泥棒犬がマーキングしてないか確認してるの」
冗談ぽく言っているので、妹もしどー君も、微妙な顔をするだけだ。
ホンノリと妹の甘い匂いがした。
けれどもそれが強くないことから、性行為をした後ではない。
夏の夕方なこともあり鼻を刺激する汗の匂いがし、洗い流した後でも無い。
なお、汗の匂いで興奮しそうになり、
「この後、どーする?」
欲を抑えてしどー君に上目遣い。
「とりあえず、燦を送ってそこから歩こうかと」
「了解。
早く泥棒犬を電車に押し込めましょう!」
「意地悪ぅ!」
意地悪く妹に視線を向けてやると、妹が口ではそう言いつつも笑みを浮かべてくれる。
烏丸線から舞鶴方面行が出る三十一番線は駅内で言うと真反対だ。
ルートとしては地下を抜け、正面口へ周る形で夏だというのに三人でくっ付いて歩いていく。
「視線が……」
当然に、歩くだけでも美人姉妹に両腕を抑えられているしどー君は嫉妬の対象だ。
それに戸惑うしどー君が可愛い。
「良いじゃないの、役得役得。
それに私と歩いてる時も、視線来るでしょ?」
「いやまぁ、それなら彼氏彼女で感情を処理できるのだが、流石に『あいつなんだ』って好奇な目線は慣れないんだよ……。
せめてメガネ外してくれば良かった」
「イケメンだもんねー?
そしたら私が離れよっか?」
妹としどー君に腕組みを譲ろうとすると、
「却下だ」
即座だった。
「……私が離れます」
「それもダメだ。
今日の燦は見届けないと怖い」
今度は妹が言うとそれも却下だ。
何をしたんだろうか、本当に。
「僕が我慢するのが良いのは判ってんだ……」
女性二人に抱き着かれて悲痛な顔をしないで欲しい。
とはいえ、しどー君らしい悩みではあり、
「全く、マジメガネなんだから……。
見せびらかしたら?
俺の女達なんだ、お前たちとは違うんだぜ! って優越感に浸るとか」
「そんな女性をアクセサリーみたいな扱いできると思うか?」
「ムリね。
というか、そんな人に私は惚れないし」
フフフと笑いかけてあげるとバツが悪そうな表情を浮かべるしどー君。
可愛いので追い打ちしたくなってしまう。
「とはいえ、少しは慣れなさいな。
もし燦ちゃんのことも認めたら、日常茶飯事よ?」
事実を叩きつけるが、虐めすぎたらしい。
しどー君が渋い顔で黙ってしまい、
「……まぁ、な」
俯きながら絞り出すように認める。
「姉ぇ、結構、エスだよね……」
「両方よ、両方。
ベッドの上じゃ、しどー君に虐められるし」
「初音……!」
妹に冗談をぶつけるとしどー君が戻ってくれる。
「怖い怖い。
後でお仕置きかな?
お坊ちゃま?」
ニヤニヤ。
最近、メイドプレイの回数が増えているので言ってやる。
トラウマが解消されたことの反動もあるのだろう、しどー君も興奮が激しくなる。
「覚えてろよ?」
「はーい♡」
夜のプレイ内容が決まったので、身体が火照る私が居る。
とはいえ、週も半ばの為、全力で出来ない訳だが。
そんな私達を観て、怪訝そうな顔を浮かべる妹だが、ふと気付いたように、
「羨ましいなぁ……」
ポツリと。
そんな妹を観て、しどー君はその頭を撫でながら、
「まずは自分と向き合う事さ」
「そうですね。
ありがとうございます♡」
何やら意味深な言葉で励ましている。
内容を知らないだけに、羨ましいと、嫉妬めいた気持ちが沸く私を否定できない。
うーん、私も女だという事だ。良くない。
反省をしながら歩いていると、駅のホームに到着する。
「そしたらここで大丈夫です」
妹がしどー君の腕から離れる。
「あ、燦ちゃん、これパパママに持って行って」
渡すのは豚まんとエビシュウマイの入った袋だ。
明日の分は買いなおすことに決めたので、パパママへのお土産にして貰う。
エビシュウマイはママも好きだ。
それを受け取った妹は犬のようにブンブンと手を振りながら電車に乗っていく。
「妹も変わったわね。
しどー君のお陰ね?」
そんな様子にポロリと素直に感想が漏れる。
「僕は何もしてないさ。
いつも、初音と燦には振り回されっぱなしだ。
好いてくれる二人が居て、僕の興味を引こうとしてくれる。
それは非常にありがたいことだと思うが」
「考察が長いわよ。
ホントにマジメガネよねー」
とはいえ、嬉しくなってしまうので腕へのしがみ付きを強くして胸を当てる。
お望み通りに興味を引こうとしてあげるためだ。
「初音……」
「なにかなー、ふふふー。
ありがたいことでしょ?」
しどー君が頬を赤らめる。
童貞でも無いのに、初々しさが抜けないのがしどー君だ。
「初音、やっぱり好きだ」
不意を突かれる言葉、気付けば抱きつかれていた。
人の往来が多い中だが、さっきと打って変わって気にならないのだろうか? と冷静になっている私と、
「ふえ⁈」
驚きで戸惑う私が居る。
深呼吸、すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。
「しどー君……やっぱり大胆な時あるよね?」
絞り出すように言葉にする。
顔が火照っているのが判るし、こんな風にしてくれる彼が愛おしい。
「彼氏彼女と考えれば、これぐらいはな?」
「……うー」
負けた気がするので悔しいし、顔を隠すために彼の胸元に顔を擦り付けてしまう。
とはいえ、しどー君の体温に身を任せていると、
「えへへ……」
幸せになって笑みが漏れてしまう。
そんな私の頭を撫でてくれる手も柔らかくて気持ちいい。
「……さて、満足させられたし、晩御飯を買いに行こう?
551は渡しちゃったし」
「了解だ」
しどー君の体温を十分に感じて、離れる。
そしてその腕に再び、抱き着くのであった。
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