第19話 妹としどー君の初顔合わせですが、なにか?
「初めまして」
という訳で、妹としどー君の初顔合わせだ。
理由は単純、学校が京都市内にある妹が帰れなくなったからだ。
舞鶴線が電車が熊にぶつかって遅延し、最寄り駅まで行ってもバスが無い時刻になってしまった。
ごく偶にあるから困る。
京都といっても山陰方面は田舎なのだ。
「ごめんね、しどー君。
妹泊まらせてもらっちゃって」
「いいよ、別に。
しかしあまり恰好は似てないな。
顔つきとかは似てるけど」
というのも、妹の格好はメガネ、後ろにぶっきらぼうにゴムで止めた髪型、色気の欠片もないのだ。
外せばそっくりである。髪も天然茶色。
素材は良いから何とかしたいと頑張ったことはあるのだが、姉妹仲が拗れただけだ。
妹は妹の矜持があるのだろうと最近、理解できた。
さておき、
「妹よ、何緊張してるのよ」
「しない方がおかしいと思うんだけど。
とはいえ、姉ぇが付き合うって言った人がこんな真面目そうな人で少し安心したわけだけど」
なお、しどー君はマジメガネモードである。
家だし、特に妹にかっこつけさせてもである。
それに惚れられても困る。
何だかんだ姉妹だ、男の趣味が似ている可能性がある。
三人プレイも興味ない訳ではないが……。
さておき、
「晩御飯は食べたの?
ウチラも何とかかんとか、舞鶴から帰ってきたとこだけど」
電車より高速バスの方が速いのも笑える話である。
もしかしたら電車通学より、バス通学した方が安いし、早いのではとしどー君と検討し始めている。
「まだだけど」
「なら、用意するからしどー君と遊んでて?
あ、つまみ食いならしどー君を食べていいわよ?」
「姉ぇじゃないんだけど……」
知ってる。
妹も真面目ちゃんだ。
料理をしながら様子を見るが、マジメ同士とっかかりがないのか会話が無い。
「仲良くはしてほしいんだけどなー」
とはいえ、初対面ならこんなもんか。
私だって初対面は緊張する。
特につい最近まで誰にでもビッチだった訳で、初対面で危険か否かを定めないといけなかった訳だから。
さておき、
「しどー君」
「なんだい?」
「妹に勉強おせーたげて」
とりあえず、きっかけだ。
経験則だが、人間というのは共通の話題や物事をクリアしていくと打ち解けていく感じがある。
いきなりマッサージを希望される人よりもトークで楽しませてくれた人の方がポイントは高い。
肌を重ねたり、マッサージなんかも結論、共同作業なわけでしてね。
前準備は必要なのさ。
とはいえ、独りよがりの自慢話とかされても困る訳だが。
「妹よ、なんと私の彼氏は学年七位だ」
上位三位内は満点二名、一問ミス一名の化け物なので除外してほしい。
しどー君だって、記述の減点とマークの一問ミスだ。
大差無い。
「はいはい、のろけのろけ。
言ってもウチの学校じゃ、自分は三位だけど」
「レベル一個下じゃん。
やーいやーい」
「……この姉ぇめ……!」
と、言っても冗談ぽく返してくれるようになったので、妹も乗り越えられた気がする。
「なお、補欠合格の私を平均点まで伸ばしてくれた先生でもある」
「それはすごいんだけど……。
姉ぇの見直してたらマークミスで受かってたし……」
運も実力のうちである(震え声)。
真面目な話、受かっていなかったらしどー君と出会ってなかった訳でして、ハイ。
それは素直に恐ろしいことだと思う。
「とりあえず、やってみたら?
しどー君、お手柔らかにお願いねー」
「判った、負けないように頑張る」
そして教科書をリビングで広げあうのを見て、微笑みが浮かぶ。
「昔の私から見れば、一人の男にこんなに入れ込むなんて思わないんだろうけど」
思い返せば、遠い過去の事にも思える。
医者を目指そうなんて考えは絶対なかった。
そうでなくても一つ道が違っていただけで、絶対、私の運命は変わっていた。
しどー君とあの時出会わなかったら、私は色んな男とやっていただろうし。
しどー君の提案が無ければ、私は今でもお金のためにマッサージを続けていただろうし。
しどー君が中間テストでミスをしなければ、ここまで私は惚れなかったかもしれないし。
しどー君が道を一つでも間違えて間に合わなかったら、私はここに戻ってこれなかっただろう。
「なんともなんとも」
今の自分から見れば、怖い話である。
結果、今、ここにいるわけで……。
うん、ここにいるよね?
っと、自分の体を浅く抱く。
実感が沸く。
「初音?」
呼ばれ、向けばマジメガネ。
どうやら冷やしほうじ茶の追加を取りに来たようだ。
心配そうな顔で見てくれていて、うん、ごめんと思う。
「私、ここに居るんだよね、ってちょっと怖くて」
「君はここにいるから安心しとけ」
と、マジメな顔をして言ってくれる。
うん、いつものしどー君だ。
彼を通して私は自分を認識し、安心する。
全く、良い彼氏さんである。
「抱きしめてくれないの?」
「妹さんが居るからな」
「確かに、妹が居なければ私だって襲っていただろうし……」
マジメガネな回答であるが致し方なし。
ちくせう。
今日は夜もお預けだ。
まぁ、時間をおけば後のは昂るから、これはこれでありなのだが。
ふふふふふふ。
何しようかなぁ、今からエロい妄想が出てくる。
結局、カラオケ耐久してしまっていけなかった、ラブホいくのもありかもしれんね?
「初音、顔が邪悪になってる」
「ふふふ、しどー君でエロい妄想してたからねー」
言ってやると口元がバッテンになって、頬を赤らめる。
くくく、初心よのう、可愛いのう。
心の中で涎が出てしまう。
「ほらほら、お客を待たせたらだめだぞー」
とはいえ、スイッチが入る前にしどー君をリビングに返却だ。
そして私は晩御飯に集中するのであった。
ビッチは手を抜けない性質なのだ。
手どころか、口でも、抜くけど。
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