第18話 進路決めましたが、なにか!

 朝。

 私、初音としどー君は走っていた。

 乗り遅れると遅刻が確定してしまうからだ。

 私は良いのだが、マジメガネの彼は、自身を許さないだろう。

 というか、原因だが、朝、ちょっと彼を胸でしてしまったのでその後片づけに追われたのが大きい。

 下手をするとしばらくエッチ禁止になる。

 ヤダ。

 私、ビッチだもん、エッチ大好きだもん。

 という訳で二人で西大路から電車に乗り込む。


「このままなら間に合うな……」


 しどー君がそういうので確かなのだろう。

 私たちは京都市営地下鉄に西大路から乗り込む。

 いつものルートだ。


「……ごめんね、しどー君」

「拒否しきれなかった僕が悪い」


 と、自分のミスだと言ってくれるしどー君は責任感がいつも通り高いのだが、申し訳なくなる。

 ただ、私の顔が影っているのを見てくれたのか、彼は続けてくれた。


「それに何だかんだ、初音とああいうことするのは好きなんだ」


 と顔を赤らめて言ってくれる。

 可愛いやつめ……!

 電車の中で痴漢しそうになるが、抑えておく。

 流石に今、本気でムラっと来たら私自身が私を許せなくなる。

 さておき、二条に着く。

 二条駅から各停でゆられて一時間半だ。

 よくもまぁ、毎日通っているモノだと思う。


「さて、電車の中で勉強観るからね?」

「おねがいしまーす、しどー先生♪」


 と、つつつと胸元を人差し指でさすってやる。

 先生プレイをしたことが無いなと思ったので、今度やることにする。

 さておき、


「ん?」


 地下鉄からの通路の出口に人が倒れていた。

 女性だ。


「……初音、先に行け。

 大丈夫ですか?」


 というだけ言って、その女性に声を掛ける。

 呻くだけで反応が無い、おかしい。

 見ればお腹が大きく、下から水が漏れている。


「破水してる……!」


 つまり、赤ちゃんが生まれそうなのだ。

 私も駆け寄る。


「しどー君!

 私がみてるから、病院に電話して!」

「あぁ!」


 と、促しながらどうしようかとうろうろする。

 とりあえず、スマホで調べる。

 こういう時の文明の利器だ。


「しかたないよね!

 しどー君もシャツ借りる!」


 っと、下から流れ出てくる羊水にカバンから取り出したナプキンを当て、その上からあふれ出すのは脱いだシャツでカバーする。

 ブラジャーだけの格好になるが、仕方ない。

 しどー君のシャツを地面に引き、その上に乗せ、様子を見ながら、声を掛け、楽な恰好にさせる。

 

「救急車はいつ来るって?」

「今出た、五分ぐらいでつくだろう」


 一息だ。

 今行けば、まだ電車に間に合うが、さすがにそこまで無責任なことはできない。

 ビッチは面倒みが何だかんだ良いのだ。

 市内の上を走る電車を観ながら、学校に電話を入れる。


「電車いちゃったね」

「あぁ、まぁ、これをしないと悔いが残るからね。

 良かったと思う」


 救急車が来た。


「病院、うちの父さんが働いている所に行くそうだが、初音はどうする?

 親族に繋がらないらしいから、僕は付き添う。

 状況を伝える必要もありそうだし」

「私も当然行くわよ、当然。

 途中で投げ出すのは性に合わない」

「なんだかんだ、君も真面目だよね」

「しどー君に言われるとちょっと、どうなんだろうかと思う」


 頬が熱くなったので、彼の背中を一叩きしてやる。

 照れ臭かったのだ。

 しどー君の顔なじみらしく、特に問題なく、救急車に乗れた。

 その妊娠中の女性を苦しそうにしているのをみながら、声を掛け続ける、救急隊員。

 私はそれを見ているだけだったが、子供を産むというのは大変なのだなと、真剣さに目を奪われていた。


 結果、無事出産が終わった。

 時間はもう一二時を過ぎている。

 完全にサボりだ。

 しどー君は救急隊員に状況を説明したら、お役御免だと、私と二人で病院の椅子で待機としていた形だ。

 上着は病院服を借りた。


「お父さんには怒られつつ、褒められたからちょっと複雑だ。

 昔の中国の武将、韓信の例を出されたよ……」


 付き添わなくてもよかったのだと怒られ、責任を最後まで果たしたと褒められたらしい。

 面倒な父親だと思いつつも、筋は通っている気がする。


「とはいえ、赤ちゃんの姿を見たら、そんなことも気にならなくなったね」

「確かに」


 女性の許可を貰ったうえで、見せてもらえた。

 何というか、猿な感じではあったが、それでも胸のあたりがくすぐられるものがあった。

 母性本能が働いたのかもしれない。


「しどー君」

「何だい?」

「赤ちゃん欲しくなった」


 ぶっと、噴き出すしどー君。

 正直に言いすぎた気がする。


「まだ、僕らは責任を取れないだろ……。

 赤ちゃんに対して。

 ちゃんと養育して、不自由なく、出来ると言えないわけで」

「うちの両親、中卒で私と妹育ててるから何とかなるとは思うけどね……。

 とはいえ、それを強要するのはよくないわ。

 うん、ごめん、忘れて」


 自己完結する。

 しどー君に責任を負わせて束縛したくないのだ。

 まだ、彼は若いし、可能性を潰すのは良くない。


「ちゃんと、大学卒業して、医者になった後なら……ほしい」


 ポツリと呟くようにしどー君から漏れた。

 私の中で嬉しさがこみあげてくる。


「ふふー、きいちゃったもん。

 きいちゃったもん。

 ビッチ喜ばせてどーするつもりー?」


 ニヤニヤ。


「とはいえ、しどー君、お医者さん目指すんだ。

 お父さんの影響?」

「それもある。

 それに今日、二人の命にかかわって、絶対になるんだと心が固まった」


 ぉ、マジメモードだ。

 目元がぎらぎらしている。

 カッコいい。


「そしたら、私も医者になろうかな」


 ともあれ、私も今日の出来事は大きなことだった。

 初めて人の生死に関わることに触れ、スマホを見ながらだが助けとなれたのだ。

 その結果、赤ちゃんは無事に生まれた。

 ここで嬉しさが生まれたのは動機としていい筈だ。


「ムリかな?」

「ムリじゃないさ、今から二人で頑張れば」


 こんな日であったが、授業よりも有意義な一日だった。

 私としどー君の進路が大きく決まったのだから。

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