第15話 水着の買い物で彼氏をからかいますが、なにか?

「夏と言えば、水着よね」


 と悩みながら、彼氏を女性水着エリアに連れ込んでいる私である。

 四条河原町、OPAの中の水着屋である。

 その彼氏はというと、元マジメガネのしどー君なわけでして、彼の顔は赤くなるばかりだ。

 回りの女性からの視線に耐え切れないという様子で、ニヤニヤしてしまう。

 私は基本、好きな人に意地悪をしたくなってしまうタイプなのだ。


「うーん、どっちがいい?」


 っと、見せるは可憐なワンピース型とビキニ型だ。

 色は両方、赤色だ。

 情熱である。


「というか、どっちでエロいことしたい?」

「ちょ、おまっ!」

「よく考えてみなさいな、私がこういうのを買ったら、当然、やることはやるわけよ?

 ビッチだし」


 追い打ちしよう、そうしよう。


「それとも両方買って、興奮度でも計ろうか?」


 彼がうつむいてしまう。

 全く童貞でもないのに、初心よのう。

 さておき、


「どっちでも良いとか言う答えは最悪よ?

 それってちゃんと考えてないってことだから」


 言いそうだったので、先回りしておく。

 まだまだ異性経験なら私がアドバンテージを持っているのだ。


「……そっちで」


 と指さしてくるのはビキニである。

 いつも結構、大胆な選択肢するよね、しどー君。


「んじゃ、試着するから……」


 私は意地悪な笑みを意図的に浮かべ、


「一緒に入る? 

 試着室」

「初音!」


 流石に怒られたので、一人で入る。

 そして上半身、下半身と共に装着し……ちょっと思った以上に下のラインが際どい。

 今は試着用の肌色の下着を着ているとはいえ、ちょっとまずい。

 下の毛は処理しているモノの、少し気を付けた方がいいかもしれない。

 パレオが必要かもしれないと脳内にとどめておく。

 ともあれ、しどー君に見せるだけだ、今は。


「しどー君、いるー?」

「あぁ、ここにいる」

「じゃぁ、じゃん!」


 ビッチは度胸である。

 カーテンをパシッと開けて、目の前にいるしどー君へとオープンしてやる。


「……」

「何か言いなさいよ」

「いや、何というか太もものラインが凄く艶めかしいし、ちょっと見えないか、それ」


 デリカシーのかけらもない彼氏である。

 私は流石に言われ、カーテンを閉める。

 頬が赤くなっているのが判る。


「しどー君。

 どうだった?」

「後ろを見てないからあれだが。

 ……凄くセクシャルな要求をされている気がして、ちょっと落ち着かない」

「家用に買うわ」


 とはいえ、そう言われたら買わざる得ない。

 頭が固いしどー君のそういった性的な感情を示すのは珍しいからだ。


「というか、今日使うから覚悟しておいて、しどー君」


 求められていることが嬉しくなり、言ってやる。

 彼は黙ったままだが、恐らくはうつむいて真っ赤であろう。



「結局、二着とも買っちゃった」


 鴨川でカップル座りをしながら、ほくほくとした顔を彼に見せる。

 いい買い物だった。


「買うと言ったのに……」

「いいのよ、私のだし。

 それにね、私はしどー君のお金に恋をしたわけじゃないの」


 ビッチの矜持である。

 惚れた私が悪いのだ。

 

「それにしどー君には夜頑張ってもらわないとねー。

 ふふふー」


 ともあれ、自覚したことだが結構、貪欲らしい。

 彼も体力があるのだが、テクニックが伴わない。

 最近、色々、勉強している様だが、まだまだである。


「そういえば、名前で呼ぶの、全然、だめだよねー。

 お互い」

「まぁ、いいじゃないか。

 慣れない呼称より、慣れた方がお互いって感じがするし」


 それにだ、と彼は続ける。


「それこそ、名前を呼ぶときはそれこそちゃんとした準備が出来てからしたい」

「ふーん、私、出来ちゃってるかもしれないよ?」


 ぶっ、っと彼が噴き出す。


「嘘よ、嘘。

 ちゃんと私もしてるし、しどー君も使ってるじゃない」

「とはいえ、100パーセントではないわけだよなぁ」


 彼が悩み始める。

 真面目過ぎる彼の性根を見誤った感じを覚える。


「やっぱりお互いに「ヤダ」」


 しどー君が止める発言をしそうになったので言葉を重ねてやった。


「私、結構、貪欲なんだわ。

 ビッチだし。

 もし構ってくれないなら、誰か他の人に頼んじゃうかもしれないよ?」


 ともあれ、彼はそんな私を見て、悲しそうな表情を浮かべてくる。


「なーんてね、しどー君、焦った?

 私はビッチだけど、見境なしじゃないわけよ。

 でもね、ちゃーんと構ってほしいの、判る?」

「判った。ちゃんと構う」


 そう素直なのはしどー君のいいところだと思う。

 ふと私の体が包み込まれる。


「ぇ……」

 

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 私の手元にあった、水着の入った袋が落ちた。


「ちゃんと構うさ」

「あ……」


 彼に抱き着かれていた。

 心音が伝わってくる。

 そして私自身の心音も聞こえてくる。


「しどー君、キスしたい」

「……いいさ」


 躊躇いを見せてくれるが、ちゃんと度胸を見せてくれるのが私の彼氏だ。

 ちゅっと、軽く啄ばむように当て、離れる。


「私にはもったいないぐらい、良い彼氏さんだよ、しどー君は」


 彼の顔に朱が灯る。

 全く可愛いやつであった。

 

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