第11話 デート別れですが、なにか……

「わぁ、凄い凄い!」

「確かに凄い」


 千本鳥居。

 それは非現実感満載な場所だった。

 紅の世界。

 鳥居と鳥居が重なり合い、世界が閉じている。

 パシャリパシャリとスマホでその閉じた世界を狭い枠に納めていく。

 ふと、私に向かって写真音が聞こえた。

 向けば彼のスマホが私を向いていた。


「なーにー?

 私と撮りたかったの?」

「撮りたかった。

 君とこの光景を」


 こうストレートに言われると悪い気はしないが、不意打ちされた気分でムカつく。

 なので意地悪する。


「腕、あたってるぞ!」

「あててんのよー」


 引っ付いてやる。


「外人も同じようなことやってるので問題なし!」

「そういう問題じゃない!」

「いいじゃんいいじゃん、こんな美少女つれてさー。

 役得しなきゃね?」

「美少女なのは認めるが……」

「あ、そこ認めてくれるんだー」


 ニヤニヤ。

 人から見れば稲荷の狐の様に私の口元がニュッと伸びているかもしれない。

 彼の赤くなる頬が凄く嬉しい。


「上まで登るのかい?」

「流石に無理でしょ。

 途中で下りましょ」


 っと、途中のT字路で左へ。

 しばらく行くと、民家のゾーンに入り、最後に茶屋があるので瓶ラムネを貰う。


「ぷふー、生き返るー」

「おばさん臭いと思うんだが、それ」

「じょしこーせーにおばさんとかいわないのー。

 セクハラよ、セクハラ」

「いつも初音さんにやられてるよね?」

「あれはいいのよ、教育だから」


 言い切ると、しどー君が苦い笑みを浮かべてくる。


「しかし、デートって楽しいものなんだなぁ……。

 同じことを経験し、話題にして、共有する。

 これは知らない楽しみだ」

「提案した甲斐があったってものねー。

 ただ、難しく考えるのは禁止ね?

 こう経験しとけば、女性に対して赤面したりだとかで無様な真似を晒さなくて済むようになるから。

 感謝しなさいね?」

「ありがとう」

「なら、抹茶味かき氷ちょっと貰うわよ」


 素直に感謝されるのは本当にこそばゆくなる。

 誤魔化すように、彼の頼んだかき氷を横から貰う。

 抹茶味がおいしい。


「さて、お昼めざしつつブラブラしよっか」


 時間を見れば十三時、あえて時間を外すということもあって遅めを狙っている。

 といっても、目指すは四条河原町のたこ焼き屋だ。

 朝をがっつり食べて、少な目にするプラン通りだ。


「鴨川って何でカップルが等間隔で座るんだろ」

「すぐに遊ぶところがあって、雰囲気出るからじゃないのー?

 ホテルもあるし」


 買ったたこ焼きを手に、鴨川の川沿いに座る。

 他から見たらカップルの一組になっている私たちだ。

 口の中にたこ焼きを頬りこむと、ふわっとした食感で幸せになれる。

 アクセントのタコもグーだ。


「ここのたこ焼きすきなのよねー。

 生地にはちみつ入ってて柔らかいから。

 ソースもおいしいし、一舟三百五十円!」

「確かにおいしいな」

「そっちの辛口ひとつちょーだい。

 私のポン酢あげるから」

「どうぞどうぞ」

「そういえば、しどー君、さっきお願い事、何してたのー?」

「内緒だ内緒」


 なんでそこで頬を赤らめるかね?


「女の子にもてますよーにとか?」

「そんなんじゃない。

 初音さんこそ、何、お願いしたんだい?」

「んー、私?」


 どうしてやろうか、悩むが


「しどー君のお願い事がかないますよーにって。

 私自身は神頼みしないから。

 祈っても、結局、本人の努力じゃん?

 だから努力してるしどー君の願い事かなったらなーって」


 正直に答えてやった。

 頬を赤らめると思ったのだが、茫然とした目で私を観てくるしどー君。


「おーい、しどー君平気?」

「あぁ、ちょっと意外で吃驚した。

 ありがとう」

「なによー、そんなに私が考えてるって意外だったの?」

「いいや、そうじゃなくて」


 困ってる困ってる。

 ニヤニヤしちゃう。


「自分も頑張らないとなーって」

「頑張りすぎて自傷はだめよ?

 ほら胸かしたげるから、リラックスする?」

「人前だからやめろよ」

「ふーん、人前じゃなきゃいいんだ」


 黙ってしまう。

 一昔前だったらムキになって言い返しそうなものだ。

 成長したものだと思う。

 とはいえ、


「そういう時は、粋な事一つぐらいいなさいよ。

 例えば、君を他の人に見られたくないとか、何とか」

「そんな臭いセリフ、よくポンポンうかぶなぁ」

「そりゃ、言われ慣れてますし」


 おじさん語録である。


「最近はそっちからは離れてるけどねー。

 いいんだか、悪いんだか、わからないけど」

「僕は良いことだと思う」


 しどー君は続ける。


「だって、君という花が他の人に汚されないから」

「ぷっ、口説いてるつもり?

 今、勉強してすぐ応用利かすのは良いと思うけどねー」


 冗談だと思い、クスクスと笑ってやる。

 彼の顔は笑ってなかった。


「そんな顔やめてよ。

 大体、結婚だとか、好きだとかいうおじさんと同じ顔してる。

 遊びなのにねぇ」

「僕は本気だ。

 さっき神社でお願い事もそれだ」


 あー、これはマジだ。

 マジメガネは嘘や冗談を言わない。

 ……どうするかなぁ。


「しどー君。

 優しくしてくれた女の子にすぐ惚れるのはどうかと思うよ?

 てかね、私は遊びよ、遊び。

 ビッチだし」

「それでも、僕は」

「よく考えてみ。

 穴こそ空いてないけど、一般的に観れば私は汚れてるの」

「そんなことは……」

「あるの、私はそれを誇りに思っていたし、今でも後悔はしていない。

 けれどもマジメガネのしどー君がそんな女にいい様に誑かされてるだけよ?

 最初に言ったよね

 『経験がないと悪い女の子につかまっちゃう未来しか見えないんだぞ?

 食べられて、旨い事搾り取られちゃうって寸法よね』

 って、しどー君は私の事かと聞いたけど、そのとおりよ?

 だから、こんな女に惚れるのはダメ」


 ちょっと説教じみてしまったかもしれない。

 私なんかに惚れても彼にはメリットなんかない。


「私の外観が良かったら、そっくりな年子の妹を紹介するわ。生真面目でお似合いだろうし」


 そう、しどー君にはちゃんとした普通で真面目な可愛い子がお似合いなのだ。


「でも、僕は……!」

「それ以上は言わさないよ」


 私が彼の口元を人差し指で抑える。


「結果はどうあれ、しどー君は傷つく。

 私はあんたの事なんか」


 ……。


「嫌いなのよ」


 言い切ってやった。

 そして、声を張る彼を無視して繁華街に走り出した。

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