第10話 デートですが、なにか?
デートである。
そういえば、私も同年代の人とデートは初めてである。
オジサンにつられてカフェだとか、レストランだとかは良く行ったわけだが、最終目的地はホテルだ。
何とも我ながら退廃的であると思う。
さておき、
「おそいなー」
しどー君よりも先に出たので私より遅くなるのは判っているのだが。
朝も早いというのにナンパされること何回か。
そしてしどー君はようやく現れた。
「遅い」
「まだ三〇分前なんだけど……?」
「ふつーはね、男子は一時間前に来るものなの?
練習でよかったわね?」
「そうなのか」
素直に頷いてくれるのは相変わらずポイント高い。
それにだ。
「ちゃんとこの前教えた通りの服装だね、よしよし」
「最近、妹とたまに会うと、別人だと驚かれる」
「カッコいいって?」
「いや、見慣れないから困るって」
「それはカッコいいからよ」
とはいえ、この男、最初はスーツを着てこようとしてたから何ともである。
普通はそんなもん着ない。
全くもって童貞というやつはこれだから。
コーディネートの内容は、ぴったしのジーパンに白シャツインナー、七分袖赤黒チェックアウターとシンプルに。
あんまりゴテゴテしても似合わないのは判ってる。
髪の毛もちゃんと整髪料をつけて清潔感がある。
なお、眼鏡はさせていない。
あんなもんさせたらもったいない。
「……初音さんはいつも制服だけど、私服も可愛いね。
短いスカートから伸びてる細い足も奇麗だし、全体的に動きが軽く見える感じで似合ってる」
マジメガネなんかに不意を突かれた。
褒められて嬉しくない女子なんか居ない。
どうせ無いだろうなと思ってたが真面目におしゃれしたわよ!
カジュアル系でライトな感じに!
それなのに可愛いと言われた。
しかも事細かに!
私の心も跳ねるわけだ。
「そういう気づかいは満点ね。
でもね、足が奇麗に映えるとか迄はいらないから……!」
とはいえ、私がリードするのだ。
心うちは隠して、そう採点してあげる。
「そういうモノなのか?」
「セクハラよ、セクハラ!
私はビッチだからいいけど、あんた気をつけなさいよ?」
「わかった」
「よろし。
さて、今日は私のリードだから、とりあえずイノダで朝御飯しましょ!」
と、京都駅地下街にあるイノダコーヒーへ。
少し早かったのですぐには入れた。
結構並ぶのだここは。
「モーニングセットで」
「同じく」
躊躇なく千円オーバーのモノを頼む。
高校生の財布には痛いダメージとなるが、最近はしどー大明神のおかげで私の財布は潤沢だ。
「コーヒーの味の違いって判るー?」
「酸い味とかは判るが、そこまで。
ただブルマンが好みかな」
「私も良く判らないんだよねー」
そんな他愛のない話を楽しむ。
基本的にデート何てお互いが楽しむためにあるのだ。
同じことを共有して、語り合うなんてのは王道よねー。
おじさんとかとデートするときは、相槌を打ったりすることもあったが……。
あれはお金の為もあるから、まぁ……。
「会計私が払うわ」
「僕が払うが?」
「いいのいいの。
今日だけは私がリードしたいから」
と二人分を払う。
「ただ、普通は女の子相手はちゃんと払ってあげること。
いい?」
「判った」
と釘をさすのは忘れない。
素直にうなづいてくれるので良い。
「さて、次は稲荷いくわよー」
「伏見稲荷大社は確か反対側の乗り場だな」
っと、私も初めての場所へ。
京都駅から電車で一本だ。
結構人が居る。
「そういえば、しどー君、京都住んでるけど、こういうところ来ないの?」
「幼稚園とか小学生の頃の遠足だけかな……。
地元の人って地元の観光地ってあまり行かない印象があるけど。
初音さんも、地元の観光地行かないよね?」
「確かにそうねー」
実は園部に観光地があることすら知らない。あそこは田舎すぎる。
さておき、商店通りを抜け、本堂へ。
「ぇっと、二杯ニ礼二杯だっけ?」
「二礼二拍手一礼だ」
「ありがとっ」
賽銭をいれてお願いごとをする。
私は自分の事を祈らないからすぐ終わる。
「しどー君は……」
ふと隣を向く。
何やら真面目そうに一心に願い事をしている。
そんなに長いの叶えてくれるのかなー……とは思う。
まぁ、彼らしいと言えば彼らしい。
「さて、千本鳥居みにいこ」
そして手を引いて奥へ。
「あぁ、って手をつなぐのかい」
「?
手ぐらいで大騒ぎしない。
デートでしょ、デート」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものよ。
それにもっとすごい事はしてあげてるでしょ?」
「それとこれとは」
真っ赤になるのでニヤニヤしちゃう。
でもあまり虐めすぎるのもよろしくないので、話題を変える。
「しどー君の手って大きいねー」
「初音さんのは小さくてガラスのようだ」
不意にそういう例えをだしてくるのは卑怯だと思う。
ちょっと、心が追い付かなくなる。
「そりゃ、女の子ですし?」
「そうなのか」
「私が男に見えるんかい、あんたは……」
「いやいや、そういう訳じゃなくて、女の子っていう認識に改めさせられた。
自分なんかよりパワフルだし、グイグイ行くし。
力強いじゃないか。
そんな初音さんの手が小さくて折れそうだと気付くと、何というか偏見だったなと」
この男は一々、心をくすぐってくる台詞を述べてくる。笑みを浮かべそうになる私を抑えつつ、怒りと演技。
「そうよ、偏見よ、それ。
ダメだぞ、ほかの女の子にこんなこと言ったら」
「判った」
「よろし」
全く、このしどー君は本当に大丈夫なのだろうか、と思いつつ奥へと足を向けるのだった。
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