第6話 実はメガネはデバフアイテムでしたが、なにか?

 結論、学校から士堂君の家でのバイト許可が出た。

 おかしい。

 だが一番おかしいのは、


「『要監視対象のため』って……」


 紙に書かれた文字を見ながら、私はワナワナと震える。


「上には正直に話すことになった、すまない」

「すまないじゃないわよー!

 私、退学になっちゃうじゃないのー!

 ぶっ殺すわよ!」

「そこは大丈夫だ、ちゃんと未遂で止めたと報告したから。

 それにプライバシーにはちゃんと配慮することは確約をしてもらっている。

 学校としても風聞に関わるから退学はまずくないですかと、提案を親経由で通したら通った」

「それなんか脅迫してない?」

「誠心誠意を込めただけだ」

「いやまぁ、お嬢様あたりとかも同じようなことしてそうな気がするしいいのかなぁ」


 お嬢様とはクラスのマジモノのお嬢様の事で、ヤのつきそうなお家である。

 ともあれ、このマジメガネが大丈夫だというのなら大丈夫だろう。

 嘘や気休めは言わないのは知っている。


「それに良くとれたわね、バイト許可。

 進学校だから普通出さないからって聞いてるのに」

「家庭の事情で収入に困ってるから、今回の未遂に繋がったなと説明したら取れた」

「……なんだかなー。

 まぁ、うちの収入が少ないのは事実だし」


 存外、事前報告すれば、うちの学校寛容なのかもしれない。

 最低週四、平日四日、仕事さえ終わらせておけば拘束時間なし。

 しかも、ちゃんと空き部屋を私の部屋までしてくれて、交通費の差額迄出してくれる。

 断る理由が無かった。

 ともあれ、住み込みで働く方向で決める。


「しどー君の親はいいって?」

「話したら正義の行いだとゴーサイン出された」

「ウチも大概だがしどー君のもどんな親よ。

 一応、私の両親に許可貰ってくるけど、絶対OKだすような親だからなぁ……」


 マジメガネが輪をかけた真面目になった熱血属性が追加された感じだろうか。

 医者だって言ってたけど。

 さておき、


「で、おぼっちゃまとでもお呼びすればいいの?

 それともご・主・人・様?

 ふぅ~」

「ふああああ。

 耳元で息を吹きかけるな!」

「これぐらい挨拶よ、挨拶。

 全く、いい加減慣れないとダメだと思うよ?」

「慣れるか、バカ!」

「クラスにもこれぐらい普通にやる委員長がいるでしょ、これが普通なのよ、ふ・つ・う。

 妹とイチャイチャしてる方が狂ってるわよ」

「確かに……」


 私が言える義理は全くないが、クラスの風紀は乱れてるわね、ホント。

 委員長の例でいえば、白い妹の頭撫でながら、アヤシイ雰囲気だしてた。

 あれは近親じゃないかと睨んでいる。

 さておき、


「この前のマッサージ、どうだった?」


 手をオーケーサインで示し、口に当てて輪っかから舌を出す。

 色々やってくれてること自体が嬉しくてお礼したのだ。

 ビッチは義理堅いのだ。


「あれは初音さんが朝不意打ちで「どうだった?」」


 言い訳しそうになったので割り込んで言ってやった。

 ニヤニヤと胸元に迫りながら、上目遣いでだ。

 しどー君の方が背が高い。


「気持ちよかったです……」

「そうそう、素直が一番よ。

 しかし、可愛かったわよー、ガクガクしちゃってさ」

「――!」


 情けない顔が見れたので私としても満足である。


「とりあえず、離れてくれ。

 僕の精神が擦り切れる」

「なれなさいよー、まったく。

 あ……」


 マジメガネが私を引きはがしにかかるので、ちょっと足がもつれた。

 倒れる……っと意識が向いた瞬間、テーブルの角が見える。


 カランコロン。

 

 覚悟していたのに聞こえたのは乾いた音が床を叩いただけだった。


「ごめん、女の子に力が強すぎた」

 

 気づけばしどー君が私が引き寄せてくれて、事なきを得ていた。

 本当に済まなそうな顔をして、眼つきも優しそうで……あれ?


「このイケメン誰よ」

「いけめん?」


 正直な感想を述べて指さしてやった。

 しどー君かと思ったら、全然違う人が私を助けてくれていたのだ。


「イケメン、誰だ?

 メガネが無くて見えないんだが?」


 よく見れば、なんだかよく見たことのある顔つき。

 よく聞いたことのある声。

 そして床に落ちているのは丸眼鏡。


「あったあった、あんまり目が良くなくてな」


 顔にメガネがパイルダーオンしたらいつものマジメガネだ。

 ちょっと待て。

 ちょっと待て、なんでこんなにもったいない事をしているんだ。

 優し気な雰囲気が消え、全くもって私ガリ弁、融通が利きませんて顔が名刺になっている。


「あんた、コンタクトレンズにしなさい」

「妹にもよく言われるが、眼にモノを入れるのは怖いんだ」

「子供かあんたはあああ!

 全く、何で素材を活かそうとしないのよ。

 これだからネクラになって童貞のままになって、女の子と触れ合う機会もなくなるのよ!

 私の妹もそうだけど!」


 キレそうになる。

 いや、キレた。

 というか、キレていい。


「とりあえず、明日、日曜日だしコンタクトレンズ屋に連行ね!」

「いやでも、勉強が……」

「いいわね?」

「はい……」


 不承不承に了承されるが、流石に私でももったいないことはできないのだ。


「見た目で第一印象決まるんだから、これぐらいはやんなきゃ……!」

「そういうものなのか?」

「そういうもんなのよ、まったく。

 女の子から見たら清潔感もない、ネクラな男性とか最悪なんだから……!

 そうだ、もう今度、服も買いに行くわよ!」

「えぇ……」

「返事はハイしか求めてないから、いいわね?」

「はい……」

「元気よくしなさいな!」

「はい!」

「よろし!」


 ついでだ、ついで。

 思いっきりコーディネートしてやった。

 世話が焼ける。

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