翌日

 翌日の朝ミイロは目覚めると、ベッドから起きて居間へと向かった。そこに窓から見える景色を眺めていたエイルの姿を見つけた。

 彼のあしおとに気づいたのか、金髪のミディアムヘアの髪を揺らし、彼女は振り返った。

 陽光に透き通るような彼女。

 そんな彼女を、ミイロは消えてしまわないように抱きしめた。

 エイルは急なことに驚きもしたが、彼が耳元で「ごめん。それにありがとう」と呟き、頰にキスをしてきたことで、察知し、微笑み、彼の背中に手を回した。


 そして――。

 二人は空港にいた。ミイロの急な思いつきで空港に向かい、そのまま大型旅客機に乗り、垂直着陸して着いた先は、二人が初めて訪れたとある国だった。空港のロビーで案内係の機械人間に、行く先の確認とキャブの手配、それと宿泊するホテルの予約をして貰い、手配して貰ったキャブに乗り込んでいた。既に午後は疾うに過ぎていた。

 急な展開と慌ただしく始まった旅行。仕事の依頼ではなく、一泊二日の弾丸旅行である。

 オートノマス・キャブがとある街に差しかかり、見えてきたのが広大な敷地をフェンスで取り囲んだ機械人間メーカーの工場だった。昔より敷地が広がり、ゲートには多くの人がいた。その人々はゲートを潜り、目的の記念館へと向かっていた。工場の敷地内に記念館が建てられ、今では観光スポットとして、記念館や工場見学もできるようになっていた。工場見学はもちろんだが、観光客の目当ては、その記念館だった。機械人間メーカーとして設立、この工場の出来事などの歴史があますことなく展示されていた。あますことなく、赤裸々にさらけだしていたのである。工場に集まる機械人間反対派との攻防、ウイルス事件は当然で、本来ならパーソナルなことである、ここで働いていた者たちによる珍事件――機械人間に纏わる話だが――、更には機械人間の一般への普及化に関し、ここで話し合われた秘密会議、政府との遣り取りまでもが暴露されていたのである。それが面白いと話題になり、観光客が後を絶たない状態となっていた。

 因みにグッズ販売もされており、羽が生えた円錐の帽子、顔には眉毛と鼻と口髭が誇張されたメガネをかけた小さな機械人間のレプリカで、帽子の羽をバタつかせながら、「あひゃっあひゃっ、あーひゃー」と舌がピロピロと出る玩具だった。何故かそれも人気の一つだった。空港のロビーで、受付の機械人間にもその場所を勧められていた。

 ヴィークルはそこを通り過ぎ、更に街を抜け、大都市に繫がる道から逸れ、近郊の静かな街へと向かっていた。途中寄り道をし、二人が辿り着いたのは、国が管理する慰霊施設だった。そこに埋葬されているのは殆どが軍人で、国で賞賛された、又は偉業を成し遂げた一般人もごく僅かだが埋葬されていた。

 ある一角に、人の高さほどの墓碑が建っていた。墓碑には科学者の名前と、生誕から享年までの年月日。更にその下には、その科学者の功績が刻まれていた。

【機械人間の育ての母】

 二人はその墓碑の前に立った。

「機械人間の修理師として僕らがいるのも、彼女や博士たちの功績なんだよね」

 機械人間の一般への普及化と、機械人間の保護を世界基準にした法制化を国際機関に通して訴えた。

 エイルは屈み、持っていた花束を献花した。

「僕らが生まれる前、未来を見据え、最悪な状況にならないように考え、実際に動いた学者はそうはいないからね。未来を自分勝手に想像するか、今しか見てない。非難し、拒否し、噓で塗り固める。世界を危惧するだけか、自分のことしか考えない」

 止められない科学技術の革新を危惧するのではなく、人のために変革させようと何故しないのか。

「……」

「僕もそうだったのかもしれない‥‥一人で抱え込んでいた」

 そんな彼の横顔をエイルは見つめていた。

「彼女たちが願っていた未来に、今の僕は叶えてやれているのか分からない。けれど、それを受け継ぎ、未来に繫げ、その人たちが笑って過ごせるように……。情けないけど、君には今後も迷惑をかけるかもしれない。それでも共にいて欲しい」

 ミイロは墓碑に誓った。

 エイルは微笑んだ。

「ええ、もちろん」

 二人は手を取り合った。

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