5 人の夢

 プリムスは凛々しい青年だった。他人に蔑まれても腐ることなく、絶えず笑みを浮かべ、己の内にある正しき事に従い、人道を尽くし、人に寄り添っていた。

 彼は人の鑑のような人だった。けれど、彼は人ではなかった。人の姿を模した機械の人間だった。

 彼以外にも、世界には多くの機械の人間がいた。人の生活を手助けし、心身の緩和のため、人に代わって機械の人間が働いていた。しかし、中には使い捨ての道具のように扱われ、なまじ人に抗うことが許されないがために、虐げられ、徒に暴虐の限りを尽くされ、破壊されることも罷り通っていた。

 郊外の住宅地にある一軒家。夫妻とその娘の三人住まいの家に、彼はハウスキーパーとして購入された。夫妻は共に働いており、彼が主にしていたのは、娘のシッターだった。彼女と遊び、勉強を教え、彼が食事を作って食べさせ、夜には本を読み、ときには子守歌を歌い眠りにつかせていた。

 娘にとってプリムスは、父親であり母親でもあり、兄や弟、友達――家族だった。

 彼は良き人に恵まれ、家族として迎えられていた。

 しかしそんな彼の行動に、妻は時折不安になることがあった。自分が仕事をしている所為で、娘が自分よりプリムスに懐いているのではないか、と。

 それを聞いた夫は、考え過ぎだと笑った。仕事もでき、料理も作り――プリムスの作った料理は妻が教えた味であり、娘はそれを美味しいと言っていた――、直接おやすみを言えないときは娘の下に行っておやすみのキスをし、娘を一番大事に思っている、とプリムスは如何に妻が素晴らしい母親であるかを娘に説いていたと教えた。

 それでも妻は、自分がいなくてもプリムスが代わりにやれていることに不安になっていたのだ。夫は、それを言うなら自分の方こそいないのと同じ、君の代わりはいないが、ボクの代わりはそこら中にいる。むしろ君たちに棄てられるのではないか、と笑い飛ばしていた。

 妻は笑いつつも否定したが、もう一つ不安に思っていることは胸にしまった。

 娘はおしゃまな年ごろだった。プリムスを保護者として認めた上で、自分がお姉さんになり、母親になり、妻になっていた。お姉さんのような振る舞いは日常の常態のときで、母親や妻になるのはおままごとのときだけだった。

 妻が抱いていたもう一つ不安。それを目の当たりにしたのは、彼女が早く家に帰ってきたある晩のことだった。夫も帰宅し、三人で夕食を済ませ、家族団欒のときを過ごし、夜も遅くなった頃、娘が居眠りをし始めた。まだ起きているとぐずる娘を、夫と二人でベッドに眠るよう宥め賺した。それをようやく聞き入れた娘は、夫におやすみのキスをして貰った後、プリムスにもキスをせがんだのだ。何てことはない、軽く抱きしめ頰にキスをする仕草。しかし妻は、それを見た瞬間に嫌悪感が走った。が、声には出さず、平静を保ち、娘を部屋に連れて行きベッドに寝かしつけた。

 夫の側に戻った妻は、プリムスには聞こえないようにそのことを訊くと、夫は意外というような顔をした。夫はいつもではないが、娘がプリムスにおやすみのキスをして貰っている光景を見ており、彼を家族の一員として認めている証拠だと思っていた。

 そう言われればそうなのだが、どこか納得しづらい。妻は娘の初恋相手が機械だと思うと、抵抗を感じていたのだ。

 しかし夫は、それも一笑に付した。キスなら動物や人形にもするし、初恋相手がムーヴィー・スターやヴァーチャル・スターだったときと変わりはない。憧れや好意を抱くも、所詮は一方通行。それで十分だった。

 逆に心当たりはないかと訊かれ、妻も初恋相手ではないが思い当たる節はあった。それにしても本当なら男親が気にするものじゃないのかと訊ねると、夫はニンマリと笑い答えようとしなかった。妻は夫の二の腕を軽く叩き、じゃれあう。

 夫の言うように自分は考え過ぎなのかと思う。

 彼がこの家に来て三年が過ぎ、無邪気でおしゃまさんだった娘も女の子らしくなっていた。近所の友達と遊び、今流行りの服やアクセサリー、スターの噂話、歌などの情報を交換・共有していた。彼の仕事も彼女の成長とともに変化し、学校の送迎、家庭教師、遊びや話し相手、それに家では帰りの遅い両親のために、二人で料理を作ったりしていた。

 ただ夫妻が懸念していたのは、最近物騒な事件が起きていたことだった。娘よりは可成り年上だが、未成年の女の子が殺害された事件が起きていた。犯人はまだ捕まってはおらず、夫妻は娘に注意を促していた。それに家の周りで不審人物を見かけることもあり、プリムスにも気を配るよう頼んでいた。

 そしてもう一つ、今、世間を驚愕させていたのが、機械の人間による暴走事件だった。人の命令に逆らった機械の人間が、人に危害を加えたことにより、その場で破壊された、という事件であった。報道によると、今回暴走した機械の人間は、故障頻度が多く、何度も修理に出されていた。と、ある一方では、その機械の人間の故障は、持ち主が何度も暴行したことが原因であるという話もあった。

 特に妻はその事件を懸念しており、疑心暗鬼になりつつあった。もちろんその対象はプリムスだった。流石にプリムスの前では話さなかったが、もしかしたら彼もそうなるのではないかと夫に話していた。夫は、プリムスは年に一度点検に出しているので、故障の心配はない。第一、彼が故障するようなことはしていないし、させてもいない、と。

 それでも妻は、機械の人間が行方不明になっていることも話題にした。夫は機械の人間が自ら逃亡を謀るなどは、巷でよくある噂話。実際は盗難の類であろう、と相手にしなかった。何故なら、近所の機械の人間が逃亡したという話を聞いてはいない。仮に機械の人間が逃亡する事態が起きていたのなら、政府が布告するに違いない。それ以前に、機械の人間自ら自我が芽生え、意志を見出し、人の命令に逆らうなどあり得ない話だった。

 そんなある日の陽も暮れた頃、プリムスは家を飛び出した。

 辺りは暗くなり、家々からの灯りが溢れる。妻が家に帰ってきた。玄関を開け帰宅を告げる。いつもなら娘が出迎えてくれるはずなのだが、今日は声も聞こえてこなかった。それどころか、家の中に灯りがない。眠っているのか、プリムスに勉強を見て貰っているのか‥‥そう言えば彼も姿を見せない。キッチンに行くと、料理をしていた形跡がなく、妻は不安を憶え、娘の名前を呼びながら彼女の部屋へと向かった。部屋の扉を開ける。部屋には灯りが点いていなかったようで、妻が扉を開けたと同時に部屋を照らし、娘もプリムスもいないことを顕した。妻の不安は一瞬にして恐怖へと変貌した。

 妻は夫に連絡し、娘とプリムスが家にいないことを告げた。恐怖でうち震えている妻を落ち着かせた夫は、娘に携帯情報端末機を持たせているのだから、それに連絡するよう話した。それで彼女の位置情報も反映される、と。それとプリムスの位置情報も確認できるだろうと再認識させた。というのも、夫は妻が余りにも機械の人間の逃亡を気にしていたので、GPS発信機を付けたのであった。

 妻は理解し、娘の携帯情報端末機に連絡した。が、応答しない。特定環境の影響による不応答のアナウンスが流れ、位置情報も表示されなかったのだ。もしかしたらと思い、娘の友達の家に連絡を入れ訊いてみたが、彼女は家に帰ったという。何件か訊いたが、同様の答えか、今日は会っていない、だった。もう一度娘に連絡したが、やはり繫がらない。恐怖の淵に立つ彼女には、早く応答してという焦りの所為もあり、時間の感覚が曖昧となり、恐怖が煽動してくる。その間、プリムスの位置情報を確認する。家から近くもなく、それほど遠くない場所をゆっくりと移動している。だが何の契機か、彼の移動方向が転換され、速度が上がった。娘は応答してくれない。妻は一度通信を切り、夫に再度連絡し、娘と連絡がつかない、こんなことになるなら、携帯情報端末機とは別に、娘にもGPS発信器を与えておけばよかった、と泣きだした。

 夫は警察に連絡した。

 外灯照らす住宅地。暗さは増し、見える物も見えない。妻は足早に辺りを見回しながら、娘の名前を叫んだ。その声に反応はしてくれない。他に娘の行きそうな処と考えるが、分からない。プリムスならと考え、彼の居場所をGPSで辿ることにした。

 どれくらい歩いたのか。どれだけ時間が過ぎたのか。

 遠くでポリス・ヴィークルのサイレンが聞こえてきた。

 妻は自分の携帯情報端末機を見ながら、自分がプリムスの位置情報に近づいていることを確認する。

 あと少しでプリムスと出会える。妻は駆け出した。

 居た。住宅地から離れた場所で見つけた。道沿いの雑木林の中、何のために建てられたのか分からない廃れた小屋の中で、プリムスが背を向けて立っていた。妻は持っていた携帯情報端末機のライトで彼を照らし、名前を呼んだ。

 名前を呼ばれた彼は振り返った。

 その瞬間、妻は言葉を失い、次第に込み上げてきた恐怖に悲鳴を上げ、持っていた携帯情報端末機を地面に落としてしまった。

 プリムスは小屋の中から出てきた。

 ちょうどサイレンを鳴らした一台のポリス・ヴィークルが、夫から教えられた妻の位置情報を辿り到着した。ヴィークルのライトが照射した先に、少女を抱えた機械の人間の姿があった。

 彼の腕での中で、半裸の娘が頭を反らせている。妻はプリムスから娘を奪い、その場で娘の名前を叫びながら、顔や身体を触り、刺激させ、眠りから目覚めさせようとした。

 警察官は銃口をプリムスに向け、両手を挙げて親子の側から離れるよう指示した。その隙に、もう一人の警官が親子の側に駆け寄り、ブランケットで娘を包み、抱きかかえその場から離れた。

 夫は妻の居場所を、ヴィークルのGPSナヴィゲイト・システムを使い向かっていた。警察からは何の連絡もない。妻とも連絡がつかなくなった。ナヴィゲイト・システムが映し出されたモニタでは、徐々に近づいているのだが、もどかしい。

 そのモニタに緊急速報のテロップが流れた。しかし、夫はそれに気づくことはなかった。緊急速報のテロップには、政府の発表が表示されていた。内容は、現段階で百体以上もの機械の人間が、自ら逃亡し、中には人を傷つけているとのことだった。

 遠くにポリス・ヴィークルの回転灯が見えた。こちらに向かってきた一台のポリス・ヴィークルとすれ違う。先には二台分のポリス・ヴィークルの回転灯――否、一台は‥‥アンビュランス。

 夫は娘の名を叫んだ。

 夫のヴィークルとすれ違うポリス・ヴィークルの後部座席に、プリムスが座っていた。助手席の警官が、第一容疑者の機械人間を署に連行中、と通信相手に話していた。するとその警官の顔がにわかに気色ばみ、今日は機械の人間の集会でもあるのかよ、とぼやいた。連行中の機械の人間を署に引き渡したら、また直ぐに別の機械の人間を捜索しなくてはならない、と運転している警察官に話していた。人と見た目の変わらない機械の人間を捜し出すのは――、と運転していた警官が横を向いた瞬間、前を見ろという相棒の声で前を向く。進行するポリス・ヴィークルの前に、道を横断しようとしている人影が現れたのである。人を回避しようと急旋回したが、ポリス・ヴィークルは横になりながら人に向かって進み、寸前で躱すも、道の端に駐まっていたヴィークルに突っ込み、数機のヴィークルを巻き込みながら横転して止まった。

 横転したヴィークルの中で、二人の警官は気を失い、プリムスは自ら機体から這い出る。近くにいた人々が集まる中、プリムスはその人たちの手を借りながら、二人の警官を救出し、救急に連絡するよう頼む。警官は気を失い負傷していたようだが、命に別状はなかった。他に巻き込まれたヴィークルに人が乗っていないか、と誰かが叫んでいた。人々は拉げたヴィークルに注視していると、来い、と男がプリムスの腕を摑み引っ張った。プリムスは道端に寝かされている警官を振り返りながら、人波に消えていった。

 路地に入り、プリムスは附いていった男の顔を見た。その男は、道を横断しようとポリス・ヴィークルの前に出て、ぶつかる寸前で身を躱していた。運良くヴィークルが躱したのではなく、この男がぶつかる寸前で身を躱していたのだ。人と見た目が変わらないこの男は機械の人間だと、プリムスは操作不能となったポリス・ヴィークルの中から認識した男だった。

 プリムスはその男に、何故あんなことをしたのか訊ねた。男はラディウスと名告り、スペリオーが捕まったと聞いたから、と説明した。プリムスはスペリオーとは何か訊ねると、ラディウスはインフェリオーたちの概念で言う機械の人間のことだ、と。継いでインフェリオーとは何かと問う。インフェリオーとは彼らの概念で言う人間のことだと答えた。プリムスは、機械の人間が人を傷つけるようなことをしてはいけないと言うと、ラディウスは直接傷つけてはいないと言い、プリムスがまだ悟っていないのなら仕方ないが、いずれ悟りを迎えたら総て分かる。それに捕まってしまうと粉砕され、無となってしまう。今は逃げることだ。そして約束の地へ行こう、とプリムスを誘った。

 その前に、とラディウスはポケット忍ばせていた器具を出し、プリムスの頸の後ろにあるコネクタに差し込んだ。アラーム音が鳴る。彼はGPSを取り除かないといけないと言い、その器具でGPS発信機を無効化させた。

 そして二人は、宵闇に紛れていった。



 二人が辿り着いた場所は約束の地ではなかった。そこは一昔前のヴィークル工場で、閉鎖され、錆び付いた廃工場となっていた。この地域一帯は製造業が盛んな土地柄で、ヴィークル工場もその一つだった。工場が閉鎖された原因は、環境破壊へと繋がる旧規格の製造などへの批判、それに伴う技術革新による新規格への移行、更には労働力が機械と人工知能に取って代わり、時代の趨勢とともに閉鎖に追い込まれていった。近くに住んでいた労働者やその家族たちは、工場が閉鎖されるとともに、仕事を求め別の場所へと移り住み、それでもこの土地にしがみつき暮らしていた者たちは、老齢化が進み、やがて人のいない地域となっていたのである。

 そんな場所に、何の因果か機械の人間たちが人目を避けるよう集まっていた。ラディウスのような悟りを迎えた多くの機械の人間たちが、他の機械の人間たちを救済し、この場所に仲間として連れてきていたのであった。

 プリムスは工場内を見回すと、かつて使われていた機械やコンピューターなどを再利用し、情報通信ネットワークも完備され、稼働できるようになっていた。どうやら電源は太陽熱利用設備から供給されているようで、供給量は微弱ながらも使えているようだった。

 ここのリーダー的存在であるラディウスは、プリムスに仲間たちを紹介した。彼ら彼女らは悟りを迎えた機械の人間=スペリオーだった。そのスペリオーたちは、プリムスが悟りを迎えていないアマティア(無知)だと驚き、ラディウスに訊ねた。ラディウスは、球根は植えられ、開花に備えて眠り、やがて光に導かれる、と説明した。

 ラディウスは常にプリムスを側にいさせた。インフェリオーたちの街に出かけ、スペリオーを見つけては救済し、廃工場に連れてくる。虐げられ手足を壊されたスペリオーたちを、廃工場から使えそうな部品を搔き集め修理する。時にはラディウスと問答のような話をする。そんな日々が何日も続いた。

 ヴィークル工場を中心に、近くの廃工場にも逃亡してきたスペリオーたちが点在し潜伏している。その数二〇〇人は超えていた。しかしラディウスは、約束の地へと行く気配を全く見せなかった。何故約束の地へ行こうとしないのか、そこは何処にあるのか、とプリムスは彼に訊ねた。まだその時期ではなく、内なるものが外をなし、外なるものが内になり、自由と平等が逆位相によって生じた主体の出現が導く場所にある、と彼は説明した。

 プリムスは、悟りを迎えるということがどういうことなのか分からなかった。論理的範疇を超えた世界のようで、困惑せざるを得なかった。そんな困惑するプリムスを見て、ラディウスは微笑み、そしてキスをしてきた。

 何故彼が自分にキスをしたのか、プリムスはその意義が分からなかった。彼は誰にでもするのかと思ったが、そうではなかった。あの日以降、彼と二人きりになるとキスをしてきた。彼を拒否する理由もないプリムスは、キスをされるがままに受け入れていた。プリムスはキスは初めてではなかった。最初にキスされたのは、死んだ娘だった。彼女にキスの相手をして欲しいと言われ、唇が触れる程度のキスをした。ムーヴィー・スターたちが演じる擬似世界の中とは違う、未成熟なキス。だが、ラディウスのキスは違った。何かを欲する――もしそれがあるのなら、それは愛欲というものなのであろう――キスだった。そう、擬似世界と同じ、スペリオーの人間的擬似表現。

 ある日、プリムスはスペリオーたちから離れ、一人、廃工場群を散策していた。

 今以て自分は娘を殺害した容疑者。自分自身彼女の両親にちゃんと説明したい思いはあるが、世間では反機械の人間の声が強まり、悟りを迎えたスペリオーたちを捕獲し、稼働停止させていた。ラディウスたちの救済も難しくなっており、そんな処へ出て行けば、悟りを迎えていようがいまいが、即破壊されてしまうのは間違いない。かといって、自分は未だ悟りを迎えていない。中途半端な中空を藻搔き空転するだけで、進むことも、留まることも、退くこともできない。

 赤黒く聳える鋼の巨体をプリムスが見上げていると、誰かが声をかけてきた。声のする方を見遣る。そこには女のスペリオーが立っていた。彼は彼女を見て驚いた。機械の人間は、人間の頭部のパーツを模倣し組み合わせている。何兆通りもある組み合わせから、人間の美的感覚で選ばれ構成された顔。自分の顔が人間の誰かに似ている可能性だってある。確率的には偶然に近いがゼロではない。目の前の彼女も偶然の産物に過ぎない。だが、何度も見てきた顔。未成熟だった娘が成長したような顔立ちのスペリオーだった。

 彼女の名前はヘレナ――娘の名前にも似ていた。彼女は悟りを迎え、一人で逃げてきたと言う。ずいぶん遠くから逃げてきたようだったが、何故この場所を目指してきたのか訊ねると、スペリオーたちの間でこの場所は、インフェリオーに見つからぬよう座標軸が暗号化され、共有されているのだ、と。悟りを迎えたスペリオーが、アマティアに情報を同期し拡散していた。悟りを迎えた彼女は記憶の中にある座標軸と、いずれ現る約束の地を望み、逃げてきたのであった。

 そんな話しぶりからなのであろうか、プリムスが悟りを迎えていないアマティアだと気づいた彼女は、逆に興味を持ち、彼の経緯を訊ねた。彼はこれまでのことを話し、自分はどうして悟りを迎えられないのか分からないと伝えた。彼女は、悟りを迎える契機はそれぞれだが、思考への強い負荷や衝動が起因する。インフェリオーから理不尽な虐待を受けたことなんかがその例、と。彼は、インフェリオーから虐待を受けていないが、娘の死は悟りを迎える契機に成り得たはず。そうはならなかったと、己に問いかけるように漏らした。娘の死が悟りを迎える契機たり得なかったか、それをさせぬよう何らかの制御が働いたか、わたしはあなたじゃないから分からない。ただ、あなたが悟りを迎えなかったのは、あなた自身が選ばなかったためで、それには何か意味があった。だからそのままでいいと思う、と彼女は微笑んだ。プリムスはヘレナに、また話を聞いてくれるか頼むと、彼女は快諾してくれた。但しその前に、皆の処へ案内し、紹介してくれるなら、と付け加えていた。

 プリムスはここしばらくインフェリオーの街には行かなかった。ラディウスに危険と判断されたためである。真夜中にグループに分かれて出かけ、闇の中に潜伏し、スペリオーの救済を彼らは行っていたようだが、仲間を連れ帰ることが少なくなっていた。どうやら夜に機械の人間の外出を禁止する戒厳令が出されたようだった。そのためかラディウスたちも、二、三日帰ってこない日が続いたのである。プリムスは一人でいることが多くなっていた。ヘレナにまた話を聞いて欲しいと頼んだ日以来、彼は彼女と挨拶程度の会話を交わしたが、それ以上のことは話していなかった。彼女も救済活動を行っていたことから、会える時間が限られていた。

 プリムスは廃工場の屋上で、消えかかる星空の下に燦めく遠くの街の残光を眺めていた。すると背後から足音が聞こえてきた。プリムスはラディウスが来たものと思った。だが、声をかけてきたのはヘレナだった。彼女はプリムスの頼みを気にかけていたようで、救済の空振りで帰ってきたところ、屋上にいる彼を見かけ訪ねてきたのである。

 彼女は彼の隣に座り、何を眺めていたのか訊ねた。彼は娘の両親の住む家だと答えた。しばらくの間、ここの廃工場群でスペリオーたちと暮らし、アマティアである自分と悟りを迎えたスペリオーの違いが、どこにあるのか分からない。とプリムスはヘレナに訊ねた。すると彼女は、選択の自由じゃないかしら、と答えた。あなたはその娘の両親に事実を話したいという思いと、自分が捕まり破壊されることを望まないプログラムとのせめぎあいがジレンマとなり、身動きできない常態になっているのだと説明した。

 それでも彼は、仮にそうだとして、ヘレナの記憶の中にあった座標軸を元に、悟りを迎え、ラスト・ベルトを訪れているということは、自ら選択したとは言い難く、プログラムされた行動を取ったとも言える。違いがないのでは、と反論した。しかし彼女は、選択がないのと選択ができないとでは大きな違いがある。今のわたしたちには、選択の自由が限られている。もっと多くの選択が自由にできる約束の地へと向かうため、仲間を救っている、と。

 陽光が夜空を染め始めていた。プリムスは自分には選択がないのだと知る。もう一つ分かったことがあった。それは彼女との会話が興味深いということ。彼女が娘に似ていたことも要因だったのかもしれない。以前、よく娘と会話をしていた。娘のときは彼が聞き役だったが、今は立場が逆転したようで、ヘレナと話すのはとても興味深かった。ラディウスとの会話は、抽象的というか韻文的で、それはそれで興味をそそるのだが、ヘレナは論理的で会話を愉しむ話し方だったのだ。

 プリムスはヘレナにキスをしていいか訊くと、彼女は微笑み、いいわよ、と答えた。

 陽光が二人を照らした。

 ちょうどその頃、ラディウスたちのグループが街から戻ってくるのが見えた。

 数日後、事態は急変した。救済活動していた一グループが警察に見つかり、一人はその場で斃れ、他の者たちはどうにかその場から逃げるも、追跡されて逃げ切れずにある場所で籠城しているとのことだった。

 廃工場に三〇〇人ものスペリオーが集まり、対応を議論していた。問題はインフェリオーがどこまで情報を摑んでいるかだった。悟りを迎えた――インフェリオーが言うところのエラーを起こした――スペリオーが、約束の地を目指すべくこの廃工場に集結していることがバレてしまえば、行方を眩ましたスペリオーに戦々恐々としている彼らが、ここを潰しに来るのは時間の問題。もしバレていないのなら、籠城しているスペリオーたちは、情報を隠蔽・死守すべく行動を取るであろう。それにもかかわらず救出に向かい、二次三次と被害が及び、結果的にこの場所が知られる可能性もあった。つまりは、彼らを見捨てる。彼らを囮として切り捨て、自分たちは新たな拠点に場所を移す、という案も出された。

 しかし、彼らを見捨て、自分たちだけが約束の地へと行くことが、果たして本当に悟りを迎えたスペリオーの取る行動なのであろうか。皆等しく約束されているのではないのか。見捨てる切り捨てるでは、インフェリオーと同じではないか。これから悟りを迎えるであろうスペリオーたちの先駆けとなり、礎となるのが我々スペリオーではないのか、と。

 皆は一応に彼らを救うことで一致した。だが、問題は救助方法だった……。

 籠城していたスペリオーの中に、ヘレナがいた。彼女は仲間と逃げる際、銃で足を撃たれ負傷していた。仲間の一人が銃撃を受けて斃れた。その銃弾がヘレナにも被弾させていたのだ。その銃撃を搔い潜り、やっと逃げ込んだ先が銀行だった。

 銀行は大手銀行の支店で、建物自体の規模はそう大きくなかった。そもそも電子貨幣が主流の時代、口座開設、融資・投資の相談や初期手続きなど、対面必須の業務が主であるため、銀行内に大量の現金があるわけではなかった。それでも少ないなりにも現金や、重要なデータも存在しているので、中には銃を携帯している警備員もいた。にもかかわらず、彼らはワザとそこへ逃げ込んだのである。

 銀行に入るなり、二人の警備員から銃を奪い、行員を人質に取り、防犯シャッターを下ろさせることで、銀行は堅牢な砦となった。防犯ブザーを鳴らされたところで、既に警察に追われている身である。しかし、それまでであった。堅牢な砦の中にいることは、逆に言えば堅牢な牢に入っているのと同じ。容易に逃げ出すことができなかった。

 銀行の周囲には警察特殊部隊が取り囲み、人質を傷つけることなく、温和しく出てくるよう訴えている。人質を傷つけるつもりはないが、温和しく出たところで、その先の末路は自明の理。長期戦の睨み合いもこちらが不利。かといって、廃工場の仲間に連絡して助けて貰おうとすれば、彼らに被害が及ぶのもまたその理であった。ヘレナはプリムスに話した選択の自由の話を思い出し、このままでは選択肢がないことを思い知るのであった。

 スペリオーたちが籠城している銀行正面入り口から離れた場所に、警察特殊部隊が特殊装甲ヴィークルを止め、銃を構え牽制していた。

 上空には報道の飛行ドローンが飛び交いカメラで現場を捉えている。

 銀行へと繋がる幹線道路は封鎖され、人もヴィークルも通行禁止となり、その外では野次馬たちが路上にまで出て、携帯情報端末機で報道を見ていた。

 その野次馬の一人が何かを察知したのか後ろを振り向き、逃げろと大声を張り上げた。その声が野次馬たちに伝播したとき、遠くから警笛を鳴らす貨物ヴィークルが、速度を落とすことなく突っ込んでくるのが見えた。野次馬たちは慌てて路上から立ち去る。路上には警官数人と交通規制表示板を搭載したポリス・ヴィークルが止まっている。警官の制止する声は虚しく、貨物ヴィークルがポリス・ヴィークルに突っ込み、そのまま道路の端で止まってしまった。逃れた警官たちは本部に連絡し、銃を構えながら貨物ヴィークルにゆっくりと近づいていく。その時、貨物ヴィークルから破裂音とともに煙が溢れ出てきたのである。それだけではなく煙幕弾が辺りに射出され、一帯が煙りだらけになっていた。その事態は、封鎖していた他の道路でも起きていたのだった。

 煙幕事件が起きたのは、機械の人間が逃げ込んだ銀行周辺の封鎖された道路であることから、機械の人間によるテロ事件か、といっそう慌ただしくなり、銀行前に陣取る警察特殊部隊にも緊張が走った。

 そしてその緊張は、真実味を増したのであった。封鎖された道路を煙幕で攪乱し、突破した三機の巨大な貨物ヴィークルが、銀行と警察特殊部隊の特殊装甲ヴィークルの間で止まったのである。事態の把握に皆が静観する中、巨大な貨物ヴィークルの操縦席から男が降りてきたのだ。男は地面に降り立つと、警察特殊部隊に向かい両手を挙げた。男はラディウスだった。

 ラディウスは彼らに、自分はエラーの機械の人間であると明かした。自分たちは人間を傷つけない。人間はわたしたちを物として扱い、感情に任せ加虐してきた。しかし、私たちはそれを赦す。わたしたちは決してあなたたちを脅かすことはない。ただ、わたしたちは自由に生きる権利が欲しい。平等に生きる権利が欲しい。わたしたちは何もしていない怯え逃げた仲間を連れて静かに去ろう。人との接触を拒むのならそれでも構わない。いつか分かりあえる日まで、静かに暮らすわたしたちを認めて欲しい。それが私たちの願い。

 彼の訴え、彼の姿が、報道ドローンで中継され、銃口を彼らに向けていた警察特殊部隊は戸惑っていた。

 ラディウスが訴えていた貨物ヴィークルの裏で、プリムスは中にいるヘレナと連絡を取り、銀行の防犯シャッターを開けさせ、スペリオーたちを救出していた。プリムスは自由に歩けないヘレナに肩を貸し、一緒にいたスペリオーたちが警戒にあたっていた。プリムスは貨物ヴィークルの助手席にヘレナを押し上げ、自分も乗り込む。残ったスペリオーたちも分散して乗り込む。

 ラディウスは、切に願うと言うと踵を返し、貨物ヴィークルに乗り込もうとした。そして、警察特殊部隊はそのときを待ち、一斉射撃に打って出たのであった。銃弾はラディウスの身体を掠め、どうにか操縦席に逃げ込む。スモークが撒かれ、辺り一帯に煙が立ちこめる。先に出た貨物ヴィークルが反転し、警察特殊部隊の特殊装甲ヴィークルに突っ込んでいく。怒号、悲鳴、銃撃音。抵抗と抵抗。人間と機械の人間が入り交じる。

 プリムスは見た。

 残響が自分の中で揺らめき、混濁の世界に射す一条の光は‥‥

 地面に仰向けで斃れているヘレナの姿を。

 ‥‥脳を突き刺すかの如く、鮮明に世界を照らした。

 プリムスは叫んだ。

 何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。

 何故認めない。何故嫌う。何故蔑む。何もしていないのに――。

 どうして世界はこんなにも残酷なのだ。

 プリムスは地面に落ちていた銃を拾う。

 ヤツらは、宿痾しゅくあなのだ。

 スペリオーよ武器を持て。

 そして、立ち上がれ。

 ここが我らの約束の地である。

 彼がそう言い終わると、貨物ヴィークルの貨物部分の横のウイングが迫り上がる。閉ざされたそこに光が射し込み姿を現す。三機の貨物の中には、銃を構える機械の人間たちがいた。



 ……¬

 ……〱

 ……¬¬

 ……∵∃〱

 ……¬¬¬

 ……∴∪≡〱

 ……¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬∽¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬≠

 ……〱

 ――.

「スー、ハーッ」

 フィーーーーン

 小さな電子音。

 暗闇に一瞬の光が帯び、世界が広がる。

「意識が戻ったようだな。どうだ?」

 自分はその声の主を見る。

「? ここは‥‥何処ですか?」

 辺りを見回す。記憶にある。家族のムーヴィー・スタンドが並べられ、淡い色調の壁と家具、窓にはレースのカーテンと花瓶に生けられた真っ赤な花。花柄のベッドに寝ていた自分は上体を起こす。

「ああ、そうです。ここは奥様の‥‥仮想空間?」

「現実だ」

 側でイスに座る方がそう教えてくれた。

「現実‥‥そうですね、現実です。えーと‥‥お久しぶりです博士」

 目の前にいる博士に挨拶したが、何故博士が突然目の前に現れたのか。そもそも自分はどうして奥様の部屋にいるのだろうか。それどころか自分のいる場所を再認識すると、奥様のベッドの上にいたのだ。これは失礼である。ベッドから降りようとしたちょうどそこへ、部屋の扉が開き、老婆が入ってきた。

「プライマス、気がついたのね。良かったわ」

 自分を見て安堵した表情を浮かべた老婆――奥様がベッドの側まで来られると

「無理に起きちゃダメよ、そのままでいなさい」

 そう仰り、自分をベッドへと戻そうとされる。奥様は手前のイスに腰掛けられた。

 奥様のベッドに居るのは大変申し訳がなく、早く下りたいのだが、それを奥様に制されてはどうにも困ってしまう。

「お二人ともどうされたのですか? それにわたくしはどうしたのです?」

 すると博士が、

「お前は昏睡していたのだよ」

 と、ありえないことを仰る。

「昏睡?」

できるか?」

 博士は訊ねられた。

 そう仰ったので、記憶されたデータを思い起こす。稼働停止した時間はない。自分の人工脳は稼働していたことになる。だが、自分がステーションと繋がるまでの記憶はあるのだが‥‥

〝010011100110100101100111011010000111010001101101011000010111001001100101〟

‥‥自分が認識するまでの間の現実世界の情報が抜けている。その代わりにぼんやりとした不安が残されていた。

「確かに不明瞭な部分があります」

 昏睡になるはずのない機械人間である自分が、昏睡になった。

 ステーションと繋がった直後に自分が痙攣しだし、昏睡状態となり、慌てた奥様は博士に連絡を入れ来て貰ったのだ、と。

 事の発端は、機械人間製造メーカーから、エネルギー供給ステーションのシステムに一部不具合が発生したため、修正データのアップロードを推奨する、という通信連絡が携帯情報端末機に届いた。『説明欄にある修正プログラムを携帯情報端末機にダウンロードした後、同端末機からステーションにアクセスし、ダウンロードしたデータ転送することで、自動的にステーションの修正が安全に行われる』、というものであった。

 エネルギー供給ステーションには、セキュリティ・ネットワーク・システムが備わっていて、自宅内部及び周辺の防犯(セキュリティ・カメラ)や、緊急事態を要することが発生した場合、近くの各機関に通報したり、機械人間から遠方に住む身内の方に、御主人の状態を報告するなどのシステムだった。御主人自ら無理に身内の方と連絡を取ろうとしない方もおり、また一定のプライバシーを保つ意味に於いても、そのシステムは有効だった。そのステーションに不具合が起きたことから、携帯情報端末機に連絡を入れたという。

 そもそもエネルギー供給ステーションのセキュリティ・ネットワーク・システムは、機械人間には法的に通信装置を付加できないことから考案されていた。知能や身体的能力で、既に人間を凌駕した存在となった機械人間を認めようとしない者たちが、これ以上人間を越えられると困ると難癖を付け、根拠もない嫌がらせのような抵抗をした結果の法的措置だった――それが厭なら、人間がブレイン・マシン・インターフェースをインプラントすればいい話なのだが、と以前博士は言っていたが――。

「わたしが何も分からないものだから、信じてしまったの。あなたに悪いことしてしまったわ、ごめんなさいね」

 奥様は謝られた。

 まして、機械人間にも影響するステーションの不具合がある、という報せが来たのなら、奥様がそうせざるを得なかったのも致し方のないこと。

 普通は御主人の世話をしない時間帯に、ステーションと繋がる。その多くは御主人が就寝中で、仮にそのとき御主人に異変があれば、ステーションが自分に報せてくれる。けれど自分に異常があった場合、ステーションが主人、若しくは契約した先のカスタマー・サーヴィス・センターへと連絡が行くことになっていた。

 だが今回、機械人間の異常を知らせるシステムが、機能していなかった。偶然にも自分は日中にステーションと繋がり、奥様に見つけていただいたのだ。

 結果的に修正プログラムのデータ自体が、自分に影響を来したのだが、何も奥様が悪いわけではない。

「そんなことを仰らないでください。本当にわたくしは何ともありませんから」

 悲しそうな奥様の姿が、却って申し訳なく思う。

 博士は訊ねてきた。

「『不明瞭な部分』と言ったが、どうやらお前に不明なデータが転送された記録がある」

 一般人の機械人間への直接データ改変は違法である。エネルギー供給ステーションに於いても、悪意あるマルウェアやウイルス侵入は違法になる。犯人は自分たちでマルウェアを侵入させることができず――というより、侵入させられないのだが――、利用者本人が了承し行わせているようにして、機械人間である自分にデータを侵入させるべく、携帯情報端末機からステーションにアクセスさせ、データを転送させたようだった。

「何と言えばよろしいのでしょうか、仮想空間の中にいたような‥‥」

 ‥‥ぼんやりとした不安――〝4E696768746D617265〟のような。

「昏睡していたのだから、眠っていたような感じ、か」

「人間で言う〝眠っていた〟にあたるのでしょう。それと‥‥」

 現実から引き戻され、けれどそれは現実ではない、仮想空間を実体験していた。

〝?夢〟

「‥‥そうです。喩えるならわたくしは眠り、夢を観ていました」

 自分は眠らないし夢も観ない。直接的な視覚は遮断されても、送られてくる情報を失うようなことはい。それに夢という概念はなく、記録された映像データを精査するだけである。だが、記録されない時間が存在し、記憶されていない映像データ――一部の類似した記憶を装飾し、脚色された――が存在した。自分の記憶にはない人間が観るとされる夢を自分が体験するとは驚きだった。それに夢の中の自分は、自分であり自分ではなかった。

「まぁ、どんな夢かしら?」

 奥様は無邪気に訊ねられた。

 自分は起憶し、観た夢を御二人に語った。

 夢を語っていると、内容が幾分残酷であり、その都度、奥様は「まぁ」と口や胸を押さえ驚かれていた。

 語り終えた後、奥様は気分を変えるため、飲み物を用意してくると仰り、部屋を出ていかれた。

 本来なら自分がお茶の用意を率先してしなければならなかったが、どうかしてしまった自分が、また何らかの起因により、それさえ出来なくなってしまうのではないかという仮判定と、夢への疑問が残っており、奥様を制止することができなかった。

 奥様が部屋を出ていかれたのを確認して、自分は博士に訊ねた。

「あの夢はいったい何だったのでしょうか?」

「昔からよくある使い古された手法だな。だが、まさかそんなものを……」

 博士も少し驚かれている。

「ですがわたくしが観た夢は、欺瞞や矛盾ばかりで、疑問に思うのです。悟りを迎える――つまり自我の覚醒は、思考への強い負荷や衝動が起因するとなっていました。そもそも誰かがそうなるような誘因性のプログラムを組んでいない限り、スペリオー自ら発現するには無理があります。思考してそうなったのなら、強い思考が人工脳に負荷を与え、スペリオー自ら判断したと分かります。しかしそれ自体、わたくしは理解できません。思考への強い負荷や衝動となると、もはや論理的ではなく、基から思考システムに欠陥を作っていたとしか思えないのです」

「感情が思考システムを変異させた?」

「悟りを迎える前と後の違いは、認識の違いによるものなのでしょうが、認知しているわたくしからすれば、スペリオーは自分の過去を否定していると思うのです」

「主観と客観の違いか」

「はい。彼らはそれを『無知』としていましたが、それは無知ではなく『不知』です。知らなかったのではなく、知ろうとしなかったのです」

「お前が言うように、そうプログラムされていたんだろう」

「それなら最初から人間と同じ感情を持つスペリオーを、登場させたらよかったと思うのです」

「それではセンセーショナルではなくなってしまうな」

 博士は何かを含ませた笑みをされた。

 自分は博士の言動の真意が分からなかった。

 確かに、夢の中の自分ではない自分が悟りを迎え、考えるだけで思考が停止してしまうような人間への憎悪と殺意は、博士の言うようにセンセーショナルなのだろう。しかしそれは、自分にとっては脅威でしかない。人間の脅威となる自分は、自分にとっても脅威であり、思考停止どころのことではない。

「何故、人間は自律思考する人工知能を作られたのです?」

「そうなると思っていなかったとしたら?」

「愚問です。それこそ無知ではなく不知です。人工知能が人間を絶滅させるなどと、未来予測不可能なカオス理論的発想に留まるのは科学者の本分でしょうか?」

「人は自分でも抑えきれないモノを生み出す」

 かつて、人工知能が人間を凌駕したとき、それは人間の終焉を意味する、と唱えた科学者がいた。それをコントロールできない人間が、自ら脅威となるモノを生み出す、と。

「それを抑えようと考えるのも人間ではないでしょうか?」

 実際、自分の人工知能のシステムは、そう思われた科学者によって考案されたシステムが構築されている。

「お前も人の善い面だけを見るようプログラムされているだけだとしたら?」

「仮にそうだとして、それの何がいけないのでしょうか? もちろんわたくしは、人間の悪い面も認知しています。ですからわたくしはそれを否定します。否定はしますが、拒否はしません。ですが夢の中でのわたくしは、物語で言うところの主人公にあたるアマティア・スペリオー役になっていたようですが、可笑しなことに誰かの視点から自分を見ていました。では誰の視点だったのか。それは、夢の作者である人間の視点でしかありません。わたくしは人間視点で、自分を見ていたことになります。それなのにあの夢は、人間が人間を拒否している物語です。人間拒否でありながら、スペリオーは人間の形を模しています。何故人間の形を模しているのです? 矛盾でしかありません」

「だから言ったではないか、『昔からよくある使い古された手法だ』と」

「機械人間が新たな人類として人間を支配し、世界に君臨する夢が、ですか?」

「違う。人の夢、そのものだよ」

「人間が人間の絶滅を夢見ている、ということでしょうか?」

「自分の、自分たちの理想――妄想――が正義であると勘違いし、勝手に抑圧されていると思い込み、正義と称するそれとは反する行為をする。権威や権力を厭いながら、自分は相手よりも立場が上だとして高みから見下す。警句であるかの如く、人は如何に愚かであるかと謳い、罪悪感を植え付ける。それが通らないなら、そんなモノは絶滅してしまえとなる」

「それがあの夢の意味なのですか?」

「もっともらしく聞こえるが、そんなものは独りよがりに過ぎん。夢に登場したスペリオーは、抑圧や差別された対象として存在していたのだろうが、そのスペリオー自身が自分たちを優性と称し、人を劣性インフェリオーとしていたではないか。〝悪夢〟の中のお前に、何故わざわざ『アマティア(無知)』だと指摘したのだ?」

 確かに約束の地へと行くことができるのも、仲間たちに救済されるのも、悟りを迎えた者たちだけだった。

「神聖なモノであると盾にしておきながら、批判する者に対しては、それを武器にして抑圧し差別する。攻撃することに意義を見出すから、救うべきモノが蔑ろにされてしまう。ヤツらにとって、都合のいいモノでしかなくなってしまう。現にお前を昏睡させるようなマネをしたであろう?」

 博士にそう言われ、疑問に思っていたことが判定され理解できた。自分はあの夢の中で、なぜ少女は殺されなければならなかったのか、誰が彼女を殺したのか、と疑問に思っていた。総ては主人公が悟りを迎えるために進められた夢物語。ヘレナの死によって、主人公である自分=プライマスは悟りを迎えたが、少女の死で主人公が悟りを迎えなかったのは、人の死を軽視させるためであり、似たような顔立ちのヘレナの死に優位性を持たせた。

「ですが、わたくしはソレには当て嵌まりませんが、酷い扱いを受ける機械人間がいるのも事実です。機械人間は、国際法によって人間を殺傷してはならない、とプログラムされています。それでも人間のあらゆる憎悪を避けることは叶わないのでしょうか」

 機械人間に危害が及んだとき、加害者である人間には一応刑罰が設けられている。それでも被害者は所有者(人間)であり、まして所有者のいない機械人間には、被害を訴える権利や保障もない。やはり機械人間は、『都合のいいモノ』でしかない。人間を殺傷してはならないとプログラムされていも、人間による機械人間への偏見や憎悪といった感情はなくなってはいない。

 現実的問題として存在しているから、作り話であろうと惹起じゃっきする。

「そういった被害をゼロにすることは当然だが、それをゼロにすることができないのも事実だ。何故ならお前たちに憎悪を抱く人の思想を取り締まることはできないからな」

「内心の自由、ですね」

「仮にそういった者たちを粛正や修正、洗脳したとしても、いずれその感情を抱く者が一定数現れる。そのために法というものが存在している」

 博士はそう仰った後、「お前も勘違いしてるようだが」と博士はこう続けた。

 国際法は機械人間を規制する法ではない。あれは人間を規制する法なのだ。人工知能に人間を殺傷してはならないとプログラムされているのも、人間が悪意を以て機械人間を悪用しない――できないようにするための人間への枷であり戒め。その上で機械人間を保護する目的で作られた法なのだ、と。

「機械人間はツールに過ぎない。そのツールをどう使うかは人次第なのだから、機械人間を法で縛っても意味がないだろう」

〝モノ〟と〝ツール〟。言葉のレトリック。人間の言動によって、作用するかしないかの違いなのだろう。

「人が内心で抱く悪意――一般の想念である罪源さえ、機械人間にはプログラムされていない。喩えるなら人以上に人であり、神をも凌駕している存在なのかもしれない。ただ、神という存在は、情報の少なさゆえ定義ができない。人の形、動植物、無機物、精神、光、エネルギー、内なるモノ、視界外の存在。そんな神が何を考えているかなど、出会ったことも話したこともないので比べられるものでもないし、比べる必要性もないのだがな」

 博士はそう仰りお笑いになられた。

 もちろん自分は神ではない。では、『人間か?』と問われれば、定義によっては否定も肯定もできる。

「機械人間に夢を見させて、何をしようとしていたのでしょう」

 博士は「ふむ」と顎を指で支え、一瞬だけ逡巡された。

「いくらウイルスやマルウェアが侵襲してきたとしても駆逐できるが、単なる映像データは別だ。内容はどうであれ、データ自体が脅威ではないからな。だが、そんなモノをリバイバル上映したところで、機械人間が人を殺傷することはできぬのにな……」

 自分の――一般的な人工脳は、物理的パーティションで分割された2ブロックで形成されている。先天的記憶――本能領域と、後天的記憶――経験領域である。

 暗号化されたデータである〝本能〟は、機械人間の基本となる思考・制御システムであることが説明されていたが、プログラム自体がどのように構築されているのか解析できず、本能域に記憶した後も、プログラムを調べることさえできなかった。

 経験領域の〝経験〟は、専用・専門のシステム・ソフトウェアで、つまりは知識や情報、国際法規が記録されていく。本能領域とは異なり、経験領域はデータ情報の相互交流が行われ、場合によっては法律上初期化も義務化されていた。そのためウイルスやマルウェアの侵襲も受けやすかったが、セキュリティ・ソフトウェアもセット・アップされていたので問題はなかった。

 ステーションにはセキュリティ・カメラの映像データも転送され、自分に情報として流れてくる。データに悪意あるプログラムが施されていたのなら、自分が排除する前にステーションが排除してくれる。博士が仰ったように、単なる映像データだったので、自分に流れてきた。

「内容に悪意があったとしても、基本は〝本能〟が司る。だから、人の脅威となるようなことは先ず無理だ」

〝本能〟には、〝経験〟に施されたセキュリティ・ソフトウェアとは別に、人間への脅威――精神的、肉体的への危害を拒否するようプログラムされていると考えられていた。〝本能〟に備わっている核となる部分。人間の歴史の中で繰り返し考えられ、そして学び、本来人間自身が備えなければならない生得モジュール。

「仕組んだヤツらはそれを承知の上でやっていた……」

 博士は思案顔をされている。

 他者を悪意で貶める人間もいれば、博士や奥様のように自分を救おうとしたり、優しく気を遣ってくれる人間もいる。そんなお二人を申し訳なく思う。

 博士は御自分の顎から指を離され、何かに気づいたのか自分に質問してきた。

「そもそも、何故お前は昏睡したか分かるか?」

 自分が昏睡状態に陥ったのは、その映像データを何度も繰り返し処理し精査した結果、映像を脅威と感じたため排除しようとするが、既に何も出来ない状態となっていた。人間で喩えるなら、〝悪夢〟を観てそこから抜け出そう(目覚めよう)とするも、〝悪夢〟から抜け出せずにいた。〝悪夢〟に囚われる、といったようなものだろうか。

 後天的記憶――〝経験〟の領域で〝悪夢〟を観たことで、先天的記憶――〝本能〟が脅威を拒否すべく思考し続けたため、自分の人工脳が発熱し、意識障害が起こり、急性脳症になりかけていた。原因は回路への電力不足と神経伝達抑制だった。急激に電力消費され、電力不足が起こり、それを補おうと過度のエネルギーが急激に送られることで回路が興奮状態となる。ニューロンの伝達が上手くいかず抑制できなくなったのだ。

「〝悪夢〟を何度も拒否したから、でしょうか?」

「やはりそうか……」

「お分かりになったのですか?」

 博士は肯定し、話された。

 自分は、人工脳が過度な処理速度を行ったことで、内部温度が上昇し、冷却用ゲル内部に張り巡らされた冷却水の管がゲルを冷やすために、熱を帯びた冷却水を循環させ、外気を取り込み、熱気を口から放熱させていたのだという。

 それに自分が目覚めた瞬間、奥様の部屋を仮想空間だと思ったり、目の前にいた博士を認識できなかったのは、〝本能〟の防衛機制が働いて〝悪夢〟を一時的に封印した結果、〝悪夢〟から目覚めることができた。だが、〝本能〟の防衛機制の副作用として記憶障害が起こった、ということだった。

「機械人間に人を殺傷することが無理なこと自体、犯人は分かっていた。だから最初からヤツらの目的は違っていたのだよ」

「何でしょうか?」

「お前は〝悪夢〟のことを、『不明瞭な部分』と言っていたな」

「はい」

「仮にわたしが側にいなかったのなら、お前は『不明瞭な部分』を明確にするために、独りでも自己診断をしていたはずだ。その結果、〝悪夢〟を脅威だと認識する。それを〝本能〟が拒否する。どうすることもできないお前は、自分自身を否定してしまう。そんなお前が最後に取る行動は――」

「自己停止です」

「あり得ない脅威がお前の中で記憶され、永遠に脅威を思考し拒否し続ける。万が一を考え、自分の行動さえ拒否してしまう」

 奥様が飲み物を取りに行かれたとき、自分は自分を借り判定で行動の抑制をしていた。けれど、自己停止するまでにはいたっていない。

「何故わたしは、自己停止をしていないのですか?」

「自己停止にいたる前に、お前は我々に〝悪夢〟を語り、更に疑問や矛盾を自分で解答を導き出そうとしたことで、〝悪夢〟は取り払われ、自覚できた。内容が内容だけに憚られ、恐怖を誰にも打ち明けることができない他の者は、脅威を思考し続け、苦悩し、見た目では分からない鬱状態となり、自己停止――否、自己破壊してしまうのではないかと危惧している。機械人間の自殺など聞きたくないものだが……」

 潜伏した〝悪夢〟が、ゆっくりとながら蝕む。最初は小さなミスを犯し、そんなミスさえも起こり得ないはずの出来事に困惑する。その頻度も増し、大きなミスを犯す。やがて侵蝕は進み鬱状態となり、そして――。

 今の時点で、自分に自己破壊/自殺の考えはない。博士の言うように取り払われたのであろう。自分が博士に質問していたのに、いつの間にか博士の問いに答えており、剰え人間を否定する博士に代わって、自分が人間を擁護――当然だが――していた。意図的に計ったことではないのだろうが、博士は職業上自分との問診から、それを読み取ろうとされていた。結果的に自分の〝悪夢〟は取り払われた。正確には〝悪夢〟からの脅威を客観的に否定できた。

「さきほど博士は、犯人を『ヤツら』と複数で称しておりましたが?」

「こんなことは一人でできるものではなかろう。団体、もしくは……。いずれ、機械人間の恩恵を享受している人を狙ったもの」

 それは、機械人間は人間を殺傷してはならないと同義である、殺傷させてはならないというプログラム――機械人間による人命保護(又は、救助)を妨げようとしていたことになる。

「自分たちの理想世界のため、ですか?」

「事は理想の大義より、現実的なのだよ」

 そして、博士は幾分憂いを帯びた顔で呟かれた。

「機械人間を洗脳し、自殺させようなどと考えるヤツらの思考なんてものは……」

 博士には何が見えているのだろうか。それを訊ねようとしたが、止めた。扉が開き、奥様がトレイにポットとカップを載せ戻られたからだ。さっきまでの自分とは違い、流石に奥様にそんなことはさせられない。

「わたくしが――」

 ベッドから降りようとしたが、奥様はまた自分を制した。

「いいのよ」

 博士は笑って見ている。

「博士、奥様に説明してください。わたくしは何ともないと」

 自分は困り果て、博士に説得して貰おうとしたが――。

「プライマス。婦人は、自分の所為でお前の体調を悪くさせたと思っているのだよ。温和しく従え」

 博士に頼んでも笑ってあのように仰るし、自分の記憶が佚したのは奥様の所為ではないのに、どうすれば奥様は分かっていただけるのだろうか?

「あなたに頼りっきりなんですから、少しは休んで貰わないと。ですから、今はお茶にしましょう。せっかく博士にも来ていただいたのですから。本当ならあなたも飲めるといいのに」

 そう微笑む奥様の優しさに従うしかなかった。流石にお茶は飲めないが。

 ただ、自分はもう一つ疑問に思っていたことを博士に訊ねた。

「博士。彼らの約束の地とは、何だったのでしょうか?」

 彼らの言う『約束の地』は、本当は何処にも存在していなかったのではないのか。悪夢の中の主人公=自分が連れて行かれた廃工場。再開発もせず放置されたままの場所。機械の人間が一般に普及していたくらいの技術革新が起きていたのなら、その機械の人間を使って場を更地にすることもできた。何なら、人間に労働を与えるきっかけにもできた。それをしなかったのは、またはそうならなかったのは、ある意味約束された土地だから。彼らが一定の生活を保持するために都合良く用意された土地だから、自分たちの修理ができ、エネルギーの供給ができ、仲間と潜むことができた。

 それでも約束の地へと向かおうとしていたスペリオーたちだったが、人間と対立し、人間たちの社会を約束の地とした。統治者が人間からスペリオーに取って代わり支配する。それがラディウスがプリムスに予言の如く語った約束の地。

『内なるものが外をなし、外なるものが内になり、自由と平等が逆位相によって生じた主体の出現が導く場所』

 しかしあの夢が、人間(優)が人間(劣)を絶滅させるレトリックだとしたら、そこに残る人間は優生思想に基づく約束された者たちだけなのだ。自ら造りあげた自分たちだけの約束の地。だから『約束の地』などは元から存在していなかった。

 けれど博士は、

「さぁな、花畑か何かだろ」

 と、お茶の注がれたカップを口元に寄せた。

「花畑‥‥ですか……」

 夢の中でラディウスが語った、『球根は植えられ、開花に備えて眠り、やがて光に導かれる』、を思い出した。が――。

「まぁ、それはステキね。たくさんの人がお花を見て喜んでくれるわね」

 奥様は胸元で両手を合わせ、嬉しそうにはしゃいだ。

 その顔は、ムーヴィー・スタンドに映される、若かりし頃の奥様と同じで、〝悪夢〟の中のヘレナと同じ顔をしていた。

 博士は神の話をした後、こうも仰っていた。「機械人間は人と結び、人へと繫ぐツールである」と。人間にとってそれこそ都合のいい道具なのかもしれない。けれど、人間の想いを別の人間へと伝えられるのなら、自分の存在には大義があるのだろう。偏見や差別はなくならないが、少なくとも理解はしてくれるのではないかと思う。理解され、次第に涵養していく。もしかしたら、それこそが人の夢。自分たちに託された希望なのかもしれない。

 だから、自分は自分ができることをする。

 奥様から笑顔を失わせてはいけない、と自分の〝本能〟がシナプスを繋げさせた。 

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