第5話

時は流れて7年後


高校2年生になった。


ママの行方は分からぬまま。


先生「ユキミちゃん。ちょっといい?」


ユキミ「はい。」


先生「あのね。実はここの施設もね子供たちが増えすぎちゃって…。一人暮らしとか考えてない?助成金とか出るみたいだからそんなに大変じゃないと思うんだ。」


ユキミ「一人暮らし…。」



もう私はここにいてはいけないみたい。

早く出ていって欲しい。そんな顔。

この施設の先生は7年間ずっとそんな顔を私に向けてきた。


ユキミ「分かりました。」


先生「ほんと?じゃあいろいろ手続きもあるし明日時間あけといてね!」


小学生の頃は何度か私を引き取りたいという人が来たけど、中学生になってからはほぼなくなった。

私は引き取り手が現れる度に全て拒否していた。


高校は通信制のところに通っている。

基本は毎日バイト。

自分が生きていくために最低限のことしかしていない。



ヒナト「おーい。そこの女ー」

ユキミ「はあ?なんですかそこの不審者」


ヒナトくんはこうして度々フラっと来てフェンス越しにお話をする。

こんなことを7年間も続けてくれるんだ。


ヒナト「アイス買ってきた。」

ユキミ「やったー!私これねー!」

ヒナト「は?お前それ俺が食おうとしたんだけど」

ユキミ「早い者勝ち。」

ヒナト「ちっ…。で、次いつ学校来るの?」

ユキミ「また来月。」

ヒナト「お前普通科にすれば良かったのに」

ユキミ「いやいや。バイト出来ないじゃん。門限早いし。」

ヒナト「バイトばっかするのもよくねえよー」


フェンスにもたれかかる君。


ユキミ「あ、あのね、私一人暮らしするんだ。」


ヒナト「え、ここ出るの?」


ユキミ「そー。いいでしょ〜一人暮らし」


ヒナト「えーいいなぁ…俺も一人暮らししてえよ…毎日あのババアとジジイが…」


ユキミ「その割には楽しそうだけどねー」


ヒナト「楽しかあねえよ。てか、どの辺に住むの?」


ユキミ「まだちゃんとは決まってないけどこの辺じゃない?施設に近い方がいいと思うし。」


ヒナト「ふーん…。あっ、やべえ……俺バイト遅刻するかもっ!じゃあな!」


ユキミ「はーい。早く行けー」



一人暮らしか…。


いずれはするんだと思ってたけどこんな早くすると思わなかった。


気づけば私が最年長。


下の子が増えるばかり。


年上の人はみんな出ていった。


リツくんは去年この施設を出ていって今は働いてるみたい。時々施設に来て差し入れをしてくれる。


私もきっとそうなるんだろうな。



私もそろそろバイトに行かないと。


バイトはファミレスとコンビニ。


週6。


毎日長時間。


正直凄く疲れる。


人とのコミュニケーションが上手くないから。高校生だから接客業しかバイトの種類がなかったけど初めて1年。コミュニケーション能力は全く良くならない。


知らない人と話す時は毎回変な汗をかくし目も見れない。


凄いストレスだ。




でも一人暮らしするなら尚更続けていかなくちゃいけない。



ユキミ「いらっしゃいませー。」


今日はファミレス。


店員「あ、ねえユキミちゃん。今日新しい子入るんだけど、教えてあげて欲しいな!」


げ。


1番嫌だ。


ユキミ「あ、分かりました。」


初対面。


本当に嫌だ。



???「初めまして…」


ユキミ「初めまして…ユキミです。よろしくお願いします。」


目は合わせず無愛想にお辞儀をする。


???「あ、アンズっていいます!よ、よろしくお願いします!」


何か雰囲気を感じとった。

この子も結構人見知りなんじゃないか。

そうだと結構楽だなぁ



ユキミ「あ、じゃあまずはお冷の入れ方からで…。」


アンズ「は、はい!」


懐かしい。


私も初めてここに来た時緊張しすぎて死にそうだった。


ユキミ「あの…緊張すると思うんですけど、慣れれば大丈夫ですから…。私も未だに緊張してますけど…。」


アンズ「あ…はい!」


ユキミ「じゃあ次は…。」


こうしてこの日のバイトは終わった。


ユキミ「お疲れ様です。」


アンズ「お疲れ様です!」


静かな更衣室。換気扇の音だけが聞こえる。


アンズ「あ、あの…」


ユキミ「は、はい…」


アンズ「ユキミさんって高校生ですか?」


ユキミ「あ、はい…。」


アンズ「何年生…?」


ユキミ「2年生です。」


アンズ「わ!同い年ですね!私、あの…最近こっちに引っ越してきて…高校も変わって…。」


ユキミ「どこの高校…?」


アンズ「桜山田高校です!」


ユキミ「えっ一緒…。」


アンズ「えっ?!ほんとですか?!」


ユキミ「あ、でも多分科は違うと思いますよ。通信なので。」


アンズ「えええ?!私もです!」


ユキミ「え」


アンズ「もし良かったらタメ口でいいですか?!?」


ユキミ「うんまあ…。」


この子は仲良くなったら結構グイグイ来るタイプ?


アンズ「やったー!」


でもまあ悪い子じゃなさそう。



ーーーー


波乱のバイトから帰宅。


もうみんなが寝静まってる頃、


1人机でテキストを広げて課題を終わらせる。


こんな毎日。


眠い。


最近はまともに寝れない……


だから…凄く…つかれ…




ーーーーーー


ああ。また夢だ。


夢の中はただ施設の中で私1人。先生も他の子供もいない。


夢の中では外に出れない。


出れるんだろうけど


出たくない。


何かが変わる気がして。


わたしの本能がそう言っているんだ。


今日も1人で夢の中で絵を描く。


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意戦士ワールドライン ゆーき @yuuuki_mogumogu

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