第4話

ガチャガチャガチャ


扉はだんだん激しく暴れ出す。

さっきのママの悲鳴を思い出して震えが止まらない。


私に痛いことするくらいならもう早く殺して…。


バキ



扉が壊れた


もう終わりだ



クローゼットの中に差し込む光


ぐちゃぐちゃになった家の中が見えてくる。


ヒナト「おい!大丈夫か!」



ユキミ「え…」


ヒナト「何があったんだよ!」


私を迎えに来てくれた王子様。

君はホントの王子様だった。


ユキミ「う…うわああああん」


緊張が溶けて一気に涙が溢れ出る。


ヒナト「お前ん家に遊びに行こうと思ったらよ、お前の母ちゃんがおっさんたちに連れ去られてるところ見てさ」


クローゼットを無理やり開けたせいで血だらけになってるヒナトくんの手。


ヒナト「お前は無事なのかと思って家に入ったんだけどこんなになってて…」


その手を見てもっと涙が出てくるんだ。


ユキミ「ありがと…ごめんね…ごめん…ごめんねぇ…」


ヒナト「なんでお前が謝んだよ…」


ユキミ「ママが…ママが…」


ヒナト「大丈夫だから。お前の母ちゃん心配性だろ。絶対戻ってくる!」


そう信じるしかなかった。信じないともっと気がおかしくなってしまいそうで。


ーーーーー


あれからどうなったのかよく覚えてない。

ただ警察が来て…長期にわたる事情聴取を受けた。


警察「そのスーツのおじさんだけど…ほかになにか覚えてることはないかな?ママが何を言ってたとか。なんでもいいよ。」


ユキミ「……。」


私は答えられなかった。

記憶が曖昧になっていた。もしかしたら思い出したくなかったのかもしれない。


警察「まずいなぁ…足取りが全く掴めない。」


それからしばらくして私は施設に預けられることになった。


ーーーー


先生「はい!今日新しく入ったユキミちゃんでーす。みんな仲良くね!」


ユキミ「…。」


最初はみんな話しかけてくれたけど私が話さないからだんだん離れていった。


そしてひとりぼっち。


ヒナト「よっ!」


フェンスの向こうから声をかけてくるヒナトくん。


ユキミ「ヒナトくん!何しに来たの?」


唯一落ち着いて話せるのは彼だけだった。


ヒナト「たまたま近く通り掛かったからさー。どう?新しい友達できたか?」


同い年なのになんだか歳上に見える。


いや、それは当たり前だ。

ずっと閉じこもってた私に比べてヒナトくんは毎日学校に行っていろんな経験をしている。

きっとヒナトくんならこの施設でもすぐにみんなと仲良くなれるんだろうな…。


ユキミ「うん。出来たよ新しい友達…。」


悔しくて嘘をついた。


ヒナト「そっか。学校はいつから来るの?」


ユキミ「まだ決まってない。ランドセルもまだ…」


ヒナト「ふーん。じゃあまた俺来るわーまたなー」


ユキミ「バイバイ…。」


あの日からなんだか私たちの間には暗い雰囲気が流れるようになった。


木の枝を拾って地面に絵を描く。


???「なにかいてるのー?」


ユキミ「…」


???「あはは無視?悲しいなぁ…僕ら前に会ったことあるでしょ?」


ユキミ「え…。」


ふと顔を見るとどこかで見たことある顔をしていた。


でも思い出せない。


???「え?!忘れたの?スーパーでポテチ譲ってあげたじゃん!」


ユキミ「あっ」


???「思い出した?!」


珍しくママがスーパーに連れて行ってくれた日。

最後のポテチを譲ってくれたあなた。



???「ぼくリツ。ユキミちゃんだっけ?」


ユキミ「うん…。」


リツ「ユキミちゃんって何年生?」


ユキミ「小4。」


リツ「小4かー若いなぁ僕小6!」


あんま変わらない。


ユキミ「…。」


リツ「絵が上手いんだなぁ」


ユキミ「…。」


リツ「僕も描いてみる!」


そう言って一緒に地面に絵を描く。


リツ「ねえどう?猫!上手いだろ」


ユキミ「プッ…w」


その猫があまりにもブサイクで笑ってしまった


リツ「あ!わらうなよー」


その日からリツくんと私は毎日遊ぶようになった。


ーーーー


先生「ユキミちゃん。新しいお家に行ってみない?」


ユキミ「新しいお家?」


先生「そう!新しいママとパパだよー!」


ユキミ「……。」


新しい…。


ユキミ「嫌だ。」


先生「1回会ってみようよ!素敵な人たちだよ!」


そう言う先生の顔はまるで早くここを出ていって欲しいかのように見えた。


知ってる。先生が私のことをあんまり好きじゃないってことくらい。

でも私はここでの生活が楽しいから離れたくないんだ。

ここを離れたらヒナトくんにもリツくんにももう会えなくなってしまうかもしれない。そう思うと自分の中での人との繋がりが全て消えてしまうような気がしてすごく怖かった。


ユキミ「…。」


私は無言で先生の元を立ち去った。



ーーー


相変わらず毎日夢は見る。


ママがいなくなったことで私は現実でも夢でも外に出られるようになった。


でも出れない。


もう出ようと思わない。


外に行くのは怖い。


自由への代償はママだった。


一生私はママが願ったように閉じこもって生きていく。


こんな自由はいらない。

私が望んだはずの自由は孤独だった。






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