第3話

その日から1週間。



何気なく変わらない日常を過ごしている。


ただ今までと変わったことといえば私は学校の話をしなくなった。

学校の絵も描かなくなった。


諦めたのだ。





相変わらず毎日変な夢は見る。

その夢について分かっていることは意識がはっきりしていること。

夢だという自覚があること。


ヒナトくんは3日に1回くらいのペースでうちに遊びに来る。


学校は大丈夫なのだろうか?



ユキミ「ママ、」

母「なーに?」

ユキミ「今日の夜ご飯はなにー?」

母「んーハンバーグにしようかなぁ」


またあの塩辛いハンバーグか。

でもまた私は喜ぶふりをする。


ユキミ「やったー!」

母「あれ、でもひき肉がないなぁ…買いに行かないと」

ユキミ「買い物いくのー?」

母「うんママちょっとスーパー行ってくるね」

ユキミ「あ、お菓子も買ってきてー!チョコとポテトチップスと、飴とー…」


ママは私の顔を見て少し困ったように微笑んだ。


母「じゃあ一緒に行く?」


ユキミ「え……いいの?!」


何年ぶり…


最後に外に出たのはいつだろう。


ママがこんなこと言うなんて珍しい。



外に出れるのはいつも私が熱を出して病院に行く時くらい…。


ママにも後ろめたい気持ちがあったのか。


近所のスーパーなのにママはわざわざ車で向かう。


母「いい?お店の中では絶対ママの手を離しちゃダメだよ」


ユキミ「はいはーい!はーい♪」


嬉しくて何度も返事をする。


久しぶりに見る流れていく外の景色。


何もかもが新鮮で美しく見えた。


スーパーに着いてママはこれでもかと言うほど私の手を強く握る。


母「あ、そこのお肉取ってくれる?」

ユキミ「これ?」

母「そうそれ!」

ユキミ「はいどーぞー」

母「ありがとー」

ユキミ「ねえお菓子…」

母「はいはい。見に行こうねー」


ずらりと並ぶお菓子たち。

全部買って欲しいくらいだ


ユキミ「えっと!これと、、、これと」

母「買いすぎたらだめだよー」

ユキミ「分かってるって!あとは…」


あっ


最後の1個のポテトチップス。


取られちゃった。


???「これ欲しかったの?」

ユキミ「う、うん!」

???「じゃああげる。」

ユキミ「え!ありがとー!」

母「ありがとー!よかったね!ユキミ!」


私に譲ってくれたのは2、3歳上くらいのお兄さんだった。

とても優しい素敵な人なんだなってあの一瞬で分かる。


???「じゃあね。」


そのお兄さんは私のママに一礼して去っていった。

ママから見たらそこまで歳は変わらないんだろうけどなんだか凄く大人に見えた。

すごいなぁ…。


ーーー


帰り道、車に乗って窓を開けてみる。


母「顔出しすぎちゃだめだよー」

ユキミ「んー。」


このスーパーまでの短い旅ももう終わりなのかと思うと悲しくなってきた。


次外に出られるのはいつなんだろう。


家に着いて駐車をして車からおりる。

素早く車の下に入ってく猫がいた。


ユキミ「猫だ!」


車の下を覗く。


木の棒で猫を突っつくと向こう側に逃げてしまった。

慌てて猫を目で追うと

ふと目に入った黒いスーツを着た男の人。

遠くに2人で佇んでいる。

なにやらママのことを見てひそひそ話。


ユキミ「ねえママーあの…」

母「よし、ハンバーグつくろーう」


まあいっか。ママが綺麗な人だからひそひそ話をしているのかな。


ーーーー


ユキミ「お腹すいたぁまだー?」

母「今帰ってきたばっかじゃない。まだ待ってよー」


久しぶりの外出でなんだか疲れた。

こんな時間にお腹が空くのは初めて。


ピンポーン


母「はーい。」


ヒナトくんかな?気になって私もインターホンまで見に行ってみる。


ユキミ「ママ見えない!どいてー!」


そこから動かないママ。


ママで隠れてインターホンが見えないよ。


ユキミ「ねえママ?ママー?ママ…」


ママの顔を覗き込むとなんだか恐ろしいものを見たようなそんな顔をしていた。

顔は青ざめて目は涙目で体は小刻みに震えている。


ユキミ「ママ?どした…の…」


インターホンが少し見えたから見てみるとさっき外にいたスーツのおじさん。


知り合い?なんの人?


私は状況が一切つかめずにいた。


ママは見たことない速さで換気扇を消して、火を止めて、テレビ、電気も消して全てのカーテンを閉じた。


突然だ。


母「どうしよう…どうしようどうしようどうしよう…」


こんなママを見るのは初めて。

こんなに余裕のないママは…。


私は何故か冷静だった。

冷静にママの顔を見てるだけ。


何がどうなってるのか分からない。


ママはゆっくり私の顔を見て


母「ごめんね…」


と言って私を抱きしめた。


私は察したかもしれない。

ここで何かが終わるのだろうと。



次の瞬間ママは私の腕を乱暴に掴んでクローゼットに投げ入れた。


ドサッ


ユキミ「うぁああ!ママっ!」


ガチャン


外から鍵がかかったみたい。


ママに閉じ込められた。

肩がすごく痛い。

もしかしたら脱臼したかも。


ユキミ「ママ!?ママ!ねえママ何?!ねえなんで?!」


母「ユキミ!静かにしなさい。今から何も喋っちゃダメ。」


ユキミ「なん…で…」


母「ごめん…ごめんね…今日ハンバーグ無理かも…」


お母さんが泣きながら話す。


ユキミ「ママァ…痛いよぉ…」


なんだか釣られて私も泣き出す。

静かにしろって言われたのになぁ。



少しすると奥から大きな音が鳴り響く。




母「いやぁ!やめて!やめて!!!!はなして!いや!!!」


色んな大きな音が混ざりあって…


分からない。


全く。


食器の割れる音


椅子が倒れる音


ドアがぶつかる音


知らない男の人の声


いつも一緒にいたよく知ってるママの声


母「やめてえええええええ!」



怖いとかより


驚きとかより


音しか聞こえないから


何が起きてるか分からなくて


ただ静かに 静かに息までも殺して


そこに居ない存在のように


縮こまることしか出来なかった。


ーーーーー


音がやんでかなりの時間が経った。

どれくらい同じ体勢で息を潜めていたのか分からない。


さっきまで大きな音ばっかだったから


ものすごく静かに感じる。


日常の音も全部遠くに行ってしまったみたい。

ただ時計の秒針の音だけが近くにいるようで…。


そうしてまた10分 20分 1時間と長い時間をクローゼットの中で過ごす。


ガンガンガン


突然クローゼットの扉が暴れ出す。


外から誰かが開けようとしてる。


ママ?


違う。ママなら私に声をかけてくれる。


じゃあこの扉を開けようとしてるのは誰?






















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