第10話

「申し訳ありませんでした」

抱きついてきたのがこの国の王だと聞いてしゅんとしながら頭を下げているとランティスが大笑いしながら言う。

「いや 見事な蹴りだったぞー それにいきなりこんなヤツに抱きつかれたらびっくりしてやってしまうなんてよくあることだ」

「ラン 俺はフィーだと思ったからやってしまっただけでいつもこんな事してるわけじゃ・・」

見事なまでに鳩尾に入った蹴りをさすりながら大笑いを止めない親友を見るとその相手は手に緑色の石と細工彫が施されたペンをチラチラと見せる。

「おいっ それはっっ どこで見つかったんだ!!

報告を聞いてないぞ」

「覚えてたのか?」

「忘れるわけないだろうがっっ フィーが大事に使っていたものを忘れられるわけないだろう! どこで見つかったんだ 今すぐ行く」

そう言って立ち上がるとどこだと言いつつ笑っていた親友の胸ぐらを掴んで揺さぶりはじめる。

その様子を見ていたゼフェルはため息混じりに頭を下げていた少女の手を取って椅子に座らせ 自ら紅茶をいれて差し出す。

「申し訳ありません しばらくすれば終わりますのでこれでも飲んでお待ち下さい。」

「はぁ・・ゼフェル殿って大変そうですね」

「慣れております故に そうそう私の事は爺とお呼び下さいませ。お小さい頃はそう呼んでいただいておりましたので」

ほほっと笑いながら言っていると戯れ合いが終わったのか真剣な顔になってディアウォードはランティスに詰め寄りはじめる。

「どこで見つけたんだ?言えっ」

「見つけてはない 貸してもらっただけだと言ってるだろ?」

「誰にだっ これをフィーが手放すなんて絶対に・・だってこれは・・」

ランティスがこれからも自分を支えてやってくれと言いながら渡したプレゼントだった。

それを手放したって事はもうどうやってもどこにいっても会えないのかと頭からの中が真っ白になる。

「さっきお前に蹴り入れた子が手紙と共にこれもって俺を訪ねてきたんだよ」

「手紙?」

「アルからの あいつの魔法で俺しか開けれないものだった あとディニー 悪いがさっきの指輪 もう一回見せてくれないか?」

飲んでいた紅茶のカップを置いて首にかけていたチェーンを取ると机の上に指輪をそっと置く。

それを見ると慌てて手に取って指輪の中の彫り込まれたものを見る

「これは・・・」

戦況も金銭も苦しく時にどうしても求婚したくて

自分で石を取りに行き 不慣れで拙い彫り物をして

送ったものだった。

あの後 国を取り戻しもっと良いものをと言って

何人もの商人を呼んで取り寄せた

ー私はこの指輪が良いのです。大きい宝石より

優しい気持ちが入ったこの指輪が一番なのですー

あの頃は自分を馬鹿にしているのかと思っていた。

高い指輪一つ買ってやれない甲斐性なしだと・・

だが今となってあの気持ちがよくわかる様になった

本当の気持ちや助言をくれるのは未だに自分を見捨てないで居てくれるこの二人だけだ。

気持ちをもらえる それが大事だと身にしみたのは彼女が居なくなってからだった。


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