第42話 教会関係者は盲点だった……
夜。
俺が盛大に拗ねながらベッドで仰向けになっていると、不意に扉がノックされた。
エリーが怪訝な表情をしながら扉の傍から離れ、それを見計らって返事をすると、扉の向こうからくぐもった声が聞こえる。
「ダリル殿、よろしいですか?」
その声はこの神殿宿舎の守衛責任者、ガイロスだ。
俺は慌てて起き上がって扉を開けると、壮年の騎士が笑顔を俺に向けてきた。
「おお、まだ起きていらっしゃいましたか。それはよかった」
「まあ、まだ早いですからね」
「冒険者の方々にとってはそうでしょうなぁ」
そう言いながら腰に手を当て、少しだけ屈みながら俺に声を潜める。
「ところで、儂は今夜から明日一杯非番でしてね、折角なので夜の街をご案内しようと思ったんですが、どうです?」
ああ、何と言う事でしょう!
こんな身近に神がおわしたとは!!
渡りに船とばかりに何度も頷く俺を見て、ガイロスは若干引き気味になる。
「ど、どうしました?」
「いえ。嬉しくてどう表現していいかわからない結果です」
「そ、そうですか。で、今から大丈夫ですかな?」
俺が力強く頷いた直後、俺とガイロスの丁度真横にエリーが現れ、ガイロスは思わず目を見開きながら後ずさる。
当のエリーは澄ました顔をしたまま、俺たちに向かって一言告げる。
『ダメよ』
「な、なんで!?」
澄ました表情のまま、エリーは小さく首を振る。
『恋人獲得活動をするつもり?』
「ん? なんです、その活動は」
エリーの言葉に首を傾げるガイロスだったが、俺は頭を抱えながらため息交じりに応じる。
「あのさ、ここって神聖な国でしょう? 出来ないって、そんな事」
『そう言いながら実行に移すのがダリルよね? はぁ……ポーラがあんなにあなたに言い寄っているのに、どうしてまだ活動を続けようとするのかしら』
至極真っ当な意見に、俺は若干たじろぐが、それでも意見を主張する。
だってポーラは俺の人となりに惚れているのではなく、結局は魔力に惚れているんでしょう? それはそれで嬉しいような気もするが、やっぱり俺自身を認めて好きになってくれる人を探したいのが本音なのだ!
「むむっ……。で、でもね、俺ってばイケメンじゃないけど、魔力とかじゃなくて俺の性格を好きになってくれる人を探したいんだよ。それに、エリーだってこの国の夜の街がどんな様子になるのか、興味ないのかい?」
『……まあ、この国の夜の街が気になると言えば気になるけど……大丈夫かしら?』
ん? 大丈夫?
何故??
「ん? 大丈夫って?」
『え? ああ、いや、少し気になっただけよ』
「何が?」
『うーん……何となくなのよね』
少しだけ首を傾げるエリーだったが、その様子を見ていたガイロスが不思議そうに尋ねてくる。
「ところで、恋人獲得活動って何です?」
ぬはっ!
やばい。
「い、いや、こっちの話しです。はい」
「そうですか? まあ、いいでしょう。ところで、問題ないならそろそろ行きましょうか。エリー様もよろしいですか?」
「行きましょう」
『……ええ、まあ、あなたが一緒なら大丈夫……よね?』
「? まあ、行けば問題ないと分かりますから」
そう笑顔で応じるガイロスに従い、彼の先導で俺たちは宿舎を出た。
夜の聖王国の街は、昼とは打って変わってとても静かだった。
ゴミを綺麗に掃き清めた通りの家々は雨戸が閉まり、人の声など聞こえず、聞こえるのは俺とガイロスの足音ぐらいだった。
しばらく歩いていくと、正面に明かりがぼんやりと周囲を照らす場所が見えてくる。
ガイロスが言うには、そこは街の中心ともいえる中央広場だという。
「この国には酒場はありませんが、交易都市でもあるため、外から来た者たち向けに中央広場でのみ酒を提供する店の出店が許可されているんですよ」
「へー、なるほどねぇ」
明かりの照らす場所が近づいてくると、次第にそこに集まる人々の声が聞こえてくる。
とても陽気で楽しそうな雰囲気だ。
「我ら神殿騎士達も、非番の時にはよくこの広場に来て、少しだけ酒を飲んでつまみをつまむのが楽しみになっているんです」
笑顔でそう教えてくれたガイロスに、俺は感心した様に正面に見えてくる中央広場の様子を眺めやる。
確かに、いろいろな露店、屋台と言うそうだが、それらを中心に人が集まっている様だった。
「この国では酒は禁止されていませんが、堕落するほど酒精におぼれることは教義に反するとされているので、提供する酒の量は極めて少ないのです。まあ、そうは言っても、酒が強い奴には問題のない範囲で提供しているようですけどね」
そう言いながら笑うガイロスだったが、俺はその屋台に集まる人々を見て非常に興味を惹かれていた。
人種族だけではなく、亜人種族、いわゆる獣人たちもまた集まって酒を飲み、陽気に愉しんでいる様子が見えたのだ。
よく見ると、神官服を身に纏う者の姿もあるため、教会関係者も結構集まって楽しんでいるのが見て取れる。
「さ、着きました」
ガイロスが歩みを止めると、すぐ傍に小さな屋台が営業している場所にたどり着いた。
馬車の荷台を改造した店舗に店の主人が忙しなく働いている。
屋台だから頼んだ品物は自分で受け取り、思い思いの場所で飲み食いするのがここのルールの様だった。
まあ、ゴミは自分で持って帰るか、中央広場に設置されている公共のゴミ捨て場に持っていくのだそうだ。
「あ、いらっしゃい、ガイロスさん!」
そう声をかけて来たのは、頭に狼のような耳がピンと立つ、スタイルも抜群の獣人の女性だった。
「お、ファムじゃないか。ん? 今日は親父さんはいないのかい?」
「ああ、それなんですけど、今日は生憎と腰を痛めて休んでいるんです。ま、私がいるので問題ないですから、好きなものを頼んでいってください」
そう言うと、ファムと呼ばれた獣人の女性は俺たちに笑顔を向けてきた。
「おお、ありがとう。じゃあ、いつもの奴を2人分頼むよ」
「はい! 用意しますね」
そう言ってテキパキと準備を始めるファム。
俺は興味津々にその様子を見ていると、ファムが視線を向けることなく声をかけて来た。
「お客さんは屋台は初めてなんですか?」
「ん? うん。初めてだ」
「そうですか。ここの人ではないですね?」
「お、よくわかるね」
「へへっ。鼻が利くんです。あ、でもちょっと怖そうな匂いもしますけど、お客さん大丈夫ですか?」
怖い匂い? うーん、エリーの事かな?
まあ、それなら問題ないな。
「大丈夫だよ」
「そうですか、なら良かった。……っと、はい、お待たせしました、発泡麦酒に野山羊のソテーサンドです!」
ガイロスがそれを受け取ると、俺に渡してきた。
「じゃあ、そこの石垣で食べましょうかね」
「そうしましょう」
ガイロスが顎で示した先には、中央広場をくるりと囲む石垣があった。
既にそこでは数多くの人々がそれぞれ購入した酒や食べ物を美味しそうに味わっている。
促され、すぐ傍の空いている石垣に腰を掛けると、渡されたソテーサンドを一口食べ、濃厚な味付けに思わず声を上げながら、発泡麦酒を一口飲んだ。
「おー! これは美味い!」
いやぁ……これは美味いなぁ。
こってりしていて噛むと少しだけ癖のある香りのする山羊肉。だけどそれを塩と絶妙なスパイスが見事に打ち消してる。
しかも発泡麦酒。これですよ、これ。
のど越しがシュワシュワしながら通り過ぎるこの感覚。
しかもヒンヤリしていて癖になりそう。
いやぁ……お見事です。
そんな俺の様子を見ていたガイロスが笑顔で頷く。
「お? いやぁ、それは良かった。ここの店が儂がオススメする一番の屋台なんですよ」
「ほー、確かにいいですね、ここ。ファムちゃんも可愛いし、文句なしですね」
「ふぇっ!?」
突然屋台の方から素っ頓狂な声が聞こえた。
その声を聞き、ガイロスが肩を震わせて苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、素直なのは良い事ですが、司祭長に気に入られているのに、ファムにまで声をかけるとは恐れ入りました」
「え? いや、可愛いから可愛いって言っただけなんですけどねぇ」
「ひゃぅ!」
ファムの変な声が再び聞こえると、ガイロスは腹を抱えて笑い出した。
「ハハハ! これはいい! ファム、いっそのことこの御仁と仲良くなったらどうだい?」
するとファムがこちらの方を向き、顔を真っ赤にして声を上げる。
「ばかー! 今は仕事中なのー!!」
「ハハハ! そりゃ失敬!」
楽しそうに笑うガイロスだったが、ふと俺たちの正面に人影が現れた。
それは神官服を着た2人の女性だった。
よく見ると、手にはコップを持ち、俺と同じように何かのサンドイッチを持っていた。
少し微笑みながら、彼女たちはガイロスに声をかける。
「あら? ガイロス様じゃないですか。こちら、よろしいですか?」
「ああ、構いませんぞ」
「では、失礼します」
ガイロスが少し俺の方へとずれると、一人はガイロスの傍に、もう一人は俺の傍にそれぞれ座った。
俺の隣に座った女性神官、どこかで見たような……。
すると、俺の考えよりも先に彼女から声がかけられる。
「あら? あなたは……教皇様とお会いになられた……」
「ダリルです。お嬢さん」
すると、少し息を飲みこみながら、納得した様に頷いた。
「ああ、そうでしたね。私は、謁見の部屋であなたを先導したのですけど、覚えていらっしゃいますか?」
「ん?」
あー、いたなぁ……。
「あ、あの時の」
「はいっ。ここでお会いできるなんて、奇遇ですね!」
少し嬉しそうに微笑む彼女を見て、俺の心はときめきまくり。
「ここでお会いするのも何かの縁ですね」
「ええ、そうですわね」
「お名前をお伺いしても?」
精一杯の笑顔を浮かべて彼女を見ると、屈託のない笑顔を向けてきた。
「アイラです、ダリル様。ガイロス様の隣に座るのがニムです」
アイラに紹介されたニムが、俺の前に立って小さく頭を下げる。
「アイラさんにニムさんね。いやぁ、お会いできて光栄です」
「私もです!」
アイラちゃんか。うん、綺麗な娘だなぁ……。
素朴な感じがまたいい。
肩にかかるくらいの茶色の髪をそよ風に揺らしながら、微笑むその笑顔は正に女神様に仕える神官そのもの!
うーん。いいねぇ。
ニムちゃんも可愛いね。
はぁ、教会の神官様ってばこんなに可愛い子が多いのか?
「あら? ガイロス様じゃないですか、今日もここで……あら? あなたは?」
アイラにニムに自己紹介をしようとしていた矢先、通りからやってきた別の神官服を着た女性が声をかけて来た。
「ああ、貴殿は教皇様とお会いされていた方ですね? ダリル様でしたか?」
「ええそうです」
「おお、これはこれは。本日の謁見内容を拝見しておりましたが、大変感服いたしました。私は教会神官長のエスナと申します」
「ダリルです、どうぞよろしく」
先ほどの二人とは異なり、エスナと名乗った女性は物腰穏やかで声もとても柔らかく、何と言ってもナイスバディな神官様だ。
うあー、これ、今日は凄くない?
「様々な商人の方々がいらっしゃるこの街の屋台は、どこも魅力的ですからぜひ堪能していってください」
「ええ。そうします。いやぁ、しかし教会の女性神官の皆さまは綺麗な方が多いんですねぇ」
「「「え?」」」
俺の一言に、出会った女性全てが驚きの声を上げる。
「そ、そんな綺麗だなんて……」
「いや、私はそれほどでも……」
「ま、またまた、冗談がお上手で」
ん? なんだ? どうしたんだ???
「ハハハ! ダリル殿、貴殿は女性神官に好かれますなぁ。いやはや、羨ましい!」
「はい? またまたぁ、こんな俺に好意を持つ人なんていませんよ。顔だって良くないですし」
はぁ、自分で言ってて嫌になるな、これ。
だが、思いもよらない言葉が返ってくる。
「な、何を言ってるんです。とっても魅力的ですよ?」
「はい?」
「そ、そうですよ! ダリル様と居ると、とっても落ち着きますし」
「はい??」
「そうですね。何故でしょう、とてもほっとするんですよ。それに、顔だって良くないとおっしゃいましたが、とても優しそうな表情で私は……好きですよ?」
稲妻が俺の全身を打ち据える。
い、今、何と……?
「え? 嘘ですよね?」
「嘘なんか言いませんよ?」
素の表情のまま、俺の隣に座るアイラが小さく首を傾げて呟いた。
……あれ?
今まで教会関係者とここまで話したことは無かったから気がつかなかったけど……。
まさか、教会関係者って盲点だった???
いやいやいや、待て待てダリル。
教皇も言ってたじゃないか。
俺の事をほっとすると言うのは、俺の体質、
だ、だが……しかしぃ……。
「まさか、まさかなのか!!」
「「「え?」」」
俺が立ちあがって声を上げると、ガイロスを含めた3人の女性神官がぽかんとした表情を浮かべて俺を見る。
「天国はここにあったのか!?」
「うん? ダリル殿、どうしたのだ?」
怪訝な表情を浮かべて尋ねてくるガイロスに、俺は思わずにやけた表情を向けてしまう。
「い、いや、俺、この国を離れたくないかも」
「ハハハ! そうですかそうですか。いやぁ、気に入って頂けたようで何よりです!」
ガイロスが笑顔のまま俺にそう言ってくれた。
3人の女性神官は少し戸惑った表情をしていたが、すぐさま表情を改める。
「あの、お気に召されたようで何よりです」
「ありがとう、アイラさん。貴女のような素敵な女性神官さんと仲良くなれて光栄です!」
「ふぇ!?」
急に頬を染めるアイラ。
「まあっ。そんな事言われてしまったら本気にしてしまいますよ?」
「何を言ってるんですニムさん。あなただってとっても可愛らしいじゃないですか!」
「はぅっ!」
恥ずかしそうに俯き、小さく身体を捩るニム。
「い、いやダリル様、あまり我らを困らせないで欲しい」
「何でです? エスナさんのような綺麗な女性と仲良くなれて嬉しいのに、それを言ってはダメなんですか?」
「うっ!」
急に胸に手を当てて俯くエスナ。
あ……これ、なんだか行けそうな気がする。
俺、頑張れそう!
じっちゃん、俺、頑張れそうだよ!!
俺は立ち上がり、エスナの隣に並ぶように立つと、生垣に座るガイロス達の方を向き、何度も頷いてみせた。
「ガイロスさんありがとう! いやぁ、今日はなんて幸せな「あら、奇遇ですわね」いちに…………」
不意に、どっかで聞いたような声が背後から聞こえる。
俺の隣にいたガイロスが急に立ち上がり、その場で跪く。
あれ? 両隣にいた女性も立ち上がって頭を下げてるね。
俺の隣にいたエスナもまた、後ろを振り向いて頭を下げてる。
……なんで?
そーっと後ろに視線を向ける。
「こんばんわ。ふふっ……楽しそうですね?」
「き……教皇さ……ま?」
「はい。教皇ですわ」
俺の視線の先には、屈託のない笑みを浮かべる、ルストファレン教会最高権力者である教皇ティリエスが立っていた。
よく見ると、彼女の背後には数十名の神殿騎士や司祭の姿が見えたが、何より目立ったのは、頬をぷっくりと膨らませ、ジト目で俺を見つめるポーラの姿。
「のぁあ!!!」
思わずのけぞり、振り返って慌てて頭を下げる。
その拍子に、手にしていた発泡麦酒が僅かに零れ、俺のズボンにかかってしまう。
「あらあら」
そう言いながら、教皇ティリエスが俺の傍に歩み寄ると、胸元から艶やかな光沢を放つハンカチを取り出し、俺に差し出して来た。
ハンカチを見つめつつ周囲を一瞥すると、俺の声に反応してこちらを見た周囲の者たちが、教皇の存在に気がついて驚きの声を上げ、こちらの様子を見守っている。
「これでお拭きなさいな」
「えあ、いえ、大丈夫です」
「そうですか? 夜ですから身体を冷やしてしまうと、風邪をひいてしまいますよ?」
「だ、大丈夫です」
何で教皇がここに???
「ど、どうされたのですか? よくここにはいらっしゃるのですか?」
しどろもどろに尋ねる俺に、教皇は微笑みを浮かべて静かに話す。
「いいえ? 初めてですよ?」
「ぬあんですと!?」
あ、口が回らんかった。
そんな俺の仕草が可笑しかったのか、教皇は小さく声を上げて笑う。
「フフフ。慌てることはありませんよ? こうして街を回ることも必要だと、たまたま思い立っただけですもの。ね、ポーラ司祭長?」
「はい、教皇様」
視線は俺から外すことなく、頬を膨らませたままポーラが同意する。
え? 何? これって、何かヤバい??
すると教皇は目を細め、微笑みを浮かべたままガイロスや女性神官たちを静かに見つめる。
「あなた達、毎日のお勤めご苦労様です」
「お、畏れ多いお言葉、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
ガイロスに続き、3人の女性神官も同調する様に頭を下げる。
「それにしても、ここはとても楽しそうな場所ですね。皆さんはよくここへいらっしゃるの?」
教皇の柔らかな声音の問いかけに、4人は何度も頷いて応じる。
「そう。あなた方はダリル殿とお話しできて楽しかったかしら?」
声をかけられた女性神官たちは皆一様に頷いた。
「それは……はい」
「はい、楽しかったです」
「貴重な時間だと思いました」
ホント? いやぁ、ちょっと嬉しいかも。
そんな感情が表情に現れたのか、その様子を見ていた教皇が小さくくすっと笑った。
「言った通りでしょ?」
「え? ああ、そうです……かね?」
「ふふっ。そうですよ? それにほら、この状況を見て気が気じゃない子が一人いますよ?」
そう言いながら、教皇が小さく首を後ろに向けて自身の孫娘に視線を送ると、気がついたのかポーラは小さく俯いてしまった。
「ふふっ。もう、仕方がないわね」
ため息をつきながら、教皇は俺に視線を戻す。
「さて、丁度よかったのでここでお話してしまいましょう」
俺に微笑みを浮かべながら静かに話し始める。
「こちらの都合で申し訳ないのですが、精霊正教国に向かうために少し準備が必要になりました。そのため、この国にしばらく滞在していただきたいと思います。そうですね……7日くらいになると思いますが、構いませんか?」
「え!?」
「何かご不満でもおありですか?」
教皇様のお話は、まさに願ってもない話!
俺は素直に頷いて応じる。
「不満などありません! 喜んで滞在させていただきます!!」
俺の返答に、教皇は満足そうに頷いた。
「それは何よりです。その間はガイロスに案内などをさせましょう。ガイロス、よろしいですね?」
「はい。承知しました」
「よろしい。では、私たちは神殿に戻りましょうか」
そう言って踵を返す教皇だったが、ふと足を止めると、俺の傍に歩み寄り、耳元に口を寄せると小さく声をかけてくる。
「あまり孫娘を困らせないであげて」
「え?」
それだけ告げるとすっと顔を離し、微笑みを浮かべたままポーラに声をかける。
「ポーラ司祭長」
「は、はい」
「ダリル殿を宿舎までご案内しなさい。あなたがノルドラント王国から案内人として派遣されているのです、責任をもって対応しなさい。よいですね?」
「は、はい。承知しました」
「ふふっ。では、これで」
そう言って踵を返すと、お供の者を連れ立って今度こそ神殿へと戻って行った。
「わ、私たちもこれで失礼します。またお会いしましょう、ダリル様」
3人の女性神官も頭を下げてその場を去る。
その場に残ったガイロスとポーラ。
俺はおどおどしながら声をかけた。
「お、俺たちも戻りますか」
「そ、そうですな」
ガイロスが強張った笑顔で頷くと、ポーラが俺の傍へと寄り添うように立った。
「もう……あれだけ街へ行くのはダメだと言いましたのに……」
「い、いやぁ、やっぱり気になっちゃって」
「次行くときは、私も誘ってくださいね?」
少し頬を赤く染めながら呟くポーラに、俺は頭を掻いて答える。
「あ、ああ。そうする」
「エリーちゃんもそこにいるなら止めてくださいよね!」
ポーラがそう言葉を投げかけると、ふわりとポーラとは反対の腕に絡まるようにして現れた。
『ふふっ。ダリルが楽しそうだったので、止めるのを忘れてしまったわ』
それだけ言うと、エリーは俺の肩に頭を乗せる様にしてしなだれかかる。
『まあ、色ボケには良い薬になったでしょう』
「本当にダリルの事を想うなら、いい加減私に譲って欲しいわ」
『さあ、どうしましょうか。ふふっ』
エリーの答えを聞き、ポーラが少しばかり目を丸くする。
だが、すぐさま表情を戻すと、ガイロスと俺に声をかけた。
「では帰りましょう。明日から忙しくなりそうですもの」
ふっと微笑みを浮かべて告げたポーラだったが、すぐさまエリーに対抗する様に俺の腕を取り、自分の腕を絡めながら神殿へと導いた。
「これはこれは、ダリル殿も大変ですなぁ。ハハハ」
俺の背後から着いてくるガイロスに笑われながら言われると、俺は思わず苦笑いしてしまう。
なにはともあれ、精霊正教国に向かうまでの間だけでも、羽を伸ばすことを許してもらおう。
そんな事を思いながら、俺たちは神殿宿舎へと帰った。
================
〇お知らせ〇
以上で、第2章が完了いたしました。
次話は幕間として明日配信いたしますので、そちらも是非ともお読みいただければ幸いです。
〇追記〇
貴重な時間を使い、この様な拙い文章で綴られた物語をお読みいただいた皆様方へ。
そして、思わぬ感動と、書き続ける原動力を与えて頂いた
応援を押していただいた皆様。
フォローを入れて頂いた皆様。
評価を入れて頂いた皆様。
そんな全ての皆皆様方へ。
心から御礼申し上げます。ありがとうございます。
おかげさまで、無事に第2章が終了いたしました。
諸事情で不定期に投稿する状況になったにもかかわらず、サイトの鐘に赤丸がついた時の喜びは、言葉では言いえぬ程に心を震わされました。
日常生活で理不尽さを痛感し、ペースを落としてしまいましたが、書くのを止めずに続けることが出来たのは、ひとえに皆さまの応援あってこそだと確信しております。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げます。
誠にありがとうございました。
今は、書くことが本当に楽しく、しかも読んでくださる方がいると思うと更に楽しくなってしまい、「もっと愉しんで欲しいなぁ」なんて欲が生まれてしまいました。
こんな作者が思い描いた物語。
是非とも、続けてお読みいただければ嬉しいです。
今後とも、「美女に憑りつかれたばかりに彼女が全然できない俺」をよろしくお願いします。
2021年10月2日 土田 勝弘
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます