第15話 金髪美人エルフが旅のお供をしてくれるそうです
「ダリル」
宿を出た直後、不意に横から女性に声を掛けられた。
思わず声の方を向くと、そこには純白のローブに身を包み、フードを外した状態で静かに立つ、耳が長く美しい顔立ちをしたスタイル抜群のポーラがいた。
あれ? 俺ってば宿を教えたっけ?
驚いている俺の顔を見てポーラは微笑みを浮かべる。
「あら? 何故宿の場所を知っているのかと、そう言いたそうですね?」
「あらま正解」
俺がびっくりした表情を浮かべたまま応えると、ポーラは笑みをたたえたまま頷く。
「不思議な事ではありません。エリーさんの魔力は隠してでも後を追えるくらい強力ですから、特に問題なく探すことが出来ましたよ?」
あーなるほど。納得だ。
とはいえ、教会の上位層の人たちって、こんなにも凄い人ばかりなのか?
「まあ、私たちエルフぐらいでしょうね。こういったことが出来るのは…………あら?」
急にポーラが怪訝な表情をして俺の手を見てくる。
「……ダリル、その指輪はどうされたのです?」
「ん? ああ、これ?」
そう言って左手に嵌めた指輪を見せる。
「これ、嵌めた方が良いからって言われたけど、丁度いい指がここしかなかったんだよね」
「……そうなの?」
何故かポーラがエリーの方を見て確認している。
するとエリーは呆れた表情のまま小さく頷いた。
「……はぁ……なるほど……ほんと、罪深い人」
ぼそっと呟くポーラ。
すると、急に微笑みを浮かべて俺を見つめると、にこやかに告げてくる。
「……なら、まだまだいけますね……ところで、詳細なお話をしたいのですが、どこかお店に入りませんか?」
「ならば食事しながらでもいいですか? 正直、サンドウィッチ1個しか食べてないのでお腹すいちゃって……」
俺の発言を聞いたポーラは、少しばかり頬を染めると小さく頷いた。
「え? ええ、構いませんわ。私で、良かったら……」
あれ? あれあれあれ?
これは、何だか行けそうな雰囲気ですか!?
とはいえ、ブサメンの方が良いと言われてちょっと寂しい俺がいるんだが……。
『……色ボケエルフ』
エリー……。
「……ダリル、さっきの私の話、どう思っていらっしゃいます?」
「え? 結婚の話しなら、ちょっと早いかなぁって思いますけど……」
すると、ポーラが微笑みを浮かべる。
「……まあ、いいですわ」
「ん?」
「何でもありません」
微笑みを浮かべてエリーを見るポーラ。
「ふふっ……」
『……なんかムカツク』
エリー、まあ落ち着こう。
「い、行きましょうかっ」
俺は足早に歩き始めた。
宿の近くにある小さな食堂。
安くてボリュームのある食事を提供することで有名なこの店『
比較的広い店内はもう大半の席が埋まっている。
やっぱり人気があるな。そう思う。
王都に登録している冒険者の大半は、間違いなくこの店を一度は訪れ、そしてこの店の味と……。
「いらっしゃいませー!」
この看板娘に一目惚れする。
「あー、2人ですけど、いいですか?」
「あーダリルさんじゃないですかー。久しぶりですねー!」
店の看板娘はルイーシャという。
18歳で独身。赤みがかった茶色のロングヘアーでスタイル抜群の美人さんだ。ちなみに、女将さんも美人でスタイル抜群ときたもんだ。いや、選ぶならもうここしかないでしょ? うんうん。
旦那? 知らん。
「2名様ですね。そこの席にどぞー」
「ありがとう」
「……あれ? そちらの方は教会の方です?」
「ええ」
「そうですかー。やだなー、ダリルさんってば素敵な方と出会えたんですねー! あー! 指輪まで!! 良かったじゃないですかダリルさーん!! じゃあ、ゆっくりしていってくださいねー!」
慌ただしく店内の奥へと去っていくルイーシャ。
「ふふ……素敵な方って……ふふっ」
ポーラは余程嬉しかったんだろう、滅茶苦茶いい笑顔ですよ。
ちょっと見惚れる。美人さんだな、やっぱり……。
『……私も出た方がいい?』
座りましょう。はい、座りましょう。
ルイーシャに指示された席に着く俺たち。
すると、すぐさまルイーシャがメニュー表を持ってきた。
「今日はどうしますかー?」
「じゃあ、いつものオススメで」
「今日のオススメはフォレストカウのソテーになりますけど、いいですかー?」
「お願いします」
「はーい。では、そちらの綺麗なお姉さんはどうしますー?」
「あらぁ」
まんざらでもない表情を浮かべるポーラ。
『……さっさと選べ、色ボケエルフ』
「……え?」
おーい。声が聞こえるぞー。
ルイーシャがきょろきょろしているじゃないか。
「……私も同じものでお願いしますわ」
「はーい! では、少しお待ちくださいねー。……オススメ二つ入りましたー!」
少しばかり表情を硬くしたポーラが注文するが、ルイーシャは笑顔で応じ、厨房の方から「はーい」と返事が聞こえてくる。
相変わらず明るいお店だ。店の名前通りだね。
「……では、ダリルさん、少しばかりお話を……」
「はい」
俺が頷くと、ポーラは微笑む。
『……ふん』
そこ、拗ねない。
「まずは、教会の本部があるフランティア聖王国に向かいます。そこで私は教皇に事情を説明し、ノード司教から預かった書面に基づき、あなたたちの身の安全を保障してもらえるよう交渉いたします。その後の事はそれ次第になりますが、まずはご理解いただけますか?」
エリーの安全を守るためにもこれは仕方がないよなぁ……。
「わかりました。あの、なるべくならばお金も稼ぎたいので、聖王国の冒険者ギルドで依頼を受けてはダメですかね?」
するとポーラは微笑みながら首を横に振った。
「とんでもない。ダメではありません。むしろ、普段通りに生活していただいて問題ないですよ?」
「そうですか……助かります」
すると、急にポーラが居住まいを正す。
「そこでダリル。お願いがあります」
「はい?」
「私も冒険者登録をしますので、貴方のパートナーにさせて頂けませんか?」
そう言って、ポーラが頭を下げる。
俺の前で、美人が頭を下げている。大事な事なので2度言うぞ。
しかも、「貴方のパートナーにさせてくださいませんか?」ですってよ奥様。
『貴方の仲間』ではなく、『貴方のパートナー』だって。
確かに恋人は欲しいですよ? でもね、俺にだってプライドってものがある。
本人からブサメン言われたけどね、流石に仕事上たまたま一緒に旅をする事になった彼女をね、どうにかしようなどと思う訳が……。
「喜んで。こちらこそよろしくお願いします」
あるに決まってるじゃないですか!!!
滅茶苦茶美人なんだよ? 男子永遠の癒しの果実だってふわふわだったんだよ?
ああ……これが夢にまで見た春。人生の春なんですね。じっちゃん、俺、俺ってば遂に
『……安心してね。私も憑いているわ』
……来るのか? 本当に……。
傍若無人な絶世の美女の声を聞き、若干顔を引きつらせるポーラ。
「……ま、まあ、エリーさんがいるのは百も承知ですわ。ですけど、今回はこちらの勝手な申し出ですもの、あなたたちにご迷惑をかけるつもりはありません。基本的には私は教会との連絡要員として考えていただいて結構ですし、常にお傍に控えるようにいたしますわ」
え? それって部屋も一緒になるってこと?
「え? それって部屋も一緒になるってこと?」
やばい。本音が漏れた……。
「え?」
ポーラが頬を僅かに赤くした。
ああ、顔を伏せちゃったよ……。
俺、自分の顔をわきまえずにまたやっちまったよ……。
『ククっ……』
エリー……笑うなよ……。
「……ええ、そうですね。そうさせて……いただきますわ」
はい?
「はい?」
『はい?』
顔を上げたポーラの表情が、何故か頬を染め、少しばかり嬉しそうな表情になっている……。
俺もエリーも思わず声を上げたが……。
「冗談でしょ?」
「? 冗談で申したつもりはございませんが……」
『はあ?』
ポーラが頷き、右手を上げて指を鳴らすと、笑顔でエリーに視線を送る。
「私は、本当に問題ありませんよ?」
『……くっ』
エリー……残念だったな。
これで、これで俺にもようやく春が……。
『認めない』
「何をですか?」
『ど、
「ど、同衾っ!?」
ポーラが思わず手を口元に当てる。
「……そんな事、考えてもいませんでしたわ」
『へ?』
あー、これは……。
「なるほど。それも一つの手段ですわね」
『ちょ、ちょっと待って!』
「ダリルがよろしいなら、私は構いません」
「もちろんさ!」
俺は即答だ……にへっ。
「ふふっ。じゃあ、そうしましょうっ」
『……これは夢。これはダリルじゃない……ありえない……』
エリーが呆然と呟く。
何だよ、俺じゃないって……。
というよりもだ。周囲に声が聞こえないかと冷や冷やしていたが、何故か周囲はいつも通り平然としている。
何故だ?
おかしい……。
「……ふふっ。これぐらいにしましょう」
微笑むポーラが静かに右手を肩程の位置に出して指を鳴らすと、途端に辺りが薄暗く変化する。
『……風魔法』
目を細め、小さくエリーが呟く。
「意地悪してごめんなさいね、エリーさん。ですが、まずはお伝えしておきたいことがあります」
エリーが目を細めながら俺の傍に姿を現す。
俺たちを囲うように周囲は靄がかり、若干薄暗くなっている。
しかも周囲の人々は俺たちを全く気にする様子もなく普通に動いている。
にもかかわらず、これまで聞こえていた喧騒が全く聞こえなくなり、よく見ると俺たちに一切視線が向いてこない。
ポーラが微笑みを浮かべたまま続ける。
「私は、長い間エルフの巫女として生きてきました。ですので、例えどんな悪霊といえども、私でもある程度なら抑えるくらいは出来ます」
微笑みを崩さぬまま、ポーラはエリーを見据える。
「ですが、エリーさんはこの世で唯一無二と言っていい悪霊の事を良く知る方。あなたの協力無しには、この世界を覆う様々な霊障を打破できないのも事実でしょう」
エリーは目を細めたまま、静かにポーラを見つめている。
俺も驚いてはいるが、何故か冷静にポーラを見ることが出来ている。
「私は、悪霊に苦しむ人々を救いたいだけです。ノード司教は、あなた方無しに悪霊を一掃することは無理だとおっしゃっていました。私の事はお嫌いでしょうが、その想いだけは信じてください。なので、これからは是非とも仲良くしませんか?」
そう言って、ポーラはエリーを見つめながら柔らかく微笑む。
「だめですか?」
細めた目を一度閉じ、再び開くとエリーの顔は静かに微笑んでいた。
『……わかったわ』
「ふふっ。理解して頂けたようで嬉しいわ」
指を再び鳴らすポーラ。
すると、周囲を覆っていた靄が消え、喧騒が再び聞こえて来た。
いつもの店内の音だ。
「では改めて、よろしくお願いしますね、ダリル、エリーちゃん」
そう言って、これ以上ない美しい微笑みを俺に向けて来た。
ああ、これは惚れてしまう。そんな微笑みだった。
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