わたし ver.2.0
徒然空
1. 都会の観覧車
家族が寝た後に観る深夜のテレビが好きだった。下世話なバラエティ、わざとらしい通販番組、知らないアニメ、心が引き裂かれるようなドキュメンタリー。混沌としていることがかえって思春期であった私の心を落ち着かせた。
いつものようにテレビをつけると、都会にある観覧車を特集した番組が放送されていた。観覧車に乗ろうとする客に、
「なぜこの観覧車に乗ろうと思いましたか。」
とひたすら問い続けるドキュメンタリーだった。皆がなんと答えていたかはもう忘れてしまった。ただ、きらきらとした都会に紛れてポツンとある肩身の狭そうな観覧車に、わざわざ乗る人が意外といるんだなと不思議に思ったのを覚えている。大人になれば分かるような気がした。いつかあの観覧車に乗るぞと決意したこの時の私は、まだ見慣れない都会の景色に希望を抱いていた。
あれから何年か経った今、その観覧車の住所は私の生活圏内である。しかしまだ一回も乗ったことがない。その観覧車を気にかける余裕がなかったからだ。一度だけ前を通りがかったときに、友達を誘って一緒に乗ろうとしたことがあるが、あまりにも友達の興味を引くことができず、諦めた。そして、いつか一人で乗りに行こうと思っていたらまた何年か経ってしまった。引きこもりになっていなかったら思い出しもしなかっただろう。きっと、それくらいのさじ加減分、私は日常に追い詰められていた。
明日、行ってみようかな。あの番組みたいに「なぜこの観覧車に乗ろうと思いましたか。」と聞かれたら、私はなんて答えるだろうか。
わたし ver.2.0 徒然空 @soraha_aoi7
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