第10話 開かれる扉

「ふん、ふっふん、ふんっ!!」

「あの・・・カナメさん。もう少し落ち着いてください。じゃないと連れていきませんよ?」

 アイリスの案内で、下手な鼻歌を歌うカナメ。

 木々の間の道を二人は歩いていく。


「はっはっは、連れていかれなくても、この方角に行けば魔法を教えてくれる奴がいるんだろ?」

 アイリスはカナメをじーっと見る。

「何か勘違いしてませんか?彼女は・・・エリザベス様は魔法を教える人ではありませんよ?」

「ぬぁあんだとぅ!?」

 うるさいカナメの声に、鳥たちが羽ばたく。

 アイリスも耳を両手で塞ぐ。


「かっ、彼女もまた・・・魔法を学ぶ者です」

「んだよぉ、ペーペーかよ」

「ぺぇーぺぇー?」

 カナメは頭にはてなを浮かべるアイリスを見る。


「つぇい」

 カナメがアイリスのおでこを人差し指で押す。


「ひゃんっ」

 アイリスがおでこを両手で抑える。

「なにするんですかぁ」

「いや・・・確認だ」

「確認?」

(俺がこんなに弱そうな奴を好きになるなんてありえねぇ。俺が好きなのは俺だけだ。もしくは・・・)


「それで、俺はそいつになぜに合わなきゃいけないんだ?」

 アイリスは自分のおでこをさすりながら、

「彼女はあなたの魔法を学ぶ許可を与えることができる存在だからです」

「魔法を学ぶ・・・許可?」


「魔法を学びたいなら、彼女に認められる必要があるんです。エリザベス様は礼節に厳しい方です。あなたのその体・・・認められるかもしれませんが・・・」

 アイリスがカナメの体を足の方から上へ見ていく。

「やだ、アイリスのエッチ」

「ふぇっ、えっ?えええっ!?」

 アイリスが頬を赤らめてあたふたする。

(まぁ、リアクションがいちいち純粋というか、なんというか。からかうのは面白れぇな)

「もー」

 ちょっとドキドキしながら、アイリスは悪態をついてみる。

「はっはっはっは」

(まぁ、でも。ガキをあやしてるのと同じだな)


 アイリスは前髪で顔を少し隠す。

「カナメの性格、認めらないかも知れませんよ」

「マジか」

「マジです」

「よし、じゃあ直そう」

「・・・本当ですか」

「もちろんだとも。魔法を使えるためなら俺は、お前の足でも舐めるぞ?」

「ふぇっ?」

 アイリスは内またになり、スカートをぎゅっとする。

「あぁ、足って、靴とかだからな。」

「そんなこと、誰が望むと思っているんですか?」

「アイリス」

「わっ、私はそんなこと思いませんよっ!?」

 また、赤面して少し怒り気味に話す。


「じゃあ、横柄な貴族とか王族?」

 アイリスは少し遠い目をした。

「おん?」

「いえ・・・」

 

 カナメはジェイボーイとリリアンの態度、そして、アイリスを見る目を思い出す。

「・・・っ」

 言葉を発しようとするが、その言葉が自分の夢の障害になるかもしれないと思いためらう。


 魔法は目の前。一時の感情で自らハードルを上げる必要はない。


「まさか、エリザベスって奴に頼むのしんどい感じか?」

「ふぇっ?」

 カナメは明後日の方向を見ながら、アイリスに尋ねる。どんな顔であっても顔は見たくない。それがカナメのせめてもの譲歩だった。

(まぁ、いいさ。目の前にあるんだ。最後の最後。後味が悪い形で手にしてもつまんねぇ)

「んで、どうなんだ」

「ふふふっ」

 笑い声が聞こえる。嬉しそうな。

「カナメって優しいですね」

「何言ってんだか、俺は他人に頼んねぇだけだ。欲しいものは自分の足で迎えに行く。欲しいものはこの手で掴む・・・ただ、それだけだ」

 カナメは自分の右手の拳に力をぐっと入れる。

「アイリス、お前を踏み台にしなくても、目の前の障害なんざ簡単によじ登れる。・・・てか、お前さんを踏み台にするにしたって低すぎて踏み台にする意味がない」

「そうですか」

「そうだ」

 カナメは空を見る。異世界に飛んだとしても、空は青く、太陽はサンサンと光っている。

「着きましたよ」

 視線を下ろすと、日陰った宮殿が見えた。

「これはっ」

 アイリスは何も言わないまま、カナメの2歩先を歩く。

 アイリスは扉を開く。

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