第9話 初夢
「俺は、魔法をすべて捨てる」
(はっ?ふざけんな)
自分の意図していない発言が勝手に喉を震わせ、出てくるのをカナメは悔しい気持ちになる。
「そんなのだめよ」
(あれっ。アイリスってこんな感じだったっけか?)
初めて見たときよりも伸びた美しい髪、綺麗な衣装。大人っぽい振る舞い、そして、愛しい者を見るような目。胸部を中心に少し成長しているように見え、カナメは混み上がる感情に困惑する。
(うっ)
瞬きと共に、場面が変わる。
「あなたはあんなに欲しがって、ようやく手に入れた魔法を・・・本当に良いの?血のにじむような努力をしたじゃない。それなのに・・・」
彼女は頭で理解しつつも、否定せずにはいられないようだった。
(そうだ、そうだ、結構大変だったんだぞ?18歳で世界最強になるくらい体を鍛えるのは。まぁ、魔法の方は・・・まだ手に入れてねーけど)
カナメもまた、悲しい気持ちになった。
「そんなもの・・・に・・・ば・・・さ。それに俺は・・・だ。それに俺は神・・・許せない」
(何カッコつけてんだよ俺。てか、自分の言葉なのに何言ってんのかわかんねぇ)
彼女がハッとした顔をする。
「アダム・・・」
(アダムじゃねぇぞ俺は。カナメだ、カナメ。ちゃんと覚えとけ。アイリス)
「イヴ・・・」
(えっ、イヴ?じゃあ・・・ん、わからなくなってきたぞ)
「俺が心配しているのは・・・」
カナメはよく聞こえないせいか、もやもやした気持ちになる。
イヴがカナメの右手を両手で握る。カナメはこの前の手を握ってきたことを思い出し、懐かしく感じる。しかし、彼女の手はこの前とは違い、震えることはなく、暖かく、安心感があった。
「私は大丈夫。あなたとなら・・・」
カナメもイヴの手を両手で握る。
「君の輝く瞳は本当に、きれいだ」
(あぁ、ヤバイ。アイリスの瞳に・・・心が奪われる。それに・・・なんなんだ、この気持ち。胸が・・・)
目を閉じて、顔を近づける彼女に対してカナメも目を閉じながら、口づけをしようと近づける。
ハッ
カナメは目を開ける。そこは見知らぬ天井だった。
自分の胸に手を当てて、心臓の高鳴りを感じる。
「おはよう、ございます。カナメさん」
ドキッ
カナメは優しい笑顔であいさつをするアイリスを見つける。カナメはアイリスの瞳を見て、先ほどのことを思い出し、アイリスの唇を見て気恥ずかしくなった。
「おっおう」
「起きたなら、外の井戸で顔を洗って来てください。その間に朝食の準備をしますから」
「おっおう」
ぎこちなく、外へ向かうカナメ。
バシャバシャバシャッ
(変な夢・・・だったな)
顔を洗いながら、夢のことを思い出す。
虚ろな記憶を反芻する。ぼやけた景色、ぼやけた声。そんな中、感情は高ぶっており、何かをしなければならないといった使命感、罪悪感。そして・・・
ゴシゴシゴシッ
余計なことをごっそり拭きとるように強く顔を拭く。
「魔法だ、魔法。欲しいもんが手に入りそうで、本当に入るか不安になったから、あんな変な感情になったんだ。あれは魔法への・・・気持ちに違いない。うん」
カナメは自分の気持ちを整理する。
「色々あったしな、うん。色んな気持ちが混在してるわ」
バンッ
「待たせたな、早く魔法を教えてくれ!!」
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