第7話 二人の大事な物

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 カナメはアイリスをなだめるようにゆっくりと、両手で落ち着けとジェスチャーする。


「私以外の世界って・・・魔法のことをわかってねーんだけど、なんで俺には効いてないんだ?」

「わかんない・・・です」


 カナメは動きが止まる。

「よっ、よし次だ。世界ってのは全世界なんだよな?」

「・・・多分そう」

「それって、超強力魔法だよな。まさか、アイリスは超天才とかなのか?」

「・・・」


 アイリスはうつむいて返事をしない。

「なんか、気にさわったならごめんな。その魔法って場所を限定してとかもできるの?」

「違う魔法なら・・・似たようなことができます」

「お~~~」

 カナメは拍手をする。


「自分だけの世界かぁ・・・」

 カナメは周りを見ながら感心する。

「時間が止まったら・・・一人で修行できまくるじゃん」

「ふぇっ?」

 アイリスが拍子抜けする。


「でも、それもずるいか・・・」

 その言葉を聞き、アイリスは苦しそうな顔をしながら、俯く。カナメはそれに気づかず考え込む。

「まっ、ちょー強力な怪獣とか魔獣が出たら使わざるを得ないよな~。持ってるものはなんでも・・・」

「ごめんなさい・・・」

「はっ?」

 急に謝ってくる、アイリスに驚くカナメ。


「そろそろ・・・元に戻しますね」

「おっおう、頼むわ」

 笑顔で答えるカナメ。

 アイリスは後ろめたい顔をして目を逸らす。


「あの・・・あのですね、約束してもらってもいいですか?」

 神妙な顔でアイリスは上目遣いでカナメを見る。

「ん?」

「この二人に・・・危害を加えないでください」

 カナメは二人をちらっと見る。

「んー、まぁ、こいつらが仕掛けてきたからなぁ。こいつらが交戦してこなかったら、俺から手を出すことはしないよ」


 アイリスはカナメの表情を読み取ろうとする。

「次に・・・この魔法の・・・ことは誰にも言わないで。本当に、絶対」

「えー、なんで?」

「なんでも・・・です」

 必死な顔のアイリス。

「まっ、いいんじゃねっ?善処する」

「絶対です!!」

 アイリスはカナメの右手を両手で掴む。

「お願いします・・・なんでもしますから・・・」

「わかった、わかったって」 

 両手におでこを付けて懇願するアイリス。その手は震えていた。それに気づいたカナメも両手で彼女の手を掴む。


「アイリス。じゃあ、君も約束してくれ」

 アイリスが顔を上げる。目じりは少しうるっとしていた。

「俺は魔法に憧れてこの15年間生きてきた。魔法が使えるならなんだってする、そういう男だ。君が魔法を教えてくれたのなら、俺は決して君を、そして、今の約束を破ることはしない」

 カナメの真剣な目。

「二人だけの秘密だ、アイリス」

 力強く、暖かい手。不安で震えていたか細く、冷たいアイリスの手も心も正常さを取り戻していく。


「でも・・・」

「魔法を教えることは禁じられてたりするのか?」

「ううん・・・」

「じゃあ・・・」

「私、魔法が使えないんでちっ」

 アイリスが舌を噛んで悶絶する。

「大丈夫か・・・?」

 カナメはとりあえず、アイリスの背中をさする。

「はひっ、すいましぇん」


「それで・・・こんな魔法を使っておいて・・・どういうことなんだ?」

「私の使っているのは、祈りではなく・・・呪いなんです・・・」

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