第6話 時の魔法

「こ~んにっちは、お嬢さん」

 カナメは優しく、少女に質問する。


「はっ、はぃ・・・こんにちわぁ」

 少女は緊張感を持ちながら、恐る恐る返答を間違えないように答える。


「お名前はなんていうの君」

「えっと・・・その・・・」

「なんて言うの、かな?」

 笑顔で顔を近づけて、圧迫する。

「うぅぅっ」

 少女は言葉に詰まる。

「なんて、言うの、かな?」

 こぶしに力を入れて、震える体がぴたっと止まり、意を決したように

「アイエデム・エリオス・アイリス・・・と、言います・・・」

 言った後、目を瞑りまた、びくびくし始める。


「素敵な、お名前だね」

「ふぇ?」

 少女はきょとんと彼を見る。

「アイリスって呼べばいいかい?」

 カナメの顔を見て、アイリスから恐怖が少し消えて、ゆっくりと頷く。それを感じたカナメはにっこりと微笑みかける。


「それで、アイリスはなんでこんな状況になっているか、わかるかい?」

 カナメはジェイボーイとリリアン、そして周りの景色を見渡す。

「それは・・・その・・・」

「君の能力?」

 カナメは微笑みながらも、まっすぐとアイリスの瞳を見つめる。アイリスはその目の黒き瞳の輝きに吸い込まれそうになる。

「そう・・・です」


「うぉおおおおおおおっ」

 アイリスがカナメの声にびっくりする。


「まじか、まじか。とうとう、俺も魔法にかかちまったのか。やっべ。テンション上がる。それも、時を止める能力とか、チョーかっけー」

「あっ」

「主人公かラスボス級の能力じゃん。えっ、そこまで、求めてなかったけど、まさか、俺、勇者とかになっちゃうんかーい」

「あのっ」

「ひゃー、魔法使えるだけで十分だけど・・・まぁ、使える代わりってことなら、まぁ、俺、強えし、やってやってもいいですよーーー。神様―――、まじ、ありがとーーーー」

 少女の言葉は耳に入らず、あっち向いてこっち向いて、地面に転がったり、飛び跳ねてみたり、体全体を使って自身の感情を表現し、最後は天に向かって感謝を叫ぶカナメ。

「あっ、あの!!」

 少女はか細い声ながら大声を出す。

「おっ、なんだ。マイベストパートナー、アイリス」

 アイリスは嬉しそうに笑っているカナメを見て、少し頬を赤くする。

 

 ブン、ブン、ブン、ブンッ


 アイリスは首を何度も横に振って、沸いて出た感情を吹き飛ばす。

「ちっ、違うの」

「違うって何が?」

「それは・・・」

 アイリスは下を向いて、黙ってしまう。

「あれっ、君が、アイリスが、俺を・・・んっ?守るため?よくわかんねーけど、俺に魔法をかけてくれたんじゃないのか?」

「それが・・・違う」

「あぁ、守るためじゃなくて、話を聞いてもらうためとかか、オーケー、オーケー」

「違う・・・」

 また、アイリスが震えだす。

「ん~っと、そうすると、敵意なのか?俺をこの空間に閉じ込めるためとか」

「違うの!!」

 今度のアイリスの震えは先ほどと同じ恐怖ではなかった。


「私が・・・魔法をかけたのは・・・私以外、世界に・・・かけたはずなの」



 

 

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