第3話 異次元の男、異世界へ

「うおおおおおっ」

(あれ、地面の感触が・・・変わった?)


 カナメは目を開けると、そこはいつもの知っている道ではなく、森だった。

「はっ?」

 足を止めて、右を見て、左を見て、もう一度右を見る。

「はあああああっ!?」


 カナメは心拍数が上がる。


 ―――困惑


(そんなんじゃない。これは・・・)


 困惑?焦り?


 自分の胸に右手を当て、自分の気持ちを整理する。

「俺は、もちろん未成年。酒なんか飲まねぇ。そして、プロだ。最強を目指してんだ。それだって過程だ。ずるして強くなったって意味がねぇから、薬だってやってねぇ。記憶が無くなるはずがねぇ・・・ねぇ。つーことはよぉお?」


 カナメは心拍数が上がるのを感じていく。

「おいおいおいおい、とうとうきちまったか?心の準備は整ってねぇけど、とうとう、とうとう・・・」

 両手の拳に力を入れて、前かがみになる。

「くううううううぅ」


 バッ


「ファンタジーだぁ!!」

 両手を広げ大声で天を仰ぐ。


「よし、それじゃあいっちょ・・・」

 右手の拳に力を入れて、息と気を整える。


「ふぅーーーっ」


 シュッ


 正拳突き。


 言葉の通り、「正しい拳」。無駄なく最速で突く。


「ふうぅーーーっ」

 気を整える。


「くぅううう。駄目か。誰だ、誰だ。師匠を探さねば」

 

 ガサガサッ


「んっ?」

 後ろの草むらから音がするのを全力で振り返る。


「なんだ、熊か」

 体長5メートル。

「おっ、でけぇな」

 

 トッ、トッ、トッ

 カケルはその場で、ステップを踏み、拳を構える。

「こいつに勝ったら、3メートルくらい自己ベスト更新だな」


「シュッ、シュッ」

 ステップとワンツーを組み合わせる。

「でもなぁ、やっぱり最初は、スライムとか、ガーゴイルとかゴブリンとかが良かったなぁ」

「グワアアアアッ、ゴオオオオオッ」

 臨戦態勢を察したのか、熊が襲い掛かる。


 それに合わせて、踏み込む。

「うぐっ」

 簡単に吹き飛ばされて、木にぶつかる。


「ふっふふふっ」

 踏み込んだ分、熊の一番力の入ったてのひらを避けた。

「このぐらいなら、大丈夫だ。大丈夫ぁ」

(リーチの差は未体験。にしても・・・)

「お前はこの世界のどのレベルなんだ?」


 首を鳴らし、指を鳴らす。

「じゃあ、さっそく・・・」


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ


 ジグザグに進みながら、一気に間を詰める。

(やっぱり、分厚いところに打ち込んで試すか)


 熊の腕がカナメに襲い掛かる。

「はああぁっ、せいっ!!」

 理性と力学、そして、一番シンプルなモノ。


 それはパワー。

 

 ドゥンッ


 ロスなく、小さな拳に凝縮し、ぶつけてすぐ引く。

「グワアアァ、ギャアアァ」

 熊は唾液を吐き出す。

「まっ、こんなもんか」

 ぴくぴくっと痙攣して、倒れる。


「うーん。さて、こいつはどっかのギルドかなんかに持っていくべきなのか。それとも、食うべきなのか。やっぱ、勇者は腹も強くないといかんし、調理はわからんけど、食ってみるか。食うなら・・・活かして血抜きからか?」


 見定めるように熊を見るカナメ。


 ガサガサッ


「おっ、次こそはモンスターか!?」

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