「補正」

彼氏と別れた。理由は愛想が尽きたのことだった。連絡を終えた後、不思議なほど冷めた。思えば私に隠れて携帯を何度も見ている機会が増えた。どこかで勘づいていたからだろう。


 今にして思えば、欠点ばかりの男だった。口下手だし、気が利かないし、不器用だし、運転下手だし、駐車も下手。でもそんな姿も愛おしかった。恋人という補正でなんでも美しく見えた。なんでも愛おしく思えた。



 でも今は違う。ただの欠点。クソ程欠点。次はもっとマシな男と付き合おう。




 数日後、用事があって元彼の家の近くを通りかかった。葬儀の看板が見えた。


「えっ?」

 故人に元カレの名前が書かれていた。




 用事を済ませて、元カレの家に向かうと母親から全てを聞かされていた。病が進行していたこと。カレンダーを見るたびに何度もため息をついたこと。彼女に迷惑をかけたくなかったから別れを切り出した事。


 たびたび携帯を見ていたのはおそらくカレンダーを確認していたからだ。



 最後の最後まで不器用すぎるよ。私は涙を呑んで御焼香を上げた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る