「歪んだ夕陽」

目が覚めた。カーテンを開けると辺りを夕陽が照らしていた。


 朝方までゲーム三昧だったからだろう。仕事を辞めて、実家に帰ってから三ヶ月。ずっとこの調子だ。


 部屋を出て、リビングに向かうとテーブルに上にラップで包まれた料理があった。


『レンジで温めて、食べてください』

 母の置き手紙が置いてあった。おそらくパートに出かけたのだろう。


 しかし、今はあまり食べる気になれなかった。カーテンの隙間から見た夕日が頭に残っていたのだ。


 僕はサンダルに足を通して、玄関のドアに手をかけた。扉を開けた僕を迎えたのは茜色の道路だった。


 ただ歩いた。日光をあまり浴びなかった自分にはちと眩しすぎた。


 すると目の前からランドセルを背負った小学生達が歩いてきた。


 友人と楽しそうに笑い声を上げている。懐かしい。昔は僕もあんな風に友人達と戯れたものだ。


 次はジャージ姿の中学生くらいの子供。その次はおそらく恋人であろう異性と寄り合う高校生二人組。


 いま、その時を華々しく生きる者達が目に映った。夕陽の光よりもそっちの方が眩しく思えた。


 社会に出てからはかつてあった躍動が消えていった。ただ淡々と何かをこなし、直接の肯定されるわけでもない仕事をする。


 心が荒んだ。そして、退職した。


  ああ、過去に戻りたい。過去に戻りたい。ランドセルを背負う小学生。部活帰りの中学生。恋人と寄り添う高校生。郷愁を感じる。情景を見るたびに何度も蘇ってくる。


 かつては僕にもあったそれらの記憶。もう戻れない。そんな過去だ。


 夕陽が歪んで見える。僕は家に引き返した。


 家に向かっている途中、向かいから見た事がある顔が見えた。


「あら、珍しい。外に出るなんて」

 パート帰りの母と出くわした。


「外はどうだった?」


「まぁ悪くなかったよ」

 僕は部屋に戻った。そして、パソコンを開いた。

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