「継ぐ」
静寂な空気と線香の匂いが漂う部屋。目の前には祖母の遺影があった。
祖母が亡くなった。今日は葬儀の前日のお通夜だ。涙は自然と出なかった。訃報を聞いた時は胸が痛んだのにも関わらず、涙が出なかった。
祖母の遺体に触れる。体温を抜けきっており、氷のように冷たい。人は亡くなるとこんなにも冷たくなるものなのか。
感覚を持って、祖母がいない事を理解した。
気分を変えようと別室に向かうと寿司やビール。慰めと言わんばかりに置かれていた。お通夜とはいえ、腹は減る。
寿司を食べているとふと、昔の事を思い出した。
幼い頃、祖母の家で寿司を食べていた時の事だ。
「お婆ちゃんが子供の頃はこんなに食べられなかったねぇ。良い時代になったもんさ。だからご飯は感謝して食べるんだよ」
祖母が切なそうな表情でそう言った。大人になった今では言葉では理解する。しかし、実感は出来ない。
それでも今は亡き祖母との大事な思い出だ。
祖母との思い出を噛み締めるように寿司を食った。
寿司はしょっぱかった。
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