「お金おっかねー」
強盗をした。包丁を突き出して、店員を脅した。人生で初めて人に刃物を向けた。
店内には俺以外、客は誰もいない。絶好の機会だ。
「金を出せ!」
「はっ、はい!」
緊張感と震えを悟られないように大きな声で恫喝した。店員は十代後半くらいの若い女だった。女は震えた手で何枚万札を引き出して、手渡してきた。
俺は現金を奪い取って、コンビニから急いで出ようとした時、レジの奥から別の店員がやってきた。若い青年だった。
青年は俺の前に立ちはだかり、肩に掴み掛かってきた。俺は必死に抵抗した。
その時、手に取っていた包丁が青年の腹部を突き刺した。
一瞬、時が止まったように体が固まった。
しかし、制服に滲み出る血と女子店員の悲鳴が体を動かした。
青年はその場で疼くまり、傷口を抑えて震えていた。人を刺した。人を刺した。人を刺した。水溜まりのように広がる血と血のついたナイフを見て、血の気が引いた。
俺はナイフを捨てて、自転車に乗って、全速力で走った。
自転車で走る中、何度もさっきの光景がフラッシュバックする。
顔が割れないために被っていた黒マスクに汗が張り付いて、この上ない不快感を覚えていた。
しばらく走ったあと、俺は草場で吐いた。先ほどの光景が衝撃過ぎて、頭から離れないのだ。
しかし、この金は手に入った。これで借金を返せる。ギャンブルはもうしない。それがあの青年に対する餞だ。
場所は近所からかなり離れたコンビニだ。場所選びもバッチリだ。バレることはない。
しかし、人一人の人生を簡単に狂わせるのだからお金ってのは恐ろしいものだ。
数日後、俺は捕まった。目撃者と血のついたナイフと店内の防犯カメラ。そして、警察の執念に敗北した。
ああ、お金おっかねー
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