第8話


 調練は、馬上でならば街を出、広い草原にて、隊列や武術、その他兵卒の訓練ならば城の敷地内の広大な土地にて行っている。

 草原での騎馬訓練を見に行くことは困難だが、兵卒の武術や隊列の訓練はほぼ毎日定時に行われているため、時間さえあれば簡単に顔を出すことが出来た。だが、戦の訓練などに関心を持つ文官など皆無に等しかったため、見学者といえば、大抵決まって未椰一人である。

 回廊の先の広場には光が溢れ、兵たちの雄雄しい声が響いていた。いつの間にか、後ろを歩いていたはずの千華の姿は無かった。

 今日は随分人数が少ない。兵の一人を捕まえて尋ねると、裏門から出たすぐ近くの城外で、騎馬の訓練をしているのだという。

 折角なので、見に行こうかと思う。未椰は礼を言うと、錠が開いている裏門の扉を潜った。

 王都の周りには取り囲むようにぐるりと壁があり、更に城下町と城の間は表門で仕切られており民が許可なく城に入る事は許されていない。城には裏門がいくつか設置されており、調練場に続いている門もその一つだ。

 さくさくと草を踏みながら外に出る。確かにすぐそこに、整然と並んだ騎兵と、騎馬した将の姿がみえた。

 指揮をしているのは三人。嶺軍将の李堪りかん燎原りょうげん、そして二人の真ん中に立っているのは、嶺であった。

 未椰は視線の先に嶺の姿があった時点で、戻ろうかと逡巡した。しかし、いつまでもそんな調子では軍師としての役 目を果たす事など到底できないと考え直し、小さく息を吸い込むと足を踏み出した。

 未椰の足音にまず燎原が気づき、振り向くと立礼をする。新参者ながら、未椰の方が位が上である。当然反感はあるが、武官は特に嶺の前では礼を弁えた振る舞いをしているようだ。

 李堪は一瞬眉を潜めたものの、燎原にならって頭を下げた。未椰は微笑むと形ばかりの礼を返した。

 嶺王は多分気づいてはいるのだろうが、振り向こうともしなかった。

「李堪様、燎原様、調練中失礼致します」

「これは、未椰殿。態々お忙しい中、こんな所に足を運ばなくともよろしいのに」

 李堪が溜息混じりにそう言った。明らかにその口調から邪魔をするな、という心中が見て取れるが、未椰は気にせずに三人に近づいていく。

「調練などに興味を持たれるなど、奇特なお方だ」

 燎原は呆れたように笑った。最近将になったばかりの、年若い男だ。

「邪魔は致しません、見学だけですので、お気になさらず」

 声を張らずとも会話が出来る距離まで近づいて漸く、未椰は初めて気づいたように足を止める。

「……あぁ、嶺王。こちらにいらしたのですか」

「未椰か。そこでは見えないだろう。こっちへ来い」

 嶺は、あっさりと自分の隣に来ることを許した。その態度を見て、李堪は眉間の皺を深くし、燎原は少しばかり目を見開いた。

 未椰は頷くと、嶺の隣に立つ。

「そうだな今日は、折角我が軍の軍師が見学に来ている事だ、李堪、燎原、お前たちの軍がどれほどのものかを、見せてもらおうか」

「と、言いますと?」

 燎原が尋ねる。

「どちらの隊の力が勝っているのか、俺に見せろ。相手を皆殺しにするつもりでやれ。生き残った者のみ、新しく一軍として編成しよう」

「ほう、それは面白い」

 言われて、燎原は目を細めそう言い、李堪は赤い顔を更に赤くした。

「燎原、王はお前と俺、どちらかに死ねと言っているのだぞ」

「それがどうか致しましたか。李堪殿、すぐれた者だけが生き残る。戦なのですから当然ですよ。そんな事もお忘れですか?」

「しかし、それでは……」

「李堪殿がお望みならば、手加減などいたしますが」

「ふざけるな」

 李堪は憤りながら、それ以上何も言わずに己の馬に乗ると、己の隊五百騎程を率いて、燎原の隊から離れていく。

 燎原はその姿を見送りながら、手にしていた鉄槍を一度振るう。

「嶺王、殺しても構わないとおっしゃるのなら、その通りにいたしますが、よろしいのですか」

「あぁ。お前があっさり了解するとは思わなかったがな。李堪が嫌いか」

「それはもう。これから戦をするのならば、敗軍の将を我が軍に引き入れるのは当然の事。それなのに、愚かにも未椰 殿に自分の怒りを向けるなど、下らないことをする愚かな男です。だから俺は、この国の、軍のありようも嫌いです。文官たちも、一様に卑しく下らない」

「お前は正直だな、燎原」

「正直ついでに、俺が本当に切り殺したいのは千華だ。あれはいつか、嶺王の障害になりましょう。俺にはどうにも、信用できない」

「口が過ぎるぞ。早く行け」

 燎原は、本当は嶺が左程怒っていない事を知っているが、頭を下げると慌てたように馬に乗り、自分の隊を集める。


 騎兵二百。李堪の兵に比べると半分以下である。

 燎原が将に命じられたのはつい最近の事で、元々はただの兵卒に過ぎなかった。大きな志など特に持たずに黎明国の 西の外れにある小さな村で狩りなどをして肉を捌いて売り暮らして居た所を、戦の話が舞い込んできて、軍に入ることを母に命じられた。

 幼いころより山で暮らし親しみ、獰猛な狼も簡単に仕留められるお前の腕ならば、国の役に立つだろう、と言われた。

 母に命ぜられれば逃げる訳にもいかず、仕方なしに徴兵に応じて、千華の隊に所属し先の苑攻に参加したのだが、街を火にかけ女を貪り、子供も老人さえも殺す彼のやり方に、腸が煮えくりかえる程の怒りと嫌悪感を覚え、女を嬲り殺しにしようとしていた兵士達を、手当たり次第切り伏せた。

 反逆罪でその場で処断される筈だった。

 燎原を救ってくれたのは、嶺軍大将軍の張叡ちょうえいであった。

 張叡も、千華を快く思っていない人物の一人で、燎原の最も尊敬している人物である。

 最も張叡が大将軍であると認識したのは最近の事で、最初の出会いといえば、千華に切り殺されそうになっていた所に偶然現れ、止めに入ってくれた時の事だった。

 一体自分の部下を切るとは何事だと、千華を糾弾した張叡に、千華は笑いながら言った。「自分の部下を先に殺そうとしたのは、この男だ」と。

 燎原はただ、悔しかった。自分が正しいという自負がある。間違った事をしていないのに、死ななければならないのか。故郷の母は、自分を罪人だと思って嘆き、病に倒れてしまうかもしれない。しかし、逃げる事は、できない。悪くないものを謝る必要はない。だから、何も言わなかった。言い訳をする必要はなかった。正しいのは自分である。

 張叡は自分と千華を見比べて、それから「要らないのならば、俺にそいつをくれ」と言った。

 軍においては、当然張叡の方が位が上。ここで断ったら、不敬罪で切り殺されて当然だ。なので、千華には燎原を張叡に渡す選択しかなかった。

 燎原はあの時の千華の、憎しみの籠った瞳を、死ぬまで忘れる事が出来ないだろう。

 あれは、人ではない。獰猛な獣だ。人から散々甚振られて成長した山犬の瞳だ。自分の獲物を取られた、という憎しみ。純粋に殺したいという欲求だ。

 だから、燎原は千華が信用できない。あの男の根本は恐らく、憎しみで出来ている。

 そんな人間が信用できる筈はない。

 いつか、機会があればあれは、自分も張叡も殺すだろう。

 張叡は、自分を嶺王に推薦し、将としての位を与えてくれた。自分にそれほどの力量があるとは思えないが、見どころがある、と、見込んでくれたらしい。

 期待には、応えたいと思う。それだけだ。

「未椰殿、俺の戦をよく見て下さい。そして、存分にあなたの策に役立て欲しい」

 燎原は聞こえる様に大声でそう言った。目の前の李堪がそれで尚更腹を立てたのが分かる。

 腹立ち紛れ、とも言える勢いで、李堪の軍が正面から突っ込んでくる。正面からぶつかれば不利だ。数に飲み込まれる。

 燎原が右手を上げると、二百の隊が真ん中で別れる。百づつに分かれ素早く走り出した騎馬を、李堪の五百が追う。追ったのは、燎原の率いる百で、残りの百には目もくれない。五百で百を潰すのは簡単だ。将を失った騎馬隊など敵ではない。さっさと燎原を打ち取ってしまおう、という目論見なのだろう。

 逃げる百を、大きな獣のような五百が追いかける。まるで野兎と飢えた狼のようだ。大地を土煙が覆い、馬の駆ける音が地鳴りのように響く。

 未椰は知らず震える指先を、袖の中に隠した。

 燎原の馬は、その隊は早い。数が少ない分身軽ではあるのだろうが、部下を顧みずに駆ける燎原に、隊はぴったりと付いて行っている。次第に足並みが乱れ始める李堪の隊を引き離したと思ったら、攪乱するように近づき、小馬鹿にするように離れる。

「燎原、貴様、新参者の分際で俺に楯突くとは!」

 李堪が苛々と怒鳴る。血気盛んなのは悪いことではない。怒りに目がくらみ、人を殺す恐怖を忘れる。

 けれど、策にそんな将を用いる事は難しいと、未椰は思う。

 嶺は未椰の傍らで、高らかに笑った。

「見ろ、李堪の本音だ。あれは張叡に燎原が目をかけられているのが気に入らないのだ。小物だな」

「そうと分かっていて、何故重用するのです?」

 未椰が尋ねると、嶺は目を細める。

「己の欲望を簡単に口にする者は、分かりやすくて良い。李堪には、上に登り詰めるだけの力と、醜さが備わっている。醜い者は嫌いではない」

「王は、変わっている」

「お前のように、清廉な水と空気の中で生きてきた人間には、理解できんだろうな」

「ええ。そうかもしれませんね」

 貴方に何が分かる、と、言いたかったが、実際その通りだった。

 未椰は寺に居る時も、苑の傍に居る時も、生身の人間と触れ合う、という感覚に乏しい生活を送っていた。

 戦場の空気、血の匂い。それは生そのものだ。いかにも生々しくて息が詰まる。どこか、他人事のように感じる。

「嶺王とて、人の中で過ごされたとは、思えませんが」

「俺は、憎まれて生きてきた。気付けば俺の周りには誰も居なかった。それだけだろう」

 己を憐れんでいるような響きではなかった。

 無論、そのつもりも無いのだろう。嶺にそれほど似合わないことはない。ただ、自分が尋ねたからそう答えただけだろうが、何故だか少し寂しいような気がした。

「李堪の気迫を見ろ。あれは本気で燎原を殺そうとしている。愉快だな」

 眼前では、李堪の騎兵隊が、燎原の百騎の尻尾を掴もうとしていた。

 五百が迫る。何故か燎原の騎馬は歩調を緩めているような気がした。燎原の百が、五百に飲み込まれようとしている。その時、不意に空から矢束が降り注ぎ、五百の騎馬と大地に突き刺さった。その場に何騎か崩れ落ち、途端李堪隊の足並みが崩れる。燎原の騎馬達はぐるりと回り込むと、足並みの乱れた李堪の隊の側面に、槍のように切り込んだ。

 息つく間もない強襲に、落馬する者が現れる。殆ど跳ね飛ばされるような形で、李堪の騎馬隊が崩れていく。後方と 側面からの突撃に弱いのは、どんなに鍛えられた騎馬でも同じだ。強襲はその一度きりだった。

 別離した百騎はいつの間にか燎原隊の対面、李堪隊を挟みこむ位置に移動し、槍の代わりに弓を持っている。その百騎と合流し、燎原の隊はゆっくりと嶺の前に戻ると、整然と並んで足を止めた。損害は出ていない、らしい。

「嶺王、勝敗は決しました。満足頂けましたか」

 燎原が、いう。戦勝報告にしては、自慢げな響きなど微塵もない。

「燎原、何故殺さなかった?」

「……先程は大きな事を言いましたが、俺に、李堪殿を殺す度胸はありませんよ」

 落馬した李堪が、痛む体を抑える様にして、部下に支えられながら馬に乗り、軍を整えると燎原に一足遅れ嶺の元にやってくる。

「李堪殿、申し訳ありません。出過ぎた真似を致しました」

 燎原は李堪の為に馬を一歩下がらせた。そして、頭を下げた。

「……いや。情けないことだ、大きな事を言って、結局一手も及ばなかった」

 だから、殺されなかった事に余計腹が立つ、と、李堪は言う。そして「嶺王、自分は負け犬として恥をさらす気はありません。どうぞ、この場で処断して頂きたい」といった。

「俺は皆殺しにするつもりでやれ、と言ったはずだ、燎原。中途半端な戦を見せた貴様達は同罪だ。そうは思わないか、未椰」

 嶺は李堪に取り合わずに、燎原を厳しい瞳で見据える。話を振られて、未椰は嶺の頭一つ分高い位置にある顔を見上げた。

「私は文官ですから、お二人の言い分は分かりかねますし、意見することは不可能です。ただ、軍師の立場から言わせて頂くのならば、燎原殿が李堪殿に今の戦術で勝つことができるのは、これ一度きりでしょう。数の暴利、力の差で勝てない事を分かっておられたから、不意打ちと強襲で李堪殿だけを狙った。しかし、同じ手はもう使えない。さて、本当にお強いのはどちらか。今の戦だけで判断できるものでしょうか?」

「小煩い女だな、お前は」

「それだけが取り柄ですので」

 嶺に睨まれたので、未椰は微笑む。

 嶺は不服そうに鼻を鳴らした。

「しかし、嶺王。王は今の調練で無駄な命を散らせた。これ以上続けるというのならば、貴方はただの愚か者です」

「愚かと言ったか」

「犠牲が出る前に、言えば良かった。しかし、李堪殿が納得して下さらない様子に見えましたので、口を挟みませんでした。失われた兵達に、申し訳ない事をしてしまいました。私が来た所為でこのような調練をするというのならば、二度と此処には足を運びません」

 嶺の鋭い目を睨み返し、未椰は言う。

「喧しい上、強情だなお前は。人の命がそんなに大切か」

 燎原と、李堪は何も言わずに幾分驚いたような面持で、嶺と未椰のやり取りを眺めていた。嶺に此処まではっきりと 否定的な意見を言う人間を見るのは、家臣にとっては初めての事である。王に唯一意見の言える人間として、瀞が居るが、彼の場合は意見といっても、嶺に対して甘い部分があり、武官が理不尽に殺されようが、別段口を挟んだりしない。

「私は一国を潰しました。これ以上、無益に命が失われる事を、好みません」

「下らない」

 嶺は吐き捨てる様にそう言うと、興が冷めた様に、続ける。

「自己過信して、負ける将など、要らん。自らの策に溺れる将も要らん。圧倒的な力で相手を押しつぶせない暴など、無駄な物だ。李堪、お前は燎原の副官になれ。李堪の軍は燎原の軍に統合する。最初からそういう話だった、異論はないな」

 吐き捨てる様にそう言って、嶺はその場から城の中へと戻っていく。

「未椰、何をしている、来い」

 そう怒鳴られて、未椰は燎原と李堪に礼をするとその後を少し遅れて追いかけた。

 嶺は足が速い。

 足が速いというよりも、背が高いのだ。

 未椰が小柄だ、と言う事もあるが、隣を歩くためには走らなければならず、小走りでやっと隣に並んだ所で、それは一瞬の事で、気づけばすぐに引き離されて、その背を眺める事になる。

 呼ばれたからには、何か用があるのかと思ったのだが、そうではないらしい。

 特に言葉を交わす事も無く、ただ嶺の背を追いかけるだけだ。


「――未椰」

 名前を呼ばれる。立ち止まり振り向いた嶺の顔を見上げた。

 苛立っている様に見えた。

「嶺王、先刻の事でしたら」

「そんなことはどうでもいい。――戦は、まだか」

「焦れていらっしゃるのですか」

「あぁ、俺の剣は血を求めている。脆弱な兵や将の相手は、もう飽きた。屠りたいのだ、未椰。お前の下らん策も、どうでもいいと思うときがある」

 嶺の苛立ちは、分かるような気がした。

 何かを待つ時間は、永遠のように長く感じられる。

 嶺は、半分では策が必要であると思っているが、もう半分ではそんな小賢しい真似をしなくとも、自分が戦に出れば必ず勝てる、と思っているのだから、尚更の話だ。

 未椰は雪を待っていた。

 琉には雪が積もる。行軍を完全に足止めしてしまう程の雪だという。王都は山腹にあり、周囲を山に囲まれた自然の 要塞であるが、それは逆に言えば王都からも進軍が困難ということだ。

 雪と言う足枷を盾に、外堀を埋めていく。嶺の国には雪は降らない。撤退も、進軍も琉に比べれば格段に容易い。

 今のところ、琉を相手に戦をするには、これしか方法はないように思えた。

 間者を何人か紛れ込ませて、琉の様子を探っている。

 桂林は湊との国境ともあって、警備の目はかなり厳しいようだ。理凛を攻める、ということを知っているのは、未椰と嶺、それから部隊を与えられた将達のみであり、表向きには冬に桂林を攻める、と言う事にしてある。それ故か、徐々に桂林に王都からの部隊が送り込まれているらしい。

 嶺国は苑への侵攻の所為で注目を集め警戒されている。此方にも何人か入り込んでいると思ってまず間違いない。

 しかし、未椰はにはこの城は馴染みがなさすぎる。炙り出しは困難だろう。

 沁が倒れたばかりで、この国に限らずとも、大陸全体が浮足立っているように思えた。注目を浴びているのは嶺ばかりではない。琉にとっては、まず気になるのは奏、なのだろうが。

「――もうじき、です、嶺王。椿が落ちれば、冬は間もなく。瞬きをする間に山地は雪に覆われる。それまでは、今しばらく時をお待ちください」

 苛烈過ぎる眼光が、真っ直ぐに見下ろしてくる様は、日差しが強すぎる縁側で金縛りにあって動けずに、ゆるりと肌を焼かれていく感覚に似ている。

 役に立たないという判断が下されたら、嶺は迷わず自分を切るのだろうと思う。

 回廊から、中庭が見える。

 落ちた赤い実を、名前も知らない黒い小さな鳥が啄ばんでいる。

 戦を切望しているのは、自分も同じだ。

 小さな箱の中に無理やり押し込められて転がされている圧迫感を、常に感じる。

――果たして、私は嶺の勝利を、求めているのだろうか。

 憎しみと言う燃えたぎるような感情も無く、悲しみと言う四肢を引き裂かれるような感情も無く、ただ呼吸を繰り返して居る。

 それは生きていると言えるのだろうか。

「お前は――、不思議な女だな」

「おっしゃる意味が、分りかねます」

「怖くはないのか」

 嶺の武骨な手が、首に回った。

 片手だけで、首を捻る事ができるほど、それは力強く大きい。

「私は、いつ死んでも構わない身です。それなのに、貴方を恐れるなど馬鹿げているとは思いませんか」

「お前が死ぬことは、無い。俺が天を掴むまではな」

 嶺は口角を釣り上げた。

 多分笑んだのだろう。



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暴虐な王と敗国の軍師 束原ミヤコ @tukaharamiyako

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