第4話 入部(その4)

 教室に戻り席に座ったとたん、カレンの周囲には男子と女子生徒が押し寄せてきておりどうやら効果を歌っていた時のあの歌唱力に見惚れてしまっていたみたいだ。


 「ねえねえ、カレンさんめっちゃ歌上手かったよ」


 「俺もマジで凄すぎて声が出なくなっちゃったよ。マジでやべえよ」


 クラスメイト達はカレンの歌声を大絶賛。


 「私はそんなにすごくないよ、ただ歌うのが好きだから全力で歌っていただけで…」


 カレンは謙虚になりながらもクラスメイト達は目を輝かせながら注目していた。入学初日でここまで人気者になれたカレンは(みんな褒めてくれるのは嬉しいんだけど…)と内心思っていた。


 「カレンさんは当然スチューデントアイドル部に入るよね?私も入るつもりなんだけど」


 明日奈がカレンにそう伝え、裏を返せば一緒に入ろうと勧誘しているようにも思えた。


 「その…私軽音楽部に…」


 「取り敢えず終わったらスチューデントアイドル部体験入部しにいこうよ。一応高校入る前に一度見学させてもらったから知り合いもいるの」


 カレンの話を最後まで聞かずに明日奈は強引にスチューデントアイドル部に勧誘しておりカレンはどのようにして断ろうか考えていた。カレンの頭の中で中学の頃のトラウマがよぎっていた。スチューデントアイドルが好きな中学の同級生がカレンの歌声とイラストをバカにして虐めていたことを。


 (どうしよう…軽音部に入るつもりでこの学校を選んだのに明日奈ったら最後まで話を聞かずに勝手にスチューデントアイドル部に入部させようとしているわ…)


 どうにかして明日奈に本当のことを伝えようと必死に努力をしていたのだが明日奈は一向に話を聞く様子はなく延々とスチューデントアイドルの話しばかりをしていた。


 「スチューデントアイドルっていうのはね、アイドルファイトって大会に出場する人達を意味していて歌やダンスなどのパフォーマンスを競う大会で現在爆発的に人気で全国大会まで開催されているんだよ」


 「そっ、そうなんだ…」


 カレンは苦笑いしながら明日奈の話を聞き流しているのだがあまりにも話が長すぎてタイミングを切り出す暇さえ与えてくれない。


 「明日奈、あんたが強引に誘っているせいでカレンさん困ってるみたいだからそのぐらいにしなさいよ」


 後ろからカレンのことを心配する声が聴こえた。


 「別に私強引になんて誘っていないわよ、ともえ


 明日奈はセミロングの巴という少女にそう言い、それを見ていたカレンは(今なら明日奈にちゃんと言える)と思いはじめ声を出そうと口を開いた。


 「明日奈、軽音部に入るつもりだからごめんね。せっかく誘ってくれたのに…」


 カレンは申し訳なさそうに明日奈に謝った。


 「えっ、カレンさんも軽音部に入るの?私と一緒じゃん!それでね、私はギター担当予定よ。勿論カレンさんはボーカル予定だよね?」


 巴はカレンが軽音部に入ると言った瞬間、カレンに近づきながら同じ仲間がいたという喜びからなのかテンションが高くなる。


 「ボーカル志望だけどダメならギター担当しようと考えてるの。早引きは無理でも簡単なハードロックのリフは弾けるように練習しているから」


 「カレンさんは歌だけでなくギターも練習しているんだ~、それならやっぱりカレンさんはスチューデントアイドルなんかより軽音部に入るべきよ」


 明日奈は巴とカレンの話について来れず訝しそうな顔をしながら肩を竦めていた。

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