第3話 入部(その3)

 校長の長話が終わり、国歌斉唱と校歌をその場にいた全校生徒と教師が歌い始め、カレンも音程を合わせながら美声で歌い始めた。


 カレンの歌声に注目しているのか全校生徒の声量が落ち、教師達も見惚れてしまう程で世界的アーティストがやってきたのでは?と錯覚してしまう程にそこにいた人たちの開いた口がふさがらない状態であった。


 明日奈はカレンの歌声に合わせながらハモリ始め、負けじと対抗していたのだがカレンの歌唱力には遠く及ばず良くて日本でまあ通用するだろう程度の歌唱力であった。


 (やっぱりカレンはすごいなぁ…私じゃ到底敵わないよ)と内心思いながらも自分はカレンと真剣に歌唱力バトルできたことに悔いはないようでもっと腕を磨こうと思っていた。


 「あの一年生、ただものじゃないわね…うちのスチューデントアイドル部に入れば確実に有名になるわ」


 二年生の黒髪清楚系美少女がカレンの歌声を聴いてその才能を見出していた。


 「でもさぁ、あの子入ってくれるかなぁ…みりあ」


 「絶対入ってくれるわ」


 「とか言いながら去年新入生勧誘した時は誰も来なかったじゃない…もしこれであの子が入らなかったら…」


 「もっと前向きにいこうよ。そんなんじゃ勝てる試合も勝てなくなるよ、しずく


 雫は肩をすくめながらハァっとため息をつく。それでも前向きに希望を見出すみりあについて行こうと考えた彼女の行動は雫の許容範囲である。


 だが彼女達はカレンがスチューデントアイドルに嫌悪感を抱いていることを知らないからみりあは簡単そうに言うがカレンをスチューデントアイドル部に引き込むのはかなり至難の業だ。


 カレンはロックとアニメが大好きな少女であるため軽音楽部に入りたいと希望しており、高校受験の際は軽音楽部の有無を確認してしまう程であり体験入学の日に部活見学を行っていたりと入部の約束もしている。


 (やっぱり歌って楽しいなあ、どうしてみんなは途中小さな声になったんだろう?)カレンは内心声を小さくして歌う理由が自分の歌声であることに全く気付いておらず、肩を竦めながらも頬っぺたをパンパンと叩き考えるのを辞めた。


 「続きまして、新入生代表のカレン・スペンサーさん壇上へ…」


 みりあが行事の書かれた用紙を見ながらマイクでカレンの名前を呼び、それに反応したカレンは「はい!」とハキハキとした大きな声でパイプ椅子から立ち上がり、壇上へと上った。カレンは成績優秀で、全教科満点を叩きだしそれを見て驚いた教師達は迷うことなく新入生代表に抜擢していた。


 カレンはイギリス系アメリカ人で日本には5歳の頃から在住しており日本語もかなりの流暢でテストも常に満点を取るようなラノベあるあるの完璧美少女ではあるのだが少々天然な一面があり場の空気を和ませたりしていた。


 新入生代表であるカレンは壇上で封筒から用紙を丁寧に取り出していた。


 「桜咲く春が訪れ、私達は無事に星浦高校の入学式を迎えることができました。本日はこのような素晴らしき入学式を行っていただき誠にありがとうございます。高校での三年間の生活が始まるということで期待と不安が入り交じり先生や先輩方に色々なことを教えてもらい、一片の悔いなき学校生活を過ごしていきたいです。先生方、先輩方、並びに来賓の皆さま、私達への激励のお言葉ありがとうございました。これから厳しく、優しいご指導のほどよろしくお願いします」


 スピーチを済ませたカレンは用紙を封筒に戻し、壇上に納め階段を華麗に降り眼前にいた男子生徒達は一瞬にして鼻血が勢いよく出ており、ポケットティッシュをちぎり鼻の穴を塞いでいた。

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