第15話 本戦に向かって
空良がみんなに請われるままにポーズを取っている間にも休み時間が過ぎていって終わりのチャイムが鳴ってしまう。教室のドアを開けて先生がやってきた。
クラスメイト達はすぐに自分達の席に戻っていく。空良も戻ろうと慌ててブレスレットの宝石に手を触れた。
「確かこうすれば良かったんだよね」
校長先生に教えてもらった手順で操作する。こうする事で神秘のヴィーナスクロスは腕輪の宝石に収納され、空良は元の中学校の制服姿に戻るのだ。
これがどういう仕組みでそうなっているのか空良には分からないが、これも異世界からもたらされた技術なのかもしれない。
空良にはリモコンのスイッチを押したらなぜテレビが付くのかの仕組みもよく分かっていないので、中学生が考えるだけ無駄なのだろう。
今は授業が大事。空良は自分の席に着く。だが、なぜか先生は教壇に立ったまま空良の方を見て落胆したため息を吐いていた。彼はぽつりと漏らす。
「先生にも一条さんのかっこいいところ見せて欲しかったなあ」
「ああ、見せます見せます! 装着!」
求められればつい空良は調子に乗って披露してしまうのだった。
少し調子に乗りすぎた。その次の授業は女の先生でさらに調子に乗った空良は自分のかっこよさを披露するのだが、今は授業中だと怒られてしまった。
「失敗した。せっかく試合を上手く運べたのに……また失敗しないように気を付けないとね」
数日後にはまだ大会の本戦がある。本番はそこからだ。落ち着いて臨もうと空良は決意するのだった。
そして、いろいろあった今日の学校生活が終わった。挨拶を交わし合って教室を出て行く生徒達。
空良のところにも乃々と寧々がやってきた。
「じゃあね、ソラヨシ」
「本番はこれからなんだから怪我するんじゃないわよ」
「うん、分かってる。ありがとう」
教室を出ていく二人。みんな応援してくれている。今日は上手くやれた。
満足の行く気分で空良も鞄を持って教室を出ていくのだった。
みんなの後に出たので廊下は少し静かになっていた。空良が昇降口を出ようとすると声を掛けてきた人がいた。
「一条さん、少し話をしたいのですがいいですか?」
「まどか会長」
声を掛けてきたのは決勝で戦ったまどかだった。勝負で勝ってしまって空良は気まずく思うのだが、まどかは気にしていないように微笑んでいた。
下校する生徒達の邪魔にならないように人気のない場所に移動してから、まどかは話を切りだしてきた。
「実は一条さんにお願いしたいことがあるのです」
「あたしにお願いしたいこと?」
もしかして代表の座を譲ってくれとかヴィーナスクロスをくれとか言われるのだろうか。もしそうなら空良は上級生の頼みでも断るしかないのだが。まどかはそんなしみったれたお願いはしなかった。
「本戦に進めば去年わたしを負かした相手、彼女が今年も出てくるかもしれません。もし戦う事になったら空良さんにはわたしの代わりに彼女を倒してもらいたいのです」
「何だそんな事……って、そんな事!?」
空良は代表になったという事態を甘く見ていたのかもしれない。まどかは強いけれど去年の大会で優勝していない。本戦になればもっと強い者達がごろごろと待っているのだ。
だが、怖気ずくわけにはいかない。空良の目標は優勝しかない。だから、強く頷くのだった。
「分かりました。あたしがきっとその人も倒して優勝もしてきます」
「一条さんならそう言ってくれると思っていました。わたしは嬉しいんですよ。この学校からわたしより強い人が現れたことが」
「は……はあ」
確かに三年生が相手でも一撃で沈めてしまうまどかにとっては、身近に戦える強い者がいるのは嬉しい事かもしれない。
空良はただ自分の精一杯を出して戦うだけでいっぱいいっぱいだったが。
「二年連続出場の実績を持って高校の推薦を受けられなかったのは残念ですが」
「それはごめんなさい」
「一条さんなら任せられます。彼女の名前はシュークハイヴァー、雷の剣の使い手です」
「シューク……それって異世界人ですか?」
日本人の名前とは思えない。本戦は女神のお膝元、異世界クインバースで行われると言われている。誰が出てきても不思議ではない。
まどかはそれ以上は答えてくれない。本戦に出て自分で掴めということだろう。
「あなたのこれからの活躍に期待しています」
一礼して去っていく。見送ってから空良は
「生徒会長から宿題を受け取ってしまったな」
そう思うのだった。
張り合いがあるのは悪い事では無い。より一層頑張ろうと思える。
家に帰って両親も揃った夜の時間。空良はもりもりとご飯を食べていた。
そんな娘を両親は苦笑して見守っていた。
「今日の空良はよく食べるなあ」
「うん! 本戦に備えてもっと強くならなくちゃいけないからね!」
「空良が大会の本戦に出るなんて感慨深いものがあるわね」
「あたしはきっと優勝するよ。誰が来ようと勝ち抜いてみせる!」
空良は強い決意を露わにする。誰にも負けない為に勝つ為に。
今は美味しいご飯を食べるのだった。
スカイブレイダー けろよん @keroyon
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